焼きもち
男はその後の商売が成功したのか、少しふくよか気味。
『そちらの方は予想通りと言った感じである』
「予想通りだって? これが?」
「うむ、そもそも王女役をやりたいと言ったのは彼女自身だ」
「そうなのか」
「結果的には続編の為に彼女の模範者を探すことに苦労した、つまりは人気者」
カゲを見てみる。スっと視線が逃げていった。
「また役があるなら、二人でしてやっても構わぬ……」
カゲは俺に擦り寄って再演アピール。
当の商人にそのつもりはないらしい。
「いや、今回は役者を引き連れてここにやって来た」
残念そうに俺を見てから黒髪を中指で掻く。
「前回は世話になった、そして今回は世話になってくれ」
商人は俺とルビーにチケットを配った。俺の分は二枚に重なっている。
「カゲも出たぞ……?」
自分の分がないと思っているのか、カゲは商人にチケットを催促。
「彼から受けとった方が、嬉しいのではないか? それでは明日会おう」
「い、言ってる意味が分からん! おい、まて!」
カゲの声は商人には届かず。その場を後にしていった。
「カゲは目立たない故に、しかたなし…………」
まだ貰えてないと思ってるのか、しょんぼりしている。
「どんまい」
静かな方が助かる。そういうことにしておこう。
「残念だ……」
ルビーはゴソゴソチケットを畳んでポケットにしまい込む。
「にゃんまい」
「な、なんだと!」
拳を握るカゲを抑える。喧嘩されたら困る。
「まあ落ち着け」
「落ち着けるか!」
「焼きもちは綺麗に焼けてるじゃないか」
「当たり前だ!」
ルビーから俺へターゲットを変えたカゲの両手が俺を捉える。
「羨ましい……」
カゲはパチパチ瞬きして堪える。
じっと見つめられては勝てない。
「わかった、わかった」
「分かってない! わかって」
紙を口元に押し付けて反論する。
「んむむ」
貼り付けたチケットを手に取ったカゲは返そうとしてきた。
「俺の分もある」
それが誰の物か気づくと大切そうに仕舞う。
カゲが消えると同時に俺の手からチケットが消える。
「あ」
左手に紙で切れかけた熱が残った。
「あーほ」
足音が俺から逃げていく。
「…………」
「にゃあ?」
ちょっとだけ、油断してしまった。
「どうせカゲは居ないんだ、ルビーもどっか行くか?」
「にゃあ」
どっか行くらしい。
「そうか」
「にゃ!」
ルビーに「にゃ、にゃ」と二回手を引かれてついて行く。
「ホウセンカを出るのか」
「うにゃ」
頷いてノシノシ草原を踏みしめる。
「昼までに帰らないと怒られるからな」
「むりにゃ」
「にゃんだって?」
「……にゃ!」
手を前に出して走り込むルビー。
「ま、待ってくれ」
見失わないように追わなければ!




