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転神転生  作者: 拓人雨
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黒王の冠

 国境付近、ハクリュウ国とコクロウ国の会談会場は夜のとばりがおちはじめていた。

 コクロウの王、アマゴロツネは一足先に来ており、両腕を組み控えの寝所がある高台より会談会場を楽しげに見下ろしている。


「ハクリュウはこれまでで一番大きな相手ぞ!さぞかし強い大将なのだろうな。グリマーニア王とやらと、やり合うのが待ちきれぬ。そして明日にはハクリュウの国も俺の物か、愉快よの」


 コクロウの国は建国からまだたったの5年であるが、国力はハクリュウの3分の2程の規模を誇る。飛ぶ鳥を落とす勢いのコクロウの国だが、懸念が一つ。その急伸があだとなり、内政がおざなりになってしまい、国内が安定しておらず、むしろ荒廃の一途である。大臣も2名しかおらず、首都と言えばアマゴロツネの生まれた街トリトネではあるが、名ばかりの首都で町の規模もさほど大きくはない。とにかく国としての基盤ができていない国であった。

 

『・・・アマゴロツネよ。今回もいつものやり方でゆくのか』

「おうとも、これが俺のやり方よ」

『大将首を取れば、あとは従うというのが通用するのは、せいぜい集落程度の相手までだぞ。ハクリュウの国には、王太子も居れば文官大臣も数多くおると聞く』

「はっ、面倒なのは御免だ。逆らう奴がいるなら、全て俺自らが行って全員黙らせてやるさ」


 アマゴロツネの念話の相手は、。アマゴロツネが常に頭に戴いている漆黒のかんむり付喪神つくもがみである。3年程前に邪神マーラデモン様より力と知識を分け与えられ、この星のとある集落の長を支配し操る形で多くの戦火を起こし、人々の憎しみや悲しみを、マーラデモン様に捧げてきた。

 2年程前のある日、その長がこのアマゴロツネに討たれた。その際に念話で語りかけ、この男の頭に被せる事に成功したが、この男はなかなかの強者つわものが支配できなかった。やたら戦好きで、強い相手を見つけると、自らが出向き戦わずにいられぬ性格であった。


『アマゴロツネよ。が何度も言うように戦は数ぞ。国を整備し、軍を養え。そしてより多くの街を蹂躙し、コクロウの国を総力で攻め滅ぼすのだ』

「逆にお前はそればかりだな。自分で戦わぬ戦の何が楽しいと言うのだ?それに国としては、カスケもカツエも内政に手一杯だ。今引き連れてる野盗まがいの野郎ども以外は軍隊なんぞ組めぬわ」


 確かにそうではある。今手駒として居る大臣はカスケとカツエという姉弟きょうだいしか居ない。国として最低限の内政管理で手一杯でいつも目の下にはくまがある。


「王よ・・・そう思うのであれば、私たちを戦の度に連れ回さないでいただきたい。執務が滞ります」

「ふはは、お主らは賢いが非力だからな。今は首都トリトネですら治安が悪い。此度こたびの戦でハクリュウの国の文官供を従わせたならばそちらに預けようぞ」

「そんな優秀な文官の方が居る国に簡単に勝てますかしら。王の悪運もこれまでかもよ」

「カツエよ、言うではないか!まあ、その時はその時ぞ。俺は戦を楽しめればそれでいいのだ。万一の際はお主らはうまく取り入ってハクリュウにでも仕官するがいいわ」


 二人の大臣がため息をつき、アマゴロツネ王は楽しそうに笑う。と、その傍に影が静かに舞い降りた。


「王よ、戯言も大概にしてくれ。今しがたハクリュウの王一行が宿所に着いたようだ」

「ガザか、ご苦労。してどうであった?グリマーニア王の様子は」


 アマゴロツネ王の数少ない側近であるガザが物見から帰還した。常に気配が薄く、神であるから見ても不気味な男である。


「馬車から降りた王らしき男は、50手前のおっさんだ。戦士としてのピークは過ぎてるだろう。まだ息子らしき男の方が若いが戦えそうだ。あと娘の方にも何かを感じる。強いだけならハクリュウの兵士ではなさそうな格好をした男が一番強そうだ。あとはヒョロヒョロの色白男と、少しはできそうな娘が乗っていた。文官か何かかもだな」

「ふはは、強いのであれば王でなくとも、男でも女でも誰でも構わぬ。逃げずに来たのであれば今日のところはもう良い。俺も明日に備えて寝るとしようぞ」

「あちらは話し合う気満々だというのに、ウチの王はり合う気満々だな。まあいつもの事だが。さて王の近習どもよ、明け方まで見張りを頼む。私も少し休む」


 コクロウの一行は状況確認が済むと、それぞれの部屋に戻った。真夜中を過ぎたというのにコクロウの宿所は騒がしい。王はを傍に置き高いびきで寝ている。は呪いのように一度被れば外せないはずなのだが、この男は何事もなかったように外してしまう。カスケとカツエの居る続き部屋から漏れる光は消えそうもない。山のような書類を片付けようとしているのであろうが、定期的に寝息が聞こえる。居眠りをしながらで効率が悪そうだ。見張りを任された近習の兵どもは、酒盛りがまだ続いているようで、少し離れたところから卑下た笑い声が時折聞こえてくる。

 邪神に仕える付喪神つくもがみの自分が言うのも何だが、上から下まで自分勝手な連中ばかりである。だからこそ利用しやすくもあるのだが、王を支配できなかったことが歯がゆい。いざとなれば脆い国内をかき乱し、内乱を誘発させてコクロウを混沌とさせるのもいいかもしれない。

 それはさておき、にとって気がかりな点がもう一つ。数ヶ月前に我が主マーラデモン様は、どこぞの神との争いで深手を受けて、今はこの星のどこかで深い眠りについているようだ。一刻も早く目覚めていただくためにも、この世界を絶望と混乱で満たさねばならない。そのためには、明日は是非ともアマゴロツネ王にハクリュウを蹴散らし、ハクリュウ国を混沌に導いてもらうのが好ましい。もっとも、討たれてしまうようであれば・・・。


 翌朝、会談会場に主だった者が集まった。

 ハクリュウの国の王とその息子である王太子と娘の王女が中央に、向かって右にガザが一番強そうだと見込んだ男が座る。左にはヒョロヒョロの色白男と王女と同じ年頃の娘が座る。

 こちらは中央にアマゴロツネ王。左右にカスケとカツエが座る。ガザは席に居ない。忍んで何かをしているのであろう。は改めて会場を見渡した。さて、どうなるであろうか。

次回はかさねさん視点に戻ります。

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