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全てを受け止めていたら最強になっていた。  作者: 無双五割、最強にかわいい美少女五割の作品
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仕事日和








「お、怒られるぞ?」


『慣れてるっ!』


 ミストの進むがままについていく。


 ギルドを飛び出てつまづく。


「ちょっと、待ってくれ」


「いいよ」


 周りを見ると片側だけが崩れている。


 ギルド側はいつも通りなのに、前は灰色の石だらけ。


 後ろを別世界から切り取ったような。


 それでいて風は対等に今と過去を跨いでそよぐ。


 その時は気づけなかった状況に後ずさる。


 今じゃなくて過去に居たい。


『逃げちゃダメだよ!』


 ミストは力強く手を引いて胸元に俺を招く。



 暗闇にミストの匂いが広がる。


「逃げても変わらないんだから!」


「そう、だな」


「頑張ったら変わるかも!」


「変えていこう」


 息に詰まって見上げるとミストと目が合う。


「ちゅー」


 迫る唇を人差し指で遮断する。


「変えていく」


「んむーっ」


「したとして俺は怒られるんだぞ」


「ミストも怒るよ! ……これで怒られることに慣れたらいいと思うよ?」


「そろそろ離れてくれ」


 ミストを押して振りほどいた。


「怒ったー!」


 申し訳程度にミストの冷えた握り拳を両手で包む。


「怒ってなーい」


 扱いには、慣れたな。


「そうか」


 薬草が沢山あると聞く森の中にやってきた。



 草原を跨いでちょっと遠かった。二度と来ないようにしないと。


「よーし! がんばる!」


 ミストは膝をついてぶんぶん首を振って探してくれる。


「……」


 いつの間にか、じーっと俺を見ていた。


「なんだ」


「どれが薬草?」


 コテッと首を傾げてちぎった草花を見せてくる。


「これだ」


 ミストの手の中にある花の根を示す。


「根っこだから、丁寧に取らないといけない」


「なるほどー!」


 せっせとミストは爪に土を食わせて花の根こそぎを奪う。


 俺も鉄の爪を立てて……と思ったが、カゲの為に外したんだった。


 どうしよう?


「まだ、真横でするつもりか?」


「そうだよ!」


「効率が悪い」


「リュウキくんの隣がいーい!」


 どれくらいあれば足りるのか聞いておくべきだった。


 せっせと続けた作業を終える気にはならない。


「ふーふふーん」


 ミストは鼻歌に花を咲かせて黙々と引き抜く。


「あっ!」


 突いていた左手の上にミストの手がズンッと重なる。


「意図的に乗せてきたんだろ」


「意図的だったら全体重は乗せないよ、バレちゃうから……」


 パチパチ瞬いては俺の視界に入り込む。


「手が止まってる、終わらない」


「はーいっ、ん」


 一瞬だけ擦り寄ってきたミストは口で頬に触れていく。



「……」



 そろそろ根の山ができる頃。


「ミストは隣町で何してたんだ」


 適当に話しながら片膝を犠牲に手先で掘る。


「力仕事!」


「想像通りだな」


「まー……」


 プチンと草をちぎるミスト。


「そろそろ戻るか、これくらいあれば文句ないだろ」


 何かに詰め込まないと運べない程度には頑張っていた。


「ちょっとだけ、もらってもいーい?」


「半分以上ミストが取ったんだぞ、好きにしてくれ。こんなに必要なのかも分からない」


 ミストは右手で頂点の根を鷲掴んで手元に置く。


 ポケットからピンク色のハンカチを広げてその上に花を丁寧に並べる。


 髪を揺らしながら好きなだけ摘む姿は美少女。


「……何に使うんだ?」


「お薬作るんだよ〜」


「作れるのか」


 唇がむっと丸く隠れる。


「心外だよっ!」


 手早くキュッキュと根を包むとゴソゴソポケットに落とし込む。


「怪力野郎でもお薬作れるもん」


「わかったわかった」


「想像通りじゃなくて、意外に力持ちなだけだもん、もんもん」


 手先を曲げて不満げに口元を撫でながら、目線を草に落とす。


 さっきの言葉も根に持ってるみたいだ。


「ミスト……」


 そんな根を俺もポケットに収めて帰り支度を進める。


「とにかく、帰るぞ」


「やだやだ!」


「道草は食うためにあるんじゃないぞ、愛でるためにある」


 座り込むミストに近づく。


「またドラゴンが来たら、ミストがすぐに追い返さないと行けないんだぞ」


「そう、かも」


「力持ちかどうかは関係ない、力を貸してくれ」


 手を伸ばすとミストは握ってくれた。


 引っ張って立ち上がらせる。


「帰る!」


「その気持ちだ」


 そして手を払う。


「……」


「ぶんぶん振ってどうしたの?」


 ミストの握力がそれを許してくれなかった。



「帰るぞ」


 そして帰ってきた。道草は食わなかった。


 ホウセンカに戻ると誰よりも早く呼びつけてきたのはシンス。


『来なさい』


 シンスに出すもの出せと言われて薬草を出す。


「あー……カゴとか渡せばよかったわ……」


 少しの土まみれは仕方ない。


「もう終わりでいいか」


「ま、まだよ、今度は資金」


 話を聞くと炭鉱夫をしてくれという話だった。


 クレアとしたピッケル作業はとても効率が良かったみたいだ。


「確かにミストの力があればすぐ終わるな」


 ミストはうんうん頷いて肩を寄せてくる。


「いや、前と同じでクレアとしてもらうつもり」


「うぇっ!? なんでー! カエルのことなら謝るから〜」


「ミストには力仕事をして欲しい」


「えーー」


「今回の被害は笑えない、さあいったいった」


 シッシとあしらわれるミスト。



「リュウキくんからも、何か言ってよお」


「頑張って日常を取り戻すんだ」


「またお別れ……」


 周りを見てミストの背中を出口へ押す。


「外まではついていく、だから頑張れ」


 不満そうにしながら俺に足並みを合わせるミストは分かってる。


「そうよ、ミスト」


「げっ」


 振り返るともうクレアが!


「なに? 文句あんの」


「な、ないぞ」


 睨み調子で腕組みをしている。


「そ」


 どうしてクレアはこんなに不機嫌なんだ?


 ミストと外に出て、ついてくるクレアから距離を取る。


「にげるつもり?」


「違う、秘密の会話だ」


「ふーん」



 ミストに耳を貸せとごにょごにょ雰囲気を作る。



「動くな」



 クレアから見えないように。ミストと少しだけキスをする。



「んん……」


 ミストは後ずさってクルリと背を向けてしまった。


 まだ、もう少ししてあげれたのに。


「ミスト?」


『が、がんばれ、そう!』


「お、おい」


 振り返りもせずにパタパタ走り去っていってしまった。


「え、なにしたの、あんた」


「がんばるコツを教えてやった」


「確かにそういうの詳しそう」


 クレアと掘るのは最初以来だな。


「早めに動くぞ、掘るものは?」


「そこ」


 指された場所には前もってピッケルが立てかけられている。



「結構な本数だな、こんなに使ったとしてどうするんだ」


「誰かの報酬になったり、交易材料になったり」


「それが俺の報酬にならないことを祈る」


 ホウセンカを抜けて、前に行った洞窟にやってきた。


「久しぶりだな」


「そうかも」


 クレアの人差し指に宿る火灯りを頼りに進む。


 この洞窟は前より深くなっている。


 ここから先は火がないと見えない。 


「もっと火は強くならないのか」


「適当に密着しとけば?」


「できれば前に立ちたいな、暗闇は危ないからな」


「あんたが居ても変わらないし」


 その闇の中で僅かな灯火を返す丸い輝き。


 それは獣の目にも似ていて。タッタッと駆けて近づいていた。



 パツンと跳ねる音。



「危ないじゃないか」


 クレアから身を乗り出して左手を差し出す。


 食いついた獣がグルグル唸る。


「えっ、え」


 獣と一緒に壁を殴りつけて息の根を止める。


「くっ……」


 ズキズキ痛む。血で赤らむ。


「大丈夫か」


 尻もちをついたクレアに声をかける。


「び、びっくりしただけ……それより! あんたの方が」


「そうかもしれないな」


 クレアに手を差し伸べる勇気が出ない。


「手当は、してあげる!」


 拳を握っているとクレアは血を取り除いてくれた。


 袖を捲ってもらったが、甘噛みでは済んでいない。


「痛そう……」


 クレアは自身の衣類を噛みちぎって包帯代わりにしてくれた。


「良いのか?」


「良くない、何もしないのはもっと良くない」


「助かる」


「行けそう?」


 握って確認してみる。



「かなりマシだ」


 歩き始めるクレアを追っていく。


 心做しか火が照らす範囲は広がっているような気がした。



「ようやく着いたな」


「がんば」


 クレアは壁際にちょこんと座って俺を見守っている。


 結果的にあの一匹だけで済んだが、また現れたら困る。


 さっさと動かないと。


「できる?」


 ピッケルは手に馴染まない。当然だ。


 でも振れないほど痛いわけじゃない。要は慣れ。


「できそうだ」


 カコンと前みたいに石がゴロゴロ。この調子。


「風とか要る?」


「欲しいな」


 ピッケルを振っていると無心になる。


 その時に空いた、空っぽの心に音の振動が響く気がする。


 カンッて。


「頑張れー」


「ああ」


 たまにクレアが応援してくれる。


 程々のタイミングで出てきた石を袋に集める作業に移っていく。


 この袋もクレアが用意してくれたものだ。


「飲み物あるけど、欲しい?」


「欲しいな」


「はい」


 人差し指がピンと伸びる。


「なんだ?」


「いいから咥えてみて」


 咥えてみる。水が出るみたいだ。


「…………」


 俺は指から離れた。


「出ないじゃないか」


「出るわけないじゃん、馬鹿なの? 本の読みすぎ」


「……」


 飲まなくても生きていけるが、飲めると言われて飲めないのは心にくる。


「そうか……残念だな」


「信じる方が悪いでしょ」


「はあ」


 石集めないとな。


「……み、水、飲んでいいから」


 赤と青の欠片を入れていると横にカタンと音が鳴る。


 見てみると筒状の水筒が。


 木にしては若干重い水筒の中身に確信する。


「いいのか?」


「飲みかけでいいならね」


 開けてゴクリと一口。そして一息。ふうっと空気が出る。


「やる気に満ちるな」


「頑張って」



 水筒に蓋をして掘る作業に徹した!


 一本、二本、三本のピッケルが消えていく。


 これは頑張ったからじゃない。当たり所悪く散ってる。



「……もういいだろ」


 袋に最後のクレスを詰めているとちょうど一杯だった。


「上出来じゃない?」


「だよな」


 というわけでホウセンカに戻ってきた。


「もう夕日が見えるな」


 とてつもない非効率的な稼ぎだ。


「ちょっとだけ綺麗」


「かなり綺麗だと思うぞ」


「夕日、好きじゃないから」


「そうか」


 ギルドでシンスに袋を献上した。


「お疲れさん」


 労われた。


「あとは好きに動いて、できればホウセンカに貢献して」


 そしてシッシとあしらわれる。



 近場の椅子でくつろいでおく。


「……いつまで居るんだ?」


「それこっちに言ってる?」


「そうだぞ、クレア」


 隣の席に座って退屈そうに過ごしている。


「別に、良いでしょ」


「俺と居てもつまらんぞ」


「楽しいし!!」


「正気か?」


 楽しいと大きな声で言い切るクレア。


「正気って、なに」


「特に面白いことをしてあげたつもりはないからな、その中に面白さを見出すのは正気じゃない」


「あんたといるのは、そこそこ楽しいケド……」


 クレアは頬染めて髪をなぞる。


「楽しいのか」


「わ、悪い?」


「悪趣味だな」


「何でも半分にするやつに言われたくない!」


「最近は半分にしてないが」


「もう遅いから……」


 手遅れらしい。




「そういえばミトラは?」 


「居るけど」


 そう言ってクレアは俺を指す。


「冗談はよしてくれ」


「いや、居るって」


 振り返るとミトラが支柱のカゲに。


「本当だ」


 手を振ってみる。小さく返してくれた。



「来て欲しいんだが」


「来ないでしょ、来てもらったとしてどうすんの」


「お礼を言ってくる」


 席を立つとクレアが服を掴んできた。


「行かないでよ」


「どうして?」


「おねがい」


 深刻そうなので従ってみる。


「ねえ、疲れた?」


「全然」


「そうだった……普通に、お酒でも」


「欲しい」わけじゃないと言おうとしたところで、クレアは席を立って行ってしまった。


「動きが早いな……」


「えむ」


 カゲの声。


「カゲか、どこにいる?」


『ここだっ』


「どこだ?」



 声の方向は椅子の前。ガンッとテーブルの下が揺れる。



『ここだといっ、痛たたっ』


「そんなところにいるからだぞ、さっさと出てくるんだ」


 透明なカゲが多分出てきた。


「まだ痛む……」


「反省したら治る」


「撫でろっ!」


 撫でた。


「あっさり終わるなぁ!」


「血がつくといけない」


「怪我か! 誰が!」


「俺だ」


「反省したら治るぞ、ふんっ」


 カゲに言葉を返されてしまった。



「そうだな……」


「しかし、右手が必要であろう」


「欲しいな」


「ギュッと抱いている、欲しいか!」


「欲しいって言ってるじゃないか」


「カゲを置いていった誤りを謝れば、ゆるす……」


 しょうもないダジャレに頭を下げる。


「悪かった、カゲの眠気を尊重した結果なんだ」


「右手を……」


 何もない腕を差し出すとカチンと音がハマる。


 次の瞬間には物質が姿を見せる。


 鉄に触れる。カゲが抱いていたからか熱い。


「さらば」


「二度寝するのか」



「エムの寝床でそうするつもりだ」



 ふふふと嬉しそうに音が消えていく。





「おまたせー」


 クレアがコップ一つに大酒を持ってやってきた。


「もう酔ってるのか? 長かったしな」


「シンスにねだって美味しいの貰ってきただけ!」


 ガタンとコップを置いてとくとく注ぐ。


「はいっ」


 貰えるものは頂こう。


「助かる」


 一口。味が濃い代物。これが特上なら特上なのかもしれない。


「うまいか? これ」


「さ、さあ」


「上品ではない」


「へえ……」


 コップが一つなのは疑問しかないが、まあいい。


 ちびちび飲んでいるとギルドのドアが開く。




『リュウキ! 居るのは知ってる!』


 ソランの声。




「リドルが言ってたな……」


 ズンズンやってくる虹色ドレス。


「もう、いらない迷惑がー」


「クレアはそう思うか」


 しかし、知っている人間のビジネスは気になるものだ。


 俺はソランを受け入れた。


「ビジネスの話! しましょうか!」


「場所を移すか」


「いやいや、ここでいい! 聞いて聞いて!」


 商売上手なクレアに聞かせるのが都合がいいな。






「…………それで、なんだけど」


 酒のせいで途中から理解できなかった。


「それで、クレアはどう思う?」


 俺は一丁前に今までの流れを伺う。


「今するのは時期じゃないかな、みんなてんやわんやだし……」


「ほう」


 クールでビズい計画はそのままのようだが、いつするのかを考えているみたいだ。


「そう……やっぱり……」


「楽しそうな話だから活気づけにはなるかもね、みんな疲れにやられてるから」


「恩を売れば今後も勝機があるということ!?」


「そうじゃない?」


 いい感じに話が進んでくれている。


「そんなことより、一気に飲んでみてよ」


「ビジネスより俺の酒飲みに興味があるのか」


「うん」


 クレアは言い切ってお願いしてくる。


「飲んだら、ソランの話を聞いてやってくれ」


 俺は酒を飲み干した。


 コン。コップがテーブルを叩く音。


『……』


『……』


『無理だ』




『ちょ、リュウキ!? 大丈夫? だいじょばなさ、げ……?』


『ソラン? だっけ、こっちで預かるからこのまま突っ伏せといていいよ』


『それはできない! 早く寝かせとかないと頭が痛くなる!』


 ソランは丸まった背中に手を伸ばして引き込む。


『め、めんどーでしょ?』


『そうだから、そうしてあげてる。こうなった私をいつもこの人はこうしてくれたはずだから……』


『しなくていいって』


 両手に人を収めたソランは歩き出す。




『じゃああなたはそこで指咥えて見てなさい。』




 クレアを一瞥(いちべつ)すると誰かに聞くわけでもなく、部屋に入って行った。









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