借り猫の如く
コンコンとタンザは律儀にノック。ガチャりとクレア。
『あんた……!』
「そうです、配達です」
「あれ? あいつじゃないんだ」
人差し指と中指に収まっていた手紙がスッと横に流れる。
受け取ったクレアは不思議そうにしていた。
「なんでそれ付けてるの?」
「ふふ、貰ったんです!」
頭に被ったままのドラゴンをよしよしと撫でて自慢してくる。
「へ、へえ……」
クレアは興味なさげにドアを閉めて帰っていった。
「どうでしたか?」
戻ってきたダンザを褒めてみる。
「自信がつきました、次もやりたいです」
よしやろうと家を回る。
途中で温泉計画を思い出した。
前にこの辺で湯を掘り当ててそのままだったのに、今では立派な建物に覆われている。
もし掘っていなかったら、この中に湯が湧いてるなんて微塵も思わなかったな。
「なにしてるんですか?」
「この辺に温泉が眠ってるんだ」
「おんせん?」
「熱い湯に浸かることだな」
「気になります……」
こっそり入ろうとするタンザを引き止める。
「それはダメだぞ」
よく見ると今日の夜には開くと書かれている。
「も、申し訳ありません」
全てを終えた頃には完全に陽が落ち。
『ボーナス? ボーナスは……手紙! そう手紙だ!』
報告すると報酬は貰えたが、ボーナスが省かれそうになっていた。
「手紙を未来永劫、無償で配達してやろう!」
「それはボーナスなのか」
「三人だけのサービス!」
それでもいいかとその場を後にする。
「ルビー」
「にゃあ」
いつも以上にルビーは静かにしていた。
右腕を差し出すと頬擦りしてくる。
「にゃっ」
腹立つことをしてしまったのか、ガブリと腕が!
「……」
「うー」
唸られながら宿の前に戻るとクレアとカゲが待っていた。
『やっぱりあんたの知り合いだったんだ』
「……」
カゲはムッとした様子で特に言ってこない。
「ほら、あいつを誘うんでしょ?」
「分かっている……」
カツカツと静かに近づいてきたカゲ。
「温泉が、開いたらしい……」
人差し指をクルクルさせてジッと見てくる。
「エムは興味ないか」
俺は特にないが、タンザは興味があるだろう。
ルビーもありそうだ。
「行きたいな」
ニコリと笑ったカゲに連れられて温泉の建物に。
「さて、男湯はないらしいが」
それもそうだ、ホウセンカは女至上主義だからな!
「か、カゲは残ってても……」
「楽しんできていいぞ」
「すま、ない」
目を潤ませて俺の分まで悲しんでくれたカゲは、クレアに背中を押されていった。
みんな行ってポツリと残った俺。
暇だなあと物思いにふけていると。
『男湯がなければ、女湯に行く、それだけであろう』
振り返ると疾風神レオが浴衣姿にタオルを担いでいた。
間違いない、こいつも浸かる気で来てるな!




