身近なる輪廻転生
残暑の残る令和元年10月。自覚はありませんが、苦しみもなく眠るように老衰で他界することができたようです。
なぜなら患っていた腰痛がまったくしないんです!素晴らしいです!しかもしばらく病院の床に伏していたので、なかなか酷い腰痛がして寝ていても起きてしまうくらいでした。それがもうスッキリさっぱり。
ここは何処だろうと辺りを見回すと、すぐ近くに蓮の花が浮かぶ綺麗な池がありました。
「あらあら、なんだか私はおいしそうな姿になっちゃいましたね」
池を覗き込んだところ、覗いている自分の姿は、まるで白い綿菓子のようでした。どうも私は荼毘に付されたであろう108歳の体ではなく、人魂のような姿になっているようです。
少し落ち着いてきたので、もう一度辺りを見回すと、どこかの天空のお城に居るように、低い所に雲が霧のようにゆっくりと漂っています。空は高く青く澄み切っており、とても明るいのにどこにも太陽が見当たりません。地面は芝生のような背の低い草が青々と茂っています。遠くの方に目を向けると、寝殿造りのような屋敷や鳥居がぽつりぽつりと見えます。なんだかとても不思議な景色です。
「こんな時って、なぜか自然に人気のありそうなお屋敷の方に足が向くのよね。今の私に足はないけれど、ふふっ」
ちょっと寂しかったので、独り言に自分で突っ込みながら、お屋敷の方に歩こうと思うと、ふわふわと浮いたままゆっくり前に進めました。
「思っていたより自由に進めるわね。膝も腰も痛くないから楽でいいわねぇ」
楽しくなってきたので、しばらくそのままふわふわと進むと、これまた人魂のような物が、こちらに慌てた様子で近づいて来ました。
「お待たせして申し訳ありません、瑞樹殿ですね?お出迎えに参りました。わたくしは綿津見神様の神使を勤める者の一人です。名はありませんので『使い』とお呼びください」
とても丁寧に人魂のようなお使いさんに声をかけて頂きました。声というか、頭に直接語りかけてくるような感覚です。優しく落ちつきのある響きの声に、ひとりぼっちで少し寂しかった私はホッとさせていただきました。
「はじめましてお使いさん、先程荼毘に付された瑞樹累と申します。ええと、お迎えとのお話ですが、私はこれから三途の川に向かうのでしょうか?それとも先に閻魔様にお会いして、お裁きを受けるのでしょうか?」
人魂のような姿のお使いさんは、小首を傾げるようにすこし斜めに傾きました。
「ああ、なるほど、今でも死後の世界はそのような印象なのですね。最近では亡くなられる方が日々多く、渡河も神判も省略されております。死者の魂は、しばし霊界にて漂った後、順番に記憶を消され、その者の功徳によって輪廻転生か、畜生道に堕落転生させられるのが最近の流れです」
「あらあら、それでしたら私はどうなるのでしょうか?」
「瑞樹殿にはそのどちらでもなく、綿津見神よりの願いで、記憶などはそのままに転生し、他の星に転星していただきます。詳しくは後ほど転生を担当される神よりお話があると思います。あとここは死後の世界の霊界ではなく神界になります」
転生の道すがら、私は数多く存在する神様が地球上の様々な地域で活動し、同じ神でも地域によって様々な呼ばれ方をされている事や、他の星々や他の星の神々とも繋がりを持ち、数多くの星を見守ったり、守護をしていたりしている事などをお使いさんに教えてもらいました。
「神々にもいろいろおられまして、まったく俗世に興味を示さず、神の意味や力、原理を一心に研究する神、気まぐれに俗世に干渉する神、地球から離れて戻らなくなった神、他の星から移り地球に馴染んだ神などありまして・・・綿津見神は異界とも積極的に交わり、各所で俗世の安寧と発展を見守られていました・・・いえ、います」
あら?一瞬過去形になったような。
「それでは綿津見神さまはとてもお忙しいのですね」
「はい、今回も綿津見神より、瑞樹殿に直接お会いして、お願いをしたかったと聞いておりますが、かなり遠い異星にて問題が発生いたしまして、手が離せないようです。特に今回は破壊や混沌を好む邪神と呼ばれる類の神が関係しており、ややこしいことこの上ないと・・・」
「そんなお忙しい綿津見神さまのお願いとなると、お断りしづらいですね。それでも私は一世紀以上生きてきましたから、この記憶のままで、すぐに赤ちゃんからやり直すのはちょっと・・・」
「ああ、そこは大丈夫です。前世の旦那様、八剣真一郎殿からのお願いがございまして、死別されました瑞樹殿の17歳の頃の体が複写してございます。なのでその体にて転生転移となります」
90年も前に死別した八剣真一郎さまの名前をここで聞くことになるとは思いませんでした。体が複写されている事にも驚きましたが・・・しかも真一郎さまからも、転生のお願いをされていたなんて・・・