他人の為に
夜は早く終わった。
『それでねー』
リドルと話していたからだ。
「それで?」
『やっぱり賛成! その方が幸せに違いない!』
「そうだよな」
カゲを揺さぶって目を覚ましてもらう。
「えむ……」
キュッと服を掴んで離れようとしない。
「朝は待ってくれないぞ」
「むう」
思ったよりすんなり立ってくれた。
俺も立ってカゲにお出かけを促す。
「ほら、温泉でサッパリするんだ」
背中を押してドアまで誘導。
「……」
「気持ちいいぞ、多分な」
「付き添ってはくれないのか」
カゲはクルリと振り返ってじっと見てくる。
「じゃあみんな起こさないとな」
「うむ」
タンザとルビーを揺さぶるとカゲよりも簡単に起きてくれた。
「そ、そんな目で見るな、仕方ないだろう……?」
「カゲはゴクドウすぎる」
おはようございます。タンザがそう言えばルビーも頭を下げる。
「ああ、おはよう、挨拶できるなんて偉いな!」
ルビーに偉いぞと親指を立てる。
「……私にはないんですか?」
「偉いぞ!」
「違います」
「そうなのか」
「もういいです」
宿を後にして即温泉……の前に軽く食事を取った。
「知ってるか? 旅館に必ずお菓子がある理由を」
「知りません」
「何も食わずに入ると危ないからだ」
「なるほど、これは優しい采配といったところでしょうか」
「そうだぞ」
「いつかお返しします」
目的他に着き、人混みを分けて温泉に入っていく二人を見届ける。
「なんで残ってるんだ?」
「エムと居たい」
俺はこのままギルドに顔を出しに行くつもりなんだが。
「入れる時に入った方がいいぞ、寝れる時に寝るみたいにな」
「ではエムと居れる時に居る!」
抱きついてくるわがままなカゲ。
「湯上がりの柑橘系の匂いが好きだったんだが、残念だ」
「……それは、湯ではない」
「そうなのか!」
なんの匂いなんだろうか。
『気づいてくれて、カゲは嬉しい』
ニコッとカゲが笑う。曇りなき白い歯に興味が吸われる。
「エムのために浸かろう」
俺から離れると人混みに消えていった。
よし、ギルドに向かうか。
『一緒に入ったりしないの?』
リドルはカゲの力を使って温泉に向かっても良いと思っているらしい。
「許されるわけない」
「バレなかったらセーフ」
「ホウセンカは超人揃いだ、カゲを看破されたら危ない」
「ありえそう」
ギルドに入るといつもの感じだった。
美女と美女と美女。
『朝が早くて感心感傷』
そしてシンス。
「ギルドクエストは用意してあるけど、どうかしら」
内容はまた出たドラゴン討伐。しかも青だって?
「できそう?」
これが惨敗した相手とは限らない、記載されていないし、金額も安い。
「拒否はさすがに、ねえ?」
美女が掲示板の紙をペリペリ剥がして俺に持ってきてくれる。
「がんばりなさーい」
俺はそれを近場の机に置いた。
『ごめんなさい』
「うんうん、復帰の良い機会にも……は?」
シンスの動きがピタリと止まった。




