ホウセンカの実態
ギルドの中は優雅な空気が舞っていた。
それもそうだ、気品溢れる美女しか居ない。
男なんて俺しか居ない。
『みんな、新規加入者よ』
シンスが手を叩くと気づいた美女が贅沢な椅子に腰掛けていく。
家具の高級加減から、最強なのは手に取るように分かった。
「あらあら、かわいい男の子」
上品な声に震える。
「あなたが座る椅子はないけど、理由は分かる?」
そう言うシンスは立って話してくれる。
「今後、座ることができるんですか?」
「質問を質問で返さないで」
失礼な事をしたと、俺は頭を下げて答えた。
「理由はわかりません」
「じゃ、剣を抜きなさい」
言われた通りに腰の剣を抜く。
細身の剣はソランがドラゴンを倒す為にくれた物。
ソラン曰く、最強の剣だと。
『ぐっ……』
誰かが唸るようにドンと音を鳴らす。
『そんなゴミでホウセンカの門を叩くとは……シンス殿、切り捨ててもよろしいか!!』
「お好きに」
シンス様ひどい!
「サクラ剣術にて切り捨て御免!」
テーブルに乗った少女が宝刀に手を添える。
やばい、やばい!
どうしてギルドに男が居ないのか分かった気がする!
『舞え、血染め桜!』
桃色だった髪が白に変わり。
粒子の花弁がヒラヒラと散る。
「コノハが本気出してる」
「可哀想に」
ヒュッと空気が揺れ、気が付くと刀が振られていた。
キンッ――
最強の剣でなんとか凌ぐと。
「なっ」
驚きの声がフツフツ上がった。
「コノハ、破壊剣術を使ったんじゃ?」
「そ、そうだ……」
コノハが刀を収めると髪がピンク色を取り戻した。
最強の剣だから壊れないぞ!
「あなた、前のギルド活動を報告できる?」
とりあえず報告した!
掃除とソランの身の回りを担当して、ギルド交易もして、嗜好品の買い出しと料理もメンバーに振る舞って、夜は魔物の素材で資金調達をしていたと!
「……いつ寝ておられるのだ?」
コノハが興味を持ってくれたみたいだ!
「寝てない」
「は、はあ?」
「寝たら全部できない」
それから俺の武勇伝タイム!
「ドラゴンに丸呑みされた」
「どうして?」
「さっき話したソランがドラゴンの鼻に木を投げたから、身を呈して庇ったら」
いやー、大変だったなあと笑う。
それより大変だったドラゴンとの戦いもあった。
「胃袋を斬ってなんとか」
「その剣で?」
シンスに聞かれて頷くと。
他のメンバーとコソコソ話を始めた。
「こいつやばいわ」
「どうしよ」
なんか聞こえる。
「よし、あなたの加入は認めておくわ!」
「ありがとうございます!」
加入させてくれたみたいだ!
「前のギルドは遠い街のようね、まずは15分だけ与えるからこの街を覚えてきて!」
「頑張ります!」
俺はギルドを後にして街をぶらぶら走った!
『コップ一杯の水を、100ヘルで頼めますかい』
ふむふむ、お金の単位は前の街と一緒なんだな!
クエストワークと呼ばれる建物で貼られた紙を見てみる。
ドラゴン討伐、ドラゴン討伐、ドラゴン討伐。
やべえ依頼だらけだな!
この街の名前はホウセンカ。
ギルドが強すぎて一緒の名前になったみたいだ。
もしかしたらホウセンカギルドが街を仕切ってるのかもしれない。
そろそろ時間だから戻ろう。
15分なんてハードな時間だ、走らないと。
ギルドの門を叩く。
……開かない。
開けてくれ! 15分過ぎる!
ドンドン叩くとカチャリとシンス様が。
『時間が守れない人は嫌いだから』
え、なにそれ。時間は守ったのに。
「中に入りたいなら、その剣くれない?」
美人に言われるとゾクゾクするな!
「この剣に何か秘密が」
「ないわ」
そう言って俺から大切な剣を取り上げる。
年季が入った鉱石製で、血と涙で研いだ剣。
「この剣は、子供が教育で作らされるようなゴミ」
大切な剣が罵倒される。
「普通なら1000ヘルもする鉄の剣、子供の剣は10ヘルでも買い手がいるかどうか」
「でもソランが最強だって」
シンスは、違うと首を横に振った。
『重くて切れ味も悪くて壊れやすい、こんなゴミでギルドを跨がないでくださる?』
シンスが床に剣を叩きつけただけで。
細身の剣はガキンと壊れ、踏まれただけでパキパキと砕け始めた。
「……」
なんとも言えない気分だ。
ずっと使ってた剣を壊されるのは複雑。
その中に快感もある。
「代わりにこれあげる」
渡してくれたのは白銀の剣。
貰い受けると軽さに驚いた。
まるで空気が詰まった袋を持った感覚。
「どれほどのゴミを使ってるか、分かった?」
シンスが砕けた剣にペッと唾を吐いた。
屈辱的な快感に、クラッと。
「……ああ」
「その剣を持って、早く来なさい」
今までの歩みをバカにされてギルドに足を踏み入れる。
『さっきは、すまないことを……した』
コノハが他所を見ながら謝ってくれた。
大丈夫だと答えてホウセンカギルドの会議を見つめる。
「さっきも話した通り、彼にはあの役目をさせましょう」
「カワイソウダヨー、カワイソー」
「じゃあクレアがする?」
「可哀想じゃないね、当然の結果だよ!」
シンスの提案にツインテールの女の子が態度を変えてしまった。
『あなた』
シンスが俺を見た。
「はい!」
『さっきあげた剣で大金を稼いできて』
「大金?」
うーんと顎を撫でて悩んだシンスが。
「100億ヘルくらい?」
よーし、がんばるぞー!