寂しん坊将軍
天高く伸びた大地の剣。
自然の権に不自然に割れた床と床。
なんてことをしてくれたんだ、ミスト。
無責任なチリ共にゴホンと咳き込みたくなった。
『リュウキ! 止めなさ……止めろ!!』
「は、はい!」
シンスに言われて剣を抜く。ミストの前で刃先を横に流して構える。
「サクラ剣術を貸そう」
コノハが俺の後ろで背中に手を置いてくれた。
そこから不思議な力の水流が左手に流れ込む。
剣先まで薄く伸びていく感覚。
ほのかに花びらを鉄が垂らして落ちる間隔。
『…………』
大きな驚異が振られるまで、汗が頬に垂れるまでの猶予。
俺は止めることができるんだろうか。
『みすとあたーっく』
ゆっくり振られるこの剣はドラゴンを真っ二つにしていた。
やっぱり、無理かもしれない。
俺は剣を横に投げて逃がす。
キンッと跳ねてさらに逃げられる。
「弱音を吐くべき時ではない、刀を貸そう」
「これを止めれるやつは存在しない!」
コノハを強引に巻き込んで剣の射程から逃げ込む。
寸前でブオンと振られた剣は地面を叩いて振動を生み出す。
ギルドの破壊を誘う揺れは木の板をコノハに落としてきた。
覆いかぶさってすぐに背中がガツンと痛む。
クッと堪えてコノハから離れた。
「なぜ剣を止めなかった? 不可能ではないことだろう!」
「利き手はもうない、それに俺はドラゴンを二つにするところを見た、怖くてできない」
「少々、男気に欠ける男だ」
「失敗したらコノハを殺すことになる」
それだけじゃない。ミストに人殺しの罪が乗る。
「なに? 力を貸さなければ受けたと?」
臆病な俺はミストに殺される前に先手を打つ。
「ミスト、落ち着いてくれ」
ゆっくり近づいて酔いどれ暴力に冷静さを吹き込む。
「やだやだ」
「そう言わずに」
酔いのせいか、いつもとは違う動きが目立つ。左右に体をひねって浮き足立つ。
「一緒にお話するつもりだったのに、来てくれなかったんだもんっ!」
危ない!
前のめりにバランスを崩したミストを急いで受け止める。
「……待ってた」
糸が切れたように落ちそうになるミストの脇に腕を差し込んで引き上げた。
よく分からないが、寝ているらしい。
静かだったギルドが騒がしくなる。
『もう! せっかく楽しみにしてたのに!』
『大変だわ……』
シンスがツカツカ靴を鳴らしてやってきた。
腕を組んで険しい表情。
「ミストが起きたら伝えてちょうだい」
「伝える?」
「そうよ、追放処分って伝えて」
それだけ言って美女の中に消えていくシンス。
もう二度と起こさなかったら、伝えなくてもいいんだが。
「殺すつもりか?」
ミストの首を掴んだところをコノハに見られた。
「冗談だ」
「そのようには全く……」
ミストを担いでひっそりとしたテーブルの一角に座らせて寝かす。
飲んでいたわけではないが、飲み直す素振りをしてみる。
『エム、えむっ』
ツンツンと背後から指先で声をかけてきたカゲ。
振り返ると唇をクチュリと奪われ、甘い酒の味が舌先に響く。
大胆なプレイング。
「……やけに赤いな」
用意していた言葉が思い出せなかった。
『むふふふ』
カゲは酔っているようだ。
「そ、それで? どうかしたのか?」
「少し、気になることを聞いた」
「気になること?」
透明になって周囲を飲み歩いていたのか、コップの底は見たことのない色をしている。
『ミストに、酒を飲ませた人間が居るらしい』




