同意
左頬がズキズキと痛む。
『あー痛え』
ドラゴンより強い一撃を貰ってしまった。
目的地と逆方向に歩き始めたから注意しただけなのに。
「ごめん」
「気にしてない」
クエストワークに着いた俺達は依頼書とにらめっこ。
「良さげなのはないか」
法外な値段は追い剥ぎされることを学んだ。
「これはダメだから!」
安い値段はクレアに拒否される。
「やはりこれしかないな」
「ドラゴンは論外」
この辺の地域はドラゴンが多いようだ。
自分の仕事が進まなくなるのか、他人に頼んで倒してもらう傾向にあるらしい。
話せば分かるのに。
「クレアは何がいいんだ」
「あんたが疲れないようなやつ」
気遣いはしてくれているらしい。
「疲れるような男ではない」
「じゃあ私が楽にできるやつ」
「ドラゴンだな」
「ドラゴンから離れたらどうなの?」
一つの依頼をクレアが取る。
「これは?」
「商人のアイテム倉庫を見張るんだって」
「ほう」
夜によからぬ者が盗みに来ているんじゃないかと心配だ、夜の見張りを頼みたい。
報酬も悪くないな。
「あんた得意でしょ」
「もちろんだ」
「じゃあ夜まで雑草を抜く仕事ね」
クレアに連れていかれ、庭の雑草を引っ張った。
「手を抜こうとか思わないで」
「そんなことする人間に見えるか」
「悔しいけど、信頼してる」
ブチブチ抜いていく作業をクレアはせっせとこなしている。
「もう限界だろ、休め」
「女を舐めてる?」
「そういう意味じゃないが」
限界が来る前に。動けなくなる前に。
「警告、しただけだ」
「前のギルドはそんなに貧弱が多かったの?」
「いや、一緒に働いてくれる人が居なかった」
「……そう」
他人の限界を俺は知らない。
「クレアには感謝している」
「…………」
夜中まで雑草を抜くと依頼者にめちゃくちゃ感謝された!
『一夜で終わらせてくれるなんて!』
ボーナスされた報酬を頂き、クレアと仲良く半分。
『仲良しで微笑ましいわね』
「そんなわけ!」
クレアが俺を突き飛ばす。
「あ、ごめ」
大丈夫だと手を振る。
『初々しいわぁ……』
懐かしそうに俺達を見てくる。
「もう行くので!!」
クレアが俺の手を引いて逃げるように離れていく。
「またご依頼ください!」
代わりにお礼を言ってクレアの方を見る。
「どうしたんだ」
「なんか狂うから!」
「気持ちは分かるが」
「でしょ」
夜になったばかりの街は騒がしく。
ガラの悪そうな女達とすれ違った。
「あれってホウセンカ?」
「違う、貴族じゃないと成れないから」
「……俺は?」
「例外じゃない?」
クレアも貴族なのか。
「嫌われてるのに例外か」
「加入させてあげたのに即切りはできないでしょ」
目的地に着いた俺達は、夜の依頼をしてくれた商人に声を掛けた。
『おお、来てくれたのか』
「そうよ」
クレアが答えると。
「げっ、お前はホウセンカ商店か!」
「……そうよ?」
「盗むんじゃねえぞ!」
「当たり前でしょ」
商人がアイテム倉庫に案内してくれるらしいので、ついて行く。
「実は定期的に盗まれててな、犯人を捕らえたくて依頼したんだ」
俺の方を見て話を始める商人。
「特別に鍵を託そう、中に入ってきた奴を捕まえてくれ」
渡された鍵を受け取って家の隣にある倉庫に近づいた。
「鍵は万全のはずなんだがなあ……こちらは寝る、何かあったら起こしてくれ」
そう言って家に帰っていった。
残された俺達は鍵を使って倉庫に入る事にした。
中は普通の倉庫で、棚にアイテムが並べられている。
「……お、気が利く〜」
クレアが真ん中に置かれた小さな台に近づく。
「どうしたんだ?」
「これ、食べていいんだって」
よく見ると白い餅のようだ。
「追い剥ぎの罠かもしれないぞ」
「気にしすぎでしょ」
もぐもぐ食べていくクレア。
「あんたも要る?」
「いや、動く前に食うのはよろしくない」
「じゃあ、終わったら食べよ、ね?」
「そうだな」
ドアを閉めて中から鍵をかけておく。
「明かりは消しておこう、不意打ちができるからな」
天井に吊るされたランプに息を吹きかける。シュボっと暗くなった。
「な、何も見えないんだけど」
「そうか?」
夜の行動に慣れている俺は平気だが、クレアは見えないらしい。
「ちょ、触った?」
「変なところは触ってない」
クレアを誘導して安全な部屋の隅に移動する。
もしドアから盗みに入るとすれば手前から盗む。
この位置まで来る前に俺が仕留めたらクレアは安全だ。
「ここで待機しよう」
ゆっくり座って待つ。
「ちょっと寒いかも」
「これならどうだ」
「調子に乗らないで」
「悪いな」
「手を離していいとは言ってないから」
クレアの冷えた手を握ってしばらく。
どれくらい経ったのか、分からない。
「もう来な――」
不意にドアからカチャカチャ聞こえ始める。
「ッ……」
不安そうなクレアに耳元で囁く。
「バレても逃げられるだけだ」
カチンと鍵が開いた。
『俺が声を掛けたら指に火をつけてくれ』
キィッとドアが開くと。
月明かりがサラリと差し込んだ。




