イカサマ
幽霊さんは騒がしい。
目で追うことをやめたほど縦横無尽。
『ひーまー』
そんなことを言われても困る。
『遊びに行こー』
そこまで興味はないと首を振ってみる。
『……ちょうじょー現象おこすぞー』
「それはやめてくれ」
「じゃあ行こ!」
「一人で行ってきていいんだぞ」
「それは嫌! 寂しいし!」
幽霊でも寂しいらしい。
「暇つぶしなら、トランプはどうだ?」
近くの棚に一山のトランプがある。
「それで!」
トランプを左手に収めながら床に座り、シャカシャカ混ぜる。
「リドルは、何がしたい?」
「ポーカーしたい!」
「運試しか、良いだろう」
五枚のカードを配り、その時の役で勝敗を分ける。
先にリドルへ五枚、次に自分に五枚。
「もう見ても良いやつ?」
「いいぞ」
指で慎重にカードを上げて役を確認していた。
「これとこれと、これは返す!」
真ん中と左二枚を回収し、別のカードに交換。
「び、びみょー」
「そうか、もういいんだな?」
「リュウキは交換しないの?」
「しなくても勝てる」
カードを公開して勝負、リドルは三のスリーカードだった。
「これイカサマでしょ! 交換なしでストレートフラッシュなんて!」
「特にしてないぞ」
「納得いかない!」
「なに、どうせツケが来る」
特に来ないままポーカーを終えた。
「イカサマ! イカサマ!」
「それはない」
至って真剣に勝負したつもりだ。
親指を下に突き立ててブーイングを鳴らすリドル。
「怪しすぎ!」
別のトランプゲームに勤しんでみたが、それは互角だった。
「リドル、弱いな」
「おだまり!」
日が昇ってきたところでゲームを中断する。
「クレアを起こさないと」
「たしかに」
トランプを片付けてクレアの肩を揺する。
目は開けて、気づいた様子で閉じてしまった。
「起きろ起きろ」
「ねむーい、きがえるのもめんどい」
「後悔するぞ」
「このままギルドにはこんで」
「そんなばかな」
「……」
もう寝やがった。
「今のうちに変なところ触っちゃえばー」
リドルの悪魔のような囁き。
「いや、やめとこう」
両手で担いでギルドに運ぶことにした。
ギルドに入るとシンスより先にコノハが。
『リュウキ、待っていた』
「待っていた?」
「この話は後だ、クレアを先に」
近くの椅子にクレアを座らせる。目を逸らしている間にテーブルで伏せていた。
「で、なんだ」
「ワガママを聞いて欲しい、温泉に浸かりたい」
「そうだろうな」
深刻そうな表情でコノハがシンスを指差す。
「夜に開かれたことは知っていたが、シンスに置いていかれてしまった……」
傷が原因でダメだと言われたようだ。
遠くの方でミストが両手に風呂道具を構えて待っている。
「リュウキ、シンスの注意をなんとか!」
両手のひらを合わせて頼み込んでくるコノハ。
「頼む! なんでもする!」
「なんでも?」
「ああ! この街で男なら困ることは沢山あるだろう? どんな処理もお手の物!」
どんだけお湯に浸かりたいんだ?
「分かった、任せてくれ」
「コノハ? 何話してるの?」
確かに注意を払われているようだ。
「なんでもない! リュウキから金を頂戴していた」
そう言ってコノハは渡してもない金袋をシンスに向けて鳴らす。
「そう」
離れていくシンスを追って声をかける。
「シンス! 待ってくれ!」
「敬意はどうしたの?」
丁寧を外した俺の声に、シンスが反応しないわけがない。




