鍵となる
危なかった、死ぬところだった。
ミトラが率先して手を引いてくれなかったら終わっていた。
『ごめんなさい……』
「ミトラは悪くないぞ」
何が原因でこれは起きるんだ?
「髪に触れても?」
許可を取って触れる。特に死ぬような目には合わない。
「頬は?」
サクラ剣術みたいに力の流れが手に行くから〜みたいな。
「柔らかい」
カゲよりもっちりしている頬を持っている。
白さもあわさって餅との違いは分からない。
「あまり触られるのは」
肩とか腕とか手首とか。
影響はないのになんで手が、なんで二回目から?
「もう一回、握手」
「やです」
「どうして?」
「緊張で手汗が凄くて、不快な思いはさせたくないんです」
服で拭おうとはしているらしい。
それでも溢れてくるようだった。
「そういう時もある、仕方ない」
握手は一旦、諦めよう。
「毎日一回だけ握手してくれたら満足なので」
「今はそうするしかないな……」
「ま、また今度!」
ミトラはタッタッと弾むように去っていく。
また今度、会おう。
「そういえばミストが居ないな」
ぽつりと出てきた疑問。
『勉強をさせてるわ』
後ろに居たシンスが教えてくれた。
「勉強?」
「いつもリュウキリュウキと惚気けたことばかり考えてるから」
「へえ」
「後は、そうそう、コノハがえらく落ち込んでたかしら」
確かに引きずっていてもおかしくない。
「なんとかしなさい、話聞いてくれなくて困ってる」
「分かった」
「向こうの部屋に引き篭ってるわ」
シンスに直接部屋に案内され、専用の鍵まで渡される。
「鍵開けて、ゴーして!」
鍵を差し込んでドアを引き、入ってみる。
『なっ!』
俺に気づいたコノハがベッドの布に隠れた。
「元気じゃないか」
「急に何の用だ」
「他の美女に冷たく当たってると聞いてる」
「……機嫌が良くなかった」
そんな時もある。仕方ない。
俺はそう思うが、シンスは許してくれないだろうな。
「って、その原因に慰められるつもりはない!」
「慰めじゃない、アドバイスしに来た」
色々してくれたお礼を今度は俺がする。
「何を言いたい」
「一の負けは百じゃないからな。小石につまづいたことを、いつまでも思うな」
「わ、分かってるそんなこと!」
「あの時、まるで腕が消し飛んだみたいな顔をしてたからな」
「うるさい! 出ていけ!」
背中を押されて部屋から追い出されたが、怒れるくらい元気になってくれたと思う。
「鍵返して」
近くで待っていたシンスに鍵を渡す。
「はい、お疲れさん」
「今日は随分と優しい」
「優しくない方が好き?」
「実はそうなんだ」
「……さっさと行きなさい」
今度はドンッと背中を叩かれてシンスと別れた。
まだ要件は終わっていないのかタンザ達は居ない。
俺はギルドを後にすることにした。
クエストワークに向かっていると肩に力が掛かる。
『エム、探していたぞ』
振り返るとカゲがいつもよりニコニコしていた。




