我が、ままに
カゲがもぐもぐしている途中でクレアがやってきた。
『おっさんいつものー』
『そう呼ぶな』
いつもの。正体は白い飲み物。
「あれ、居たんだ」
クレアは俺の隣に座って一息。
「そうだぞ」
「声掛けてくれてもよかった」
元気の代わりに疲れが見えている。
「あー、今日は飲も」
「昨日は飲んでないのか」
「あんた居るなら最悪運んでくれるだろうし、いいかなーって」
随分と他人任せ。
「どうせ、寝ないしな」
「そうそう、信頼できる」
クレアはブランドに酒をねだって持ってきてもらうとコルクを抜いてコップに注ぐ。
「今日は剣を沢山作った」
「凄いじゃないか」
「予備と売る用と……それだけ」
一口含んで瞬く間にコップを枯らす。
また注いで繰り返し。
クレアの頬が酒を含んで明るく緩む。
「おいしいわ、やっぱり」
それはどうもとブランド。
それからも酒は長く続いた。
時折のウザ絡みを上手くはぐらかす。
「エム、帰ろう……?」
「どうせ潰れる、運んでやるつもりだ」
カゲに先に帰ってもいいと伝えるが、プルプル拒否られた。
『ねえ、あんたってバカなの?』
クレアが俺の服を掴むとそれは首まで近づく。
いつもより近い距離から酒の匂い。
「バカってなんだ?」
『なんで私じゃなくて、ほかの女とほっつき歩いてんの』
握られた服がミリミリ音を立てる。
「成り行き、だ」
『成り行き? あんたと一緒に歩いた時も、成り行きじゃん』
随分と酔ってらっしゃる。
『感謝してないの、私がかわいくないの、妹ばっかりみすぎ』
「感謝はしているがクレアは高嶺の花だろう?」
『あんたが誘えばついてく……あんな子より私の方がかわいいし』
あんな子と言って目で示したのはカゲ。すぐに俺に合わせ直しておでこをピッタリ引っつける。
『もっと歩きたかった、誘われ待ちだった、本当は暇だった』
クレアが首を傾けると口を開けて舌を出した。
そのまま唇に口元が揉まれて濡れる。
「え、えむっ……」
チュッと離れたクレアが下目に落ちる。
『私の方が、私の、ほうが』
ポスン。切れた糸のようにクレアが胸に落ちる。
ずり落ちないように受け取る。
酒というのは狂わせる。だから怖い。
「またえむが浮気した……」
カゲも怖い。
『オホン、こいつの分もラブラブサーピスで引いてやるから払っといてくれ』
お会計も怖い。
「分かった」
総資産をはきだして払うことに成功した。
後はクレアを担いで酒場を出た。
「……エム!」
「な、なんだ」
「カゲは怒っている」
返す言葉がない。
「……カゲは、怒っている!」
「そうだろうな、ああ!」
クレアの家に向かっているが、カゲのオーラが凄まじい。
「キスの上にあんな子呼ばわり……捨ててしまえ」
「それはできないな」
「どうせカゲにはキスしてくれないんだろう! うわきもの! うぬぼれもの! うらぎりもの!」
リズミカルな罵倒を受け止めてクレアの家に入る。
「やさしくないもの〜!」
カゲがぷんぷん文句を言う間に寝室へ寝かせた。
外に出て一息。
「むう……」
カゲの前でしゃがんでみる。
「たまには背負ってやるから」
何も言わずに乗り込んだカゲを持ち上げる。
「カゲが浮気しないからと、他の女とあーだのこーだのされるのは、はっきり言って嬉しくない」
「ごめんよ」
「そう思うならもっとカゲをいたわれっ」
ワガママあるがまま。
「わかった」




