普通じゃない朝
カゲ達が寝ている部屋の前に立って右手の中指を尖らせる。
機械の手首を引いて、倒す――直前。
『ねえ』
声に振り向く。
「……ソランか」
久しぶりに見た、ソランの姿を。
チャラチャラしたドレスと金色のピアスリング。
「ギルドに戻る気は」
「ないぞ」
開いた口が塞がり、ソランの言葉が途切れる。
「どうしたら戻ってきてくれる? どうしたら許してくれる? ねえ、どうしたら」
「舌先で何とかしたいなら、しゃがんだほうが早い」
カチャンとリドルが開けた鍵。ドアを引いて部屋に逃げる。
『おはようございます』
『ございますにゃ!』
タンザは早起きだ。カゲとミストはまだ寝ている。
「また言葉を覚えたのか!」
「にゃあ!」
「偉いぞ!」
猫耳を撫でるとうにゃうにゃ言われた。
「早起きは偉くないですか?」
「偉いな」
「そうですよね!」
起きてないやつより起きているやつが強いのは当然。
「ところでその手は?」
「新しい右手だ、必要だと思ってな」
「前より強そうです」
関節がキシキシ音を立てて指のフリをする。
「そんなことより、剣を磨いておけ」
「久々に訓練ですか!」
タンザが壁に立てていた鞘付きの剣を手に取る。
「いや、実戦だな、今後の生活が決まる」
「頑張ります! 宿に寄付してベッドを増やしてやりましょう!」
ミストを起こす前にカゲを揺する。
「まだ、まだ寝たい」
「早起きしたらキスしなくもない」
「お、起きた!」
バサりと体を起こしてくれたカゲ。
「キスといえば! こいつ浮気してるよ! めちゃくちゃチューってしてたよ!」
リドルの声が誰にも届かなくてよかった。
「えむ、はやく」
朝を言い訳に軽く唇を鳴らし合う。
いつもよりカゲの機嫌が悪い。
『……他人の味がする』
ゾッとした。
「い、い、いや、そんなわけないだよ」
「また変な女とキスを交わしたのか!」
「あれは事故だったんだ」
「ううっ!」
ありえないという視線が後ろから、前から注がれている。
「エムはカゲのモノなのに……」
「それは違うぞ、みんなのものだ」
「それはない!」
ベッドから飛び降りると俺をじっと見回す。
「その剣はなんだ!」
「貰ったんだ」
「カゲの剣は弱いということか……」
「そういうわけじゃない」
「ならば必要ない、違うか」
壊れているから護身用、なんて言えねえ。
「そ、そうだな! いらねえわ!」
俺はタンザに献上することにした!
「ありがとう、ございます?」
カゲがエムエムとツンツンしてくる。
「まだ文句あるのか?」
『カゲは、カゲをあげよう』
そう言って左腕に抱きついてきた。




