ねこだまし
『行くなあ……』
左手に巻きついては寂しんぼうな小動物を演じるカゲ。
「そ、そろそろ行かないと」
「にゃあ!」
タンザはルビーと出ていってしまった。
「そう言われてもな」
「ならカゲも行く!」
「これが本当なら危ない」
「一人はもっと危ない!」
合わせてくる視線に鋼の意思を感じる。
「わがままを聞いてくれ」
顔がフルフル振られる。
「心配だ……カゲが頑張った方がいい」
「カゲはかわいいな」
「その手は食わぬ」
「本当だぞ」
顔を近づけるとカゲがそっぽを向いて拒否してくる。
「その唇も食わぬ」
わがままなカゲの頬を両手で挟み、口元を強引に貰う。
「んん……っ」
舌を送るとカゲは一歩仰け反る。
「んーん!」
頃合いを見て離れた。
頬を赤くするカゲを置いて部屋を出ていく。
「あっ……!」
「許してくれ」
カゲに捕まる前にドアを閉めて宿を飛び出す。
周りを見ながら走って考える。
紙の裏面を見てみると場所が記されていた。
『慌てた様子のリュウキは目立つな』
振り返るとアデルが居た。都合が良い。
「なあ、これが」
「……本当か」
紙を見せるとなんだとって顔をしていた。
「手伝おう、ぶっ殺してやる」
走ろうとするアデルの肩を掴む。
「待て、大金が要る」
「本当に払うつもりか?」
「大金を探しに、草原に行く」
「……ま、ソランのことだ、苦労はさせたい」
俺達は草原に向かうことにした。
『エム……』
部屋に残されたカゲは椅子に座って足を伸ばす。
戻して、伸ばす。
寂しそうに手を胸に寄せると伸びていた足が戻っていく。
その頃にはもう、カゲは椅子から立っていた。
静かな足取りは軋む床を目立たせる。
ドアノブを握った手が消える、体が消える。
音を立ててドアが開く。
閉まると誰も居なくなっていた。




