ハクリュウの再編・前編
一騎打ちに勝利した翌日、昼過ぎにグリマーニア王一行は首都リュウズに到着しました。コクロウを併合し一気に国が大きくなった事は、一騎打ち決着直後に先触れが首都に走り、喜んだ市民が沿道に詰めかけ、王一行を拍手や歓声で祝福し迎えています。さながら凱旋パレードでした。
歓声の中、王宮に戻ると、ちょうどシマさんも王宮にいらっしゃっていました。初のリュウズ訪問だったそうで、見るもの全てが珍しく、落ち着いたフリをしながらも時折キョロキョロと周囲を眺めていらっしゃいました。
「おお、貴殿がシマ殿ですね。この国の王、グリマーニアと申します。いろいろご迷惑をおかけした上に、キク殿に大変助けていただきました」
「これはこれはグリマーニア王、シマですじゃ。初めてお会いしましたな」
そういえば前にお聞きしましたが、お二人ともお会いするのは今回が初めてとのことです。
「しかし守備兵の精鋭500人をたった17人で行動不能にしてしまうとは・・・実は20年前の血気盛であった余はシマ組を力づくで併合しようとも考えました。しかし近衛兵長のガンスに頑として止められたのだ。争えば損害が計り知れないと。今ならその意味がよくわかる」
「ふぉふぉふぉ、王様は正直ですな。若い頃は誰しも皆そんなものですじゃ。儂は国を治めるような気概も器もありませぬが、己の力で未来を切り開く生き方には憧れていましたのじゃ」
シマさんも若い頃は強い人と戦いたい気持ちはあったんですね。どうもこの世界の強い方々は攻めっ気が多いと言いましょうか・・・でもこの星の今はそんな時代なんだろうとも思います。地球の歴史でもそんな感じでしたし。
さて、帰城して早々ですが、国政会議です。元コクロウ領の安定と国内に残る問題を早急にまとめたいとグリマーニア王さまはじめ、ハクリュウの皆さんは気合が入っています。何しろ内患外患がここ数日で一気に解消し、国の規模もほぼ倍増しました。おまけに鏡さまや、シマ組も国づくりに協力することとなり、念願の内政に専念できるとグリマーニア王さまが帰りの道すがらおっしゃっていました。
まずは王さまとハクリュウの文官の皆さんが集まり大臣の職責変更と配置転換を話し合いました。
軍務外交大臣に元 近衛兵長 兼 外交大臣のガンスさん。ほぼ従来の役職です。
経済財務大臣に元 王太子教育 兼 内務大臣のセバスさんがグラフールさんに代わりに就任。王さまの信任厚い方です。
開発生産大臣に元 生産大臣のプランさん。農業や産業の進展が主な職務で、こちらもほぼ従来の役職です。
法治内務大臣に元 治安大臣のランスさん。法の整備と地方行政・治安・土木・衛生の管理運用と従来より幅広い職務です。
近衛兵長 兼 王補佐(大臣扱)に元 在野、旧 守備兵長のジサイさん(サイさんから再びジサイさんに改名)。コクロウ戦での反省から、個人戦も軍統括も長けたジサイさんが、王を支える重職に復職しました。
この5人がグリマーニア王さまを支えて、これからの国を動かすことに決まりました。集まったハクリュウの文官の皆さんもここまでは満場一致でしたが、副大臣として王さまが指名した4人中3人で大きく揉めました。
軍務外交副大臣にグリナス王太子さま
経済財務副大臣にグラフールさま
開発生産副大臣にカツエさん
法治内務副大臣にカスケさん
まずはグラフール王弟さまの件です。まだ反乱の処断も決めてない中で、副大臣への起用はさすがにおかしいとの話です。コクロウとの会談に向かう際に王の預かりと民に宣言したとはいえ、王の命でも承服しかねる大臣や文官の方が大勢でした。揉めに揉めたこの会議では正式に決まらず、経済財務副大臣はとりあえず空位となりました。
もう一つ揉めたのがつい先日までの敵国の大臣をされていたカツエさんとカスケさんの起用です。これまた多くの文官が反対しましたが、今までコクロウの国の内政をほぼ二人できりまわした能力と、コクロウのスムーズな併合のために絶対に必要な人材との王の説明に納得され、こちらはしばらく監視付きの条件で承認されました。
カツエさんとカスケさんのこびりついた目の下のクマが消えるのは、もうちょっと先になるかもしれません。
今回のハクリュウ国の大きな変更として、シマ組が正式にハクリュウ国の自治領として組み込まれることになりました。シマさんは精鋭守備兵を無傷で無力化させた内紛収拾の功績により、領主として『シマダカ』の名を拝命。キクさんも一騎打ちにてコクロウを併合した功績により、『キクチヨ』の名を拝命しました。
個人的にお名前がコロコロ変わるのはどうかとも思いますが、この世界では滅多にない大変名誉なことのようなので、素直に祝福しようと思います。シマ組や旧コクロウの皆さんは、なんとなく和名な響で覚えやすいのが救いです。あ、決して名前が覚えられないわけじゃないんですよ、決して。
名前と言えば、王都に同行した旧コクロウの王アマゴロツネさんは『アマゴ』に降名。ガザさんと近習兵50名を含めて本人の希望通りシマ組に編入。心身ともに鍛え直すことになりました。
アマゴさんとガザさんの処分でも重い罰をとの声もありましたが、シマ組でこれから苛烈な鍛錬が課され、シマダカさん預かりということもあり、意外とすんなり決まりました。500人の精鋭をたった17人で完全制圧した事から、ハクリュウ国内で国務に携わる者の中では、今やシマ組は尊敬と畏怖の念で見られているようです。
そのシマダカさんは、グリマーニア王さまやキクチヨさんの活躍に刺激され、もうひと暴れしたくなったとのことで、グリマーニア王さまより格別の配慮をいただいき、シマ組の役割を遊撃部隊として国内外の問題対処に、独自判断で行動できる権限が与えられました。さらに王都に同行したシマ組の選りすぐりの6人は、それぞれハクリュウ国の地方駐在官として赴任することになりました。これにより国内の情勢がシマ組に集まりやすくなります。6人もシマダカさんの力になれるならと、喜んで拝命されました。
ハクリュウ東方官(旧コクロウ統治官)/キクチヨさんと奥様のナナさん
ハクリュウ西方官/細身の長身で美人さんのオカさん
ハクリュウ南方官/シマ組作戦参謀のゴロさん
ハクリュウ北方官/いつも笑顔でちょっと太めのハチさん
ハクリュウ地方連絡官/足が速く右目の眼帯が渋いヒサさん
キクチヨさんとナナさんご夫婦が担当されるハクリュウの東には広大な旧コクロウ領が広がるため、お二人で駐在し、カツエさんとカスケさんも落ち着くまでは帯同されるとのことでした。いきなり責任重大です。シマダカさんはいい機会だから人を治める事も勉強してこいとキクチヨさん夫妻の背中を押していました。もともとアマゴさんの武勇に惚れて付き従ってきたコクロウの国衆なので、アマゴさんに勝った強者のキクチヨさんなら付いてくるであろうという読みもあります。
このポストはシマ組の皆さんが占めましたが、さすがに文官の皆さんはこの人事には反対せず黙り込んでいました。シマダカさんはたった17人で精鋭500人を無力化。キクチヨさんはコクロウの一騎打ちで圧勝。その二人に近い能力を持つ他の5人に誰も敵いませんし、地方での国防の要にはそれを鎮圧できる強者が必須でもあります。
ここまでが決定した頃、夕刻となりこの日の会議は一旦終了。鏡さまと私もやっと解放されました。
「か、鏡さま、今日は違う意味ですごく疲れましたね・・・」
「え、ええ、吾もここまで一度に決めていくとは思いませんでした。明日は吾を含めた新教の骨子決めがありますから、今晩少し皆で話し合いましょう」
と、そこに響く足音が
「鏡様ーーー!ひどいでござる!拙者ずっとお留守番でしたぞーーー!」
「フゴフゴフゴーーー!」
竜宮ちゃんは鏡さまに、ミミちゃんは私に飛びついて来ました。うわっ!ミミちゃんの飛びつきはキツイ!なんとか受けとめましたが、床に倒れてしまいました。寂しかったんですねぇ。泣きながら顔をベロベロ舐めてきます。
あれ?そういえば鏡さまは・・・あらあら、竜宮ちゃんの勢いに押されて、ものすごく後ろにすっ飛んでいました。・・・大丈夫でしょうか?




