表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転神転生  作者: 拓人雨
3/43

元号マスター累(かさね)さん

剣璽等承継けんじとうしょうけいの儀も滞りなく厳かに執り行われ、本日より正式に元号が令和になりました」


 病室のテレビからアナウンサーが明るい声で平成から令和へ元号が替わり、新しい時代の到来を嬉しそうに伝えています。


 私は瑞樹みずきかさねと申します。よわい108歳の誕生日をこの病室で迎えました。特に病気をしている訳ではないですが、さすがに体は衰えてきており、今年になってから老衰でベッドにずっと伏せっています。ちょうど誕生日の5月1日が徳仁なるひと天皇の御即位の剣璽等承継けんじとうしょうけいの儀の日と重なることになりました。


 1911年、明治44年生まれの私は、17歳の1928年、昭和3年に日中戦争のさなか、山東出兵から済南事件の際に若手士官として出兵した夫とは結婚したばかりで死別してしまいました。未亡人のまま迎えた34歳の1945年、昭和20年では第二次世界対戦の際に、5歳年下の妹のつづり夫君ふくんとともに本土空襲で死亡したため、疎開していた小学生の甥と姪をひきとり、なんとか成人まで育てることができました。それから孫も生まれ、その孫も生まれ、今では玄孫やしゃごまで含めて10人を超える親族に囲まれています。


「あ、これでかさね祖母ばあちゃんは、明治、大正、昭和、平成、令和の近代元号を全部過ごして来たって事よね。なかなかそんな人は居ないんじゃないかしら」


 ベッドの側で曾孫ひまごつむぎが同じテレビを見ながら、思い出したように驚いています。


「ふ ふ ふ、そうねぇ きが ついたら もう そんなに なるの ねぇ」


 この百数年、思い返せば苦労した記憶ばかりが蘇ります。けれども、妹の子供たちと本当の家族のように共に過ごしてくることができた人生に、悔いはないと思っています。

 昭和の時代は苦労の思い出が多いですが、平成の思い出は曽孫ひまごつむぎたちと一緒に、冒険小説や漫画やテレビゲームをいろいろとたしなみました。それでも百歳を超えたあたりからは拡大鏡などがないと文字も読めず、アニメなどを見ていましたが、今はもうテレビ画面を短時間見ているだけで疲れて眠くなってしまうようになりました。


「ひーひーばーちゃん、眠いの?」


 一番下の玄孫やしゃごにあたる5歳のかけるが、思い出に遠い目をしていた私をきょとんと覗いてきました。

 ふふふ、この時分の子は目がキラキラしていて、表現できない程に可愛らしいものです。


「か ける ちゃん だいじょう ぶ よ でもちょっと 眠 く なっちゃった から すこ し 寝る わね おやすみ なさい」

「うん、かさねばーちゃん、おやすみなさい!また来るね!」


 まだ喋れるけれども、言葉が途切れ途切れになります。一番可愛いかけるの顔もパッとすぐに思い出せないくらい、記憶もぼやけがちになり、日々心細くなってきています。


 チリーーーン


 一人になってなんだかとても広く感じる病室で目を閉じると、去年の夏祭りにつむぎかけるが買ってきてくれた風鈴が、窓辺で涼しい音を奏でています。少し早いですが真夏はとても窓を開けていられない暑さなので、今日から飾ってみることにしました。近年では5月も暑い日が多く感じます。


 チリーーーン


 少し軽いけれど、透明な音が涼やかに感じます。


「この 夏 は 越せる かしら ねぇ・・・なんだか 最近 とても 暑いし・・・」


 チリーーーン


 私はこの涼やかな音を聞くと、昭和の時代によく家に托鉢たくはつに来られていた、若いお坊さまの鳴らすれいの音を思い出します。


 チリーーーン


「ふふふ、つむぎ と かける に 托鉢たくはつ なんて 言っても 解らないわよねぇ。お坊さま が つじや 玄関 先で れい を 鳴らし お経を 唱えて くださる代わり に お布施を お渡し する とか 言っても わからない かな」


 チリー・・・ン


「あの頃 よく 家に 来られた 若い お坊さま は お元気 かしら・・・よく 笑っ て いら した の よ ねぇ・・・」


 チ・・・リ・・・ン


 夏は越せましたが、令和元年10月に家族に見守られて私は生涯を閉じることになりました。108年という太めで長い人生でした。

次回も引き続き転生する人。かさねさんの視点になります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ