炎魔謹製
「瑞樹殿の夫であった八剣殿は、先だって人として転生されました。今の名前は瑞樹翔殿、5歳になります」
綿津見神さまの神使の「お使い」さんから、懐かしい夫の名前と死ぬ瞬間までそばに寄り添ってくれて見送ってくれた玄孫の翔ちゃんの名前が一緒に出たので驚きました。
「翔ちゃんが真一郎さまだったなんて・・・」
「ああ、転生とはいえ記憶は引き継がない普通の輪廻転生ですから、魂が八剣殿だったとお伝えするべきですね」
「あらあら、よかったですわ、久しぶりの妻に会ったら100歳超えているおばあちゃん、だなんてがっかりしちゃうでしょうから」
「ふふふ、それはどうでしょうか。さておき、八剣殿は自らの死後に瑞樹殿が八剣家を追われる様子なども少し見られており、争いの絶えないこの世界と先々に訪れる瑞樹殿の御不幸を悲観しておられました。そこである神に勧められ、瑞樹殿の別世界への転生を望まれ、託されておりました」
「まあまあ、妻らしいことは何一つできませんでしたが、真一郎さまはそこまで想ってくださっていたのですね」
「はい、ただ、その、なんと言いますか、瑞樹殿はご苦労も多い中、逞しく天寿を全うされており、翔殿に輪廻転生される前に『良かれと思って頼みはしたが、かえって瑞樹殿の苦労を増やしてしまったのではないか』と、心配もされていたようです」
少し困った口調でお使いさんは伝えてくれました。そう言われて改めて自分の人生を振り返ってみると、確かに苦労は多かったですが、妹夫婦の残した甥姪と過ごした日々は実の親子のように楽しいものでした。そして生きていくことだけに必死だった第二次世界大戦以降、日本では平和な日々が続き、甥も姪も無事成人し、家族が増え、生活は便利になり、美味しいものが溢れる世の中になるなど、90年も前にはとても想像できなかった時代だと思います。確かに真一郎さまの心配もうなずけます。それでも私はちょっとした期待感も抱いていました。
「あらあら、確かに世の中は便利な時代になって楽しかったですけれども、真一郎さまに頂いたチャンスにも興味がありますわ。だって私の曽孫から、ライトノベルや冒険アニメをたくさん見せてもらっていましたから。ロールプレイングゲームとか、私達お年寄りには頭も使えて気持ちも昂ぶっていい娯楽でしたのよ。あと近年だと異世界転生のお話も、いろいろ見た事がありますわ」
「ああ、内容を見聞きしたことはありませんが、綿津見神様によりますと、そういったお話や設定の一部は、実際に存在する世界が元になっているとのお話です」
「まあまあ、ますます楽しみになってしまいますわ」
思わず食い気味に聞き入ってしまいます。
「ふふふ、早速異世界に向けて気持ちが入って来ましたね。長くなりますので、お話しの続きは転生体を保管している所への道すがらお話ししましょう」
ひとまずお使いさんに先導していただき、私の転生体が保管されている場所へ向かうことにしました。
ふわふわと進むお使いさんの後ろをついてゆく私の頭の中ではいろいろな想像がグルグルと回ります。剣と魔法の世界かしら?それとも中世のヨーロッパのような世界?・・・あれ?そもそも平和な世界なのかしら・・・少し心配にもなってきました。
「そ、そういえば冒険の世界では、モンスターや怪物など、そういったものと戦わなくてはいけませんでしょうか?私は薙刀を少々 嗜んだだけで、そういった訓練とかどうしましょう」
「ご心配には及びません。まず瑞樹殿には新しい世界での活動を補佐する守護神をおつけする予定です。
さらに八剣殿に瑞樹殿の転生を勧め、準備をされたのは閻魔様になります。神界でも無類の研究開発好きで、特に火にまつわる能力に深い趣向を持たれており、『ほのおのま』と書いて炎魔大王とも渾名されているほどです。ですからそちらの方向に転生体にはいろいろな力が加味されており、仕上がりとしても申し分ないと思われます」
え?お使いさんちょっと待ってください。今『ほのおのま』と言われました?『17歳の体の情報を複写している』とのお話でしたが、その転生体に何をどんな方向で加味されたのでしょうか?とても気になるのですが。
「ええと、体の複写だけでも驚いているのですが、閻魔さまは何を加味されたのでしょうか?」
「ああ、転生体へ特別に能力の付与をしたとの話です。瑞樹殿がよく知る『げーむ』や『小説』で言う所の魔法に近いものですね。火を操りいろいろ燃やせます」
「魔法みたいに燃やせちゃうんですか!?」
「はい、魔法ではなく我々は『御技』と呼んでおりますが、使い方によってはとても激しく燃やせるそうです。あと自分も燃えます」
「自分も燃えるってどういう意味ですか!!??」
「閻魔殿 曰く、『俺ぁけっこう頑張ったぜ!』と申しておりました」
一体何を頑張ったのですかーーー!?