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転神転生  作者: 拓人雨
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見ためと印象はアテにならない

 コクロウの王様だったアマゴロツネさんは、思っていたより良い方でした。

 ただ、強い人と戦う事が好きなのは根っからのようで、戦ううちに集落が大きくなり、背負う仲間や人が増え、力試しだった戦いが、次第に奪い合う決闘になってしまったそうです。

 戦後処理は一騎打ちでの決着により、今回は損害が無かった事と、事前の血判書類に沿って行われたため、あっと言うまに終了。開戦以来しばらく続いた小競り合いでの補償もすんなり決まり、今は決戦前の会談会場の席と同じ並びで夕食を囲んでいます。


「そもそも俺は強い奴と戦いたかっただけなのに、毎回負かした相手の背負っていたもの全部引き受けるとか無理だと思わないか?・・・でもなぁ・・・頼られたら放っとけないしなぁ・・・」


 アマゴロツネさんのお話は至極ごもっともです。そんな責任を毎回背負わず拒否すればよかったのですが、強い者として庇護を求められて放っておけなかったとの事です。

 その争いの最中さなかで、2年程前に偶然倒した相手から手に入れた黒い冠に、混沌の世を望む神が宿っており、意識の支配になんとか抵抗しながらも、国の運営に関する知識もあったことから、カスケさんとカツエさんのためにと持ち続けたそうです。

 しかし、大きく膨らむ重責など色々と鬱積し徐々に心は限界に。タマちゃんがガブリル王女さまに伝えていた『コクロウには暗い闇が潜んでいる』とは、この黒い冠に憑いていた付喪神つくもがみによる邪悪な思考を感じての事だったのでしょう。

 コクロウは大きくなったことから、アマゴロツネさんが望まなくとも相手から向かってくるようにもなり、それを打ち倒しさらに膨らむ重責。

 そんな折、国として人も都市も着実に整いつつあるという噂のハクリュウに目をつけ、征服ができれば優秀な人材を使役し、負ければ統制が崩壊寸前のコクロウの国の再建を任せられるという目算から、今回の戦いを持ちかけたとの事でした。一騎打ちにこだわったのは、個人的な嗜好と無駄な血を流したくなかったからとお話されました。


「ウチの大将は口では大きい事言いますが、だいぶ無理してるのはわかってはいましたからね。私たちもできる限り頑張ってきたのですが、そろそろみんな限界なのは分かっていました。黒い冠も皆はすぐ捨てるなり壊すなりを進言しましたが、便利な部分も多かったので、大将が無理して持ち続けていたのも心苦しかったです」


 カスケさんとカツエさんがため息交じりに思い返しています。

 あー、これも私知ってます。社長やトップが頑張ってると、下の者も頑張らなきゃいけないと釣られて頑張っちゃう流れですね。


「しかしキク殿の強さには驚いた。あの本黒木ほんこくぼくの木刀も凄かったが、ぜひキク殿に弟子入りしたいものです」

「いや、わたしはシマどん・・・シマ殿の補佐にすぎません。アマゴロツネ殿の打ち込みは今まで受けたどの一撃より重かったです。わたしもうかうかしていられません」


 キクさんとアマゴロツネさんがお話で盛り上がっている横にふと目をむけると、ガザさんがじっとこちらを見ています。そういえば時折変な視線を感じていましたが・・・


「ああ、すまぬ。その、カサネ殿でしたかな?そのそなたが持つ漆黒の槍のような武器は何でしょう?実はずっと気になっておりまして」

「あ、はい、これは薙刀なぎなたと言いまして、槍にとても似ていますが、戦いでの使い方は刀と槍の中間と思っていただけると、わかりやすいかもしれません」

「ほお・・・なるほど。いや、初めて見る武器なのでずっと気になっていたのだ。是非とも一度お手合わせ願いたい」

「おお、できましたら俺ともお願いしたい」

「ふふ、コクロウの皆さんは手合わせがお好きな方が多いのですね。はい、機会がありましたら組手いたしましょう」


 キクさんとアマゴロツネさんはすっかり仲良くなったようですし、ガザさんは武器への趣向が深いようです。

 と、ここでグリマーニア王がすこし真面目な顔で咳払いを一つ。


「おほん、さて、国同士の取り決めについては先ほどの件で良いとするが、アマゴロツネ殿と重臣の皆には今回の事でってもらわねばならぬ責があるが、明日首都に戻った後に王国議会を開き決定する。すまぬがご同行願いたい」

「・・・おお、その通りである。何なりとお申しつけくだされ」


 カスケさんとカツエさん、ガザさんの顔に緊張が浮かびます。


「うむ。個人としては悪いようにはしないつもりでいる。できることならば、これからはカガミツクモ様とカサネ殿の目指す世界の実現のために尽力してほしい」


 カスケさんとカツエさん、ガザさんの顔に安堵が浮かびます。

 と、同時に不思議そうな表情も。


「あの、グリマーニア王自ら様づけされるカガミツクモ様とは?」

「おお、肝心の紹介を忘れておった。こちらがこの星の神であるカガミツクモ様である」


 グリマーニア王は立ち上がりうやうやしく両手でかがみさまを指し示しました。

 旧コクロウの皆さんは、近くに控えていた近習の兵の皆さんも含めて一様に目が点に。


「な、なんと。俺を操ろうとしていた漆黒の冠も自分を神と称しておったが、このような人の姿をされた神もおわすとは」

「・・・ああ、でもこの星の神様なのでしたら、人のお姿も納得します。あの冠はそこそこの知識と喋る以外は特に何にもできなかったし」

「俺はただのヒョロヒョロした文官だと思ってました。大変な失礼を」


 うーん、どうもかがみさまの人としての第一印象が薄いみたいです。それはそれで良い場合もあるのですが、この後ハクリュウではかがみさまを神と崇めていただけるとの事ですので、何とかしたいとシマ組での一件以来ずっと考えていました。


「・・・あのう、いっそのことコクロウの冠の例もあることですから、かがみさまは神体の鏡をそのまま神としてはどうでしょう。人として自由に動いても、この世界では神さまとは思われにくそうですし」

「おお、なるほど。でしたら教義のシンボルなども鏡の紋様などが良いでしょうね」

「なるほど。の薄い印象もこれなら好都合ですね」


 神さまがご自分で嬉しそうに印象薄いって言うのはどうかとも思いましたが、時代劇などで諸国を巡るご老公さまや暴れる将軍さまのように、市井に交わり世にはびこる悪徳や不正を正せるんじゃないか、なんて内心ウキウキしてしまったのは内緒です。


 この日はもう一泊ここに泊まり、明日の早朝に首都に向かうことになりました。昨晩同様に同部屋となったガブリル王女さまと私は、いろいろ落ち着いてホッとした事もあり、おしゃべりに夢中になって夜更かしをしてしまいました。


 ガブリル王女さまのお話は、たまちゃんの事、これからの事、王族としての悩みの事。同世代にこうした悩みを話せる娘が居なかったからか、なかなか王女さまの胸の内には溜まっていたようです。


「ふう、今日はいろいろお話できて嬉しかったです。カサネさま、これからも相談に乗っていただけますか?」

「あらあら、ガブリルさま、私こう見えても少し前まではおばあちゃんだったんですよ」

「・・・ふぇ!?おばあちゃん?」

「ふふふ、でもこんなおばあちゃんでも良かったら、これからもお話しましょうね」


 ガブリル王女さまは私が先日までおばあちゃんだった事を聞いて、目を白黒させて驚いていました。

 それでも見た目は同世代で立場上気軽にお話ししやすいことから、また二人でゆっくりお話をする約束をして、たまちゃんを真ん中に置いて眠りにつきました。

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