表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
全てを受け止めていたら最強になっていた。  作者: 無双五割、最強にかわいい美少女五割の作品
19/200

意図







 肉を食い終えた俺達は火の始末をして街に戻った。


 クエストワークで依頼の薬草を届け、報酬を頂く。


『カゲは金などいらない』


 報酬を渡そうとしたら、その前に拒否されてしまった。


 俺を監視していただけあるな。


「受け取れ」


「取らぬ」


 そう言って透明になった。


「……」


 建物を出て街を歩くと、確かな足音が隣で鳴っている。



 トッ、トッ、トッ。



 カゲの身長を思い出し、肩の高さで手を伸ばす。


 むにゅりと掴んだ柔らかい存在。


 これは肩ではない。


「良い気分はしない」


「……悪かった」


 手を離すと俺の手が透明じゃなくなった。


「カゲは嬉しそうに触られたい」


「最高だったぞ」


 透明なカゲから返事はなかった。


 気を取り直して道具屋で皮を売り、ピッケルを二本手に入れた。


 いつもの洞窟に向かおうと街を出ると。



『エム、喜べ』



「なんだ?」


 声がする方を見ているとカゲがピッケルを片手に現れた。


「道具屋から追加のピッケルをくすねてきた」


「……なにしてんだ」


「エムは不満か、そう思って――」


「分かってるのか、したことを」



 カゲは誇らしげに盗んだアイテムをポケットから出してくる。



「盗み、それだけ」


「これ一つ無くなると商人は赤字になったりするんだぞ」


「他人不幸、関係ある人間のみ幸せ訪れるべき」


 胸触ったことを根に持ってるのか、面倒事を増やしてくれたようだ。


 ヤケにホクホク顔のカゲ。


「そんなことするくらいなら何もするな」


「エム、喜べ」


「喜べるか!」


「叫ぶでない、魔物に近づかれる」


 そう言ってシッと人差し指を立てた。


「……シンス様は喜んでくれていた」


「盗みはもうやめてくれ」


「カゲは透明になることしかできない故に、悪事あり」




 洞窟に入って最深部に向かう。


「カゲは、役立たず?」


 俺が死にそうな時に手を伸ばしてくれたカゲは、運命を変える程度の力はある。


 この程度で役立たずとは思えない。


「それは、これから分かることだ」


 最深部に着いた俺は荷物を置いてピッケルを渡した。


「頼んだぞ」


「カゲは透明にならない頼みをこなせない」


 ピッケルを握り、微動だにしないカゲ。


「したことないのか」


 聞くと静かに頷いた。


「能力にすがって生きてきた身、すまない」


「そんな悲しい顔をするなよ」


「エムを怒らせてばかり、故に消えよう」


 消えそうになるカゲに触れる。


「教えてやるから、消えようとするな」



『……お願い、します』



 真剣なカゲに答えて効率の良い掘り方をレクチャーする。


「この壁、色が付いてるだろ」


 赤、青、白。少しだけ見える鉱石の色。


「そこを掘って宝を掻き出す」


「このピッケルは、どう振る?」


「それすら知らないのか」


 隣でピッケルを持ち、振り上げて下ろす一連の動作を見せた。


「こうだ」


「カゲの体に教えてくれ」


 仕方なくピッケルを持つ小さな手を包んだ。


「この辺が、疲れないし勢いも出る角度だ」


「エムの説明は分かりやすい」


「本当は一息つかずにこうやって叩く」


 いつものようにガンッとピッケルで壁を砕き、鉱石をゴロッと出した。


「エムは上手い」


「当たり前だろ、ずっとやったからな」


「カゲはもう少しだけエムに教えられたい」


「……仕方ないな」


 カゲと一緒にピッケルを握って何度か振る。



「後は頑張れ」


「エムが休む間に、大きな物を」


「休まないぞ」


「では、勝負と参ろう」


 ピッケルを振る単純な作業。


「エム、欲しい石などはあるか」


「全部に決まってるだろ、掘りまくれ」


 不思議と今回は楽しく感じた。


 ガンガン掘って、ピッケルをゴミにしてしまう。


「エムは強い男故、仕方なし」


 なぜか褒めてくれた。


「確か、予備があったよな」


 カゲが盗みやがった奴。



『……ない、あるわけがない』


「そうだったか?」


 やる気が出てきてたのにな。


 いつの間にか使い潰してしまったか?


「エム、このピッケルを」


「やってていいよ、練習しておけ」


「カゲは諸事情故、左手が使えない」


「大丈夫か! 飛んできた欠片で怪我したか!」


 中途半端な握り拳を作るカゲの左手に近づく。


『じゅ、重大なことではない』


「洞窟はあまり良い場所じゃないからな……出るか」


「怪我ではない!」


 カゲが不意に大きな声を出す。


「そうか……?」


「カゲと一緒に掘ってくれ、エム」


「仕方ないな」


 カゲの後ろに立って綺麗な右手に俺の手を重ねる。


 左手を添えて声をかける。


「上げるぞ」


「分かった」


「振るぞ」


 カンッ。


「上げて、下げる」


 カンッ。


 またピッケルを上げて振る。


「……」


 段々とタイミングだけで掘っていく。



 カン、カン、カン。


 カン、カン、バキ。


 最後のピッケルが壊れてしまった。


「……脆いピッケルをカゲは嫌う」


「さっきまで振り方も知らなかっただろ」


「そういう意味ではない」


「撤退するぞ」


 落ちた鉱石を拾ってカバンに詰めていく。


「エム、シンス様に沿う理由を聞かせてくれ」



 最近は叩いてくれるようになってきた。


 さすが最強ギルド、気持ち良さも違う。



「見返してやる、それだけだ」


 ……建前と本音は使い分けないとな!




 鉱石を集め終え、二人で階段を上がった。


 不意にカゲが立ち止まる。



「どうした?」


「エム、キスをご存知か?」


「知らない訳じゃない」


「消えて街を歩く時、冒険者同士の熱い絡みを何度も見せられた」


 顔色一つ変えないカゲ。


「……そうだろうな」


「故にカゲは、エムとしてみたい」


 フッとカゲが姿をくらませる。


 少し遅れて口が柔らかい感触で塞がれる。


「…………」


 洞窟の方でカランカランと音が鳴った。



 振り向いた時には音が消え。



「何かしたのか?」


「……していない」


 フッと離れて姿を見せたカゲ。


「しては、いない……」



 声色は落ち込んでいた。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ