トランプ宣告
盗賊の遊びと言われてついて行くと。
そこは例の美少女カウンターしか居ない店の入り口で。
『こうして、こうする』
下扉の開け方を教えてもらった。
「昨日は遊び場があるように見えなかったが?」
「昼の盗賊は暇なんだ」
こんな明るい時間帯に盗みを働くのは難しいか。
「そんな盗賊は金を掛けたゲームで稼ぐことを思いついた」
「奪い合い?」
「そうだ、楽しく遊ぶ程度ならエムでもできる」
無音の扉をくぐるとガヤガヤ。
前に来た時にはなかった円形のテーブルが乱立していた。
「空いた席に行こう」
カゲに誘われてフラフラついていく。
「座れ、エム」
言われてガタンと座る。
少ししてから男が前に座ってきた。
『勝負をさせてもらえるかな?』
「構わない」
座った男は一枚の金を払う。
「遊び程度なんでね、これくらいしか出さない」
「そうか」
カゲが透明なままチャリンとコインを投げた。
「見ない顔だ、ルールは?」
「知らな」
間を挟んだカゲが「知っている」と余計なことを言う。
「なら、いいか」
見慣れたトランプをカシャカシャと混ぜた男は俺と自身に五枚ずつ配る。
「見て、それから」
カードを寄せて五枚をまとめて上げる。
相手に見えないように確認した手札。
1、5、8、J、K。
さて、まるで分からないんだが。
『教えて欲しい?』
耳元でフッと囁くカゲ。
「そりゃな」
「JとQとKはエースに勝てないよ」
周りに聞こえない優しい声が耳元で熱っぽく届いた。
「それで?」
「絵札の中でKが一番強くて、Jが弱い、数字はエムの予想どおり」
これを一枚ずつ公開し、勝敗を五回決めるらしい。
「エムのためにイカサマをしてあげよう」
「ダメだ」
直感でカゲの手を引き、勢いのままに俺の膝に座らせた。
「ここで大人しくしといてくれ」
「……うん」
しかし、どれ出したらいいのか分からない。
「そろそろ、勝負と行こう?」
「あ、ああ……」
「セット」
言葉に合わせてテーブルに伏せられる一枚のカード。
俺も遅れて伏せ、合計二枚。
「オープン」
声と共に開示されたカード。
俺のジャックと相手のクイーン。
「これは、こちらの勝ち」
俺のカードは横を向いて伏せられ、その上にクイーンが縦に半分だけ乗る。
まるで絵札と絵札が屈服したような。
「もう一度、考える時間だ」
うーんと考えているとカゲが「エム、大胆に生きてもいい」と助言。
よし、決めたぞ。
「セット、オープン」
ペラリと捲られたカード。
俺のキングと相手のエース。
「また勝ってしまったみたいだ」
すまないと謝るカゲ。
「俺に運がない」
手をカゲの頭に乗せて怒ってないことをアピールする。
「ここから、勝てばいい」
「頑張れエム、カゲは応援している」
よしよしとカゲの善意にあやかり。
そして俺は敗北した。
「……カゲのせいだな!」
「そんなっ!?」
カゲと一緒に席を立ち、代わりにルビーを座らせる。
「にゃー?」
「託したぞ、ルビー」
一枚のコインが二人の間で跳ねる。
「はは、安金に大げさだよ」
「かもしれないが、それがいいんだろ」
「同意するよ」
パラパラと届いたカード。
「取るんだぞ、こうやって」
「にゃ!」
パンチのようにシュッシュと集めたルビーは「にゃんにゃん」と歌いながらカードを横に纏めて広げる。
俺の姿を後ろで見ていたのか、広げる動きだけは一丁前だな。
さて、カードは……。
2と2と2と2とK。
『にゃ?』
猫に小判という、神のお告げだった。




