正面から堂々と行きましょう
夜が明けました。今日は朝から小雪がちらつくお天気となり、とても冷えます。仮装住居を使っていないので、少し寒さが堪えます。
昨日より食事はシマ組の皆さんが用意してくださいます。鏡さまは、自分が作ると言い張っていましたが、食材を提供してもらった上に、神様にそんなことさせられないと却下されていました。鏡さまは調理場で、今まで知られていなかった食べられる植物や素材をシマ組の皆さんに教えて、一緒に調理場でこれからの調理法を話し合っています。さすが食の探求に余念がありません。
さて、朝餉の支度も整い集会場にシマ組のみなさんとサイさんが集まってきました。朝餉を取りながらの会議がはじまりました。シマさんが皆を見渡してから話しはじめます。
「皆、よく聞いてくれ。儂らシマ組はハクリュウの国に目をつけられておるようじゃ。一昨日の大火は先日グスタ兵長どもが柵に油などを仕込ませ、シマ組を焼き払おうと準備をしたものに、あの三馬鹿どもが火を放って逃げたんじゃ。その指示も副王のグラフールからと思われる。
儂らが今更、国に組み込まれる訳もないと知った上で、サイどんに殲滅命令を出そうとしたのは副王じゃ。いずれ正面から対決になるやもしれぬ。そこで儂からの案は二つじゃ」
シマ組のみなさんの目が一様に鋭くなります。
「まずはハクリュウの国に詳しいサイどんをはじめとする部隊を編成し、国の首都『リュウズ』に向かうのじゃ。まず一つ目の案は、サイどんを通じてグリマーニア王に直接話をして訴える案じゃ。そして二つ目の案は、密かに首都内に潜入し、シマ組を邪魔だと思っておると思われる副王のグラフールとその側近ジョスを始末する案じゃ。・・・カガミツクモ様方は如何お考えでしょうか?」
如何も何も、二つ目の案が物騒すぎます!でもシマ組のみなさんの多くは、一昨日の大火災と昨日のサイさんのお話から、シマ組に仇なす副王なんざ討ち取ってしまえ!と意気盛んに、物騒な方で盛り上がっています。
「・・・とにかく、皆でハクリュウの国に行くのは決まりでしょう・・・問題はどうやってこの事態を収めるかですね、累殿?」
「はい。私としては副王さまと、その側近を討つのだけは反対です」
「・・・ふむ」
シマさんは納得しながら首を縦に振り、片目を閉じて、じっとこちらを見ました。
「シマ組の皆さんとサイさんの力であれば、副王さまを討ち取れるかもしれません。しかしそれでは皆さんが、国から追われる立場になってしまいます。私はまず、副王さま達の目的を正確に知りたいと思います。そしてその目的が、昨日お聞きしたように国を乗っとる考えでしたら、改めて正面から副王さまの罪を訴え、討伐を宣言し、捕縛して反省していただきましょう」
反省の部分を強調して微笑んだ私を見て、シマ組の皆さんは少し怪訝そうな顔をしはじめました。
「ふむ、カサネ殿、確かにそれは理想でしょうが、そんな簡単にあ奴らが腹の内をさらしますかのう。しかも国の副王という立場もある。他所者の儂らの相手をしますかのう?」
「うふふ、ですから今回はグリマーニア王さまに全面的に協力してもらいましょう」
「ほ?いやいや、儂でさえ王に会ったことは無いですじゃ。面識があるのはサイどんくらいじゃろう」
「はい、この方法はサイさんの協力なしでは成し得ません。あと鏡さまのお力を、またお借りしたいです。なんだか私は毎回皆さんのお力に頼ってばかりで申し訳ないのですが・・・」
「吾はもっと頼ってもらいたいくらいですよ」
「私も私のできうる限り協力は惜しみませんぞ!」
鏡さまも、サイさんも任せておけと言わんばかりに胸を叩きます。頼りになります!
「ありがとうございます!では、まずは・・・」
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ちょうどその頃、シマ組に火を放ち逃走していたタイ、シン、マロの三人組が、ハクリュウの国の首都にあたるリュウズの街に到着した。衛兵詰め所で報告を済ませると、三人は兵舎の裏にある普段使われない納屋に通され、待っていたグスタ兵長に報告をはじめた。
「グスタ兵長様に、シマ組指導員より報告いたします!シマ組に自分を『神』だと名乗るおかしな連中が入り込み、合流いたしました!」
「ワシらはそれを奮戦して阻んだども、シマ組の連中に縛られて捕まってしまってのう。グラフール副王様より言われた、シマ組の孤立と足止めが難しくなったもんで、柵の仕掛けに火をつけて、急いで逃げてきたんですわい」
「タイ、もっと丁寧に報告しなさいよ!ああ、でもびっくりしましたわ。あんなに大火事になっちゃうんですもの」
一方的にまくしたてる三人の様子を眉間にシワを寄せて聞いていたグスタが口をひらき低い声で呟いた。
「貴様らの報告はいつも要領を得ないな・・・。それよりもだ、なぜ三人揃って貴様らはここに来た?そんな報告なぞ一人が来れば十分ではないか。『神』とは何だ?そちらの詳しい報告はないのか?しかも半月後に使用する計画だった柵にもう火をつけただと?」
低く怒気のこもった声を聞いた三人は、ますます激しくまくしたてはじめる。
「いや、その、我らは『神』の一味の情報を入手する前にあえなく取り押さえられてしまい、脱出する際の追っ手を巻くために仕方なく柵に火を・・・」
「そそそ、そうじゃ、孤立と足止めだけでも充分できるように、食料もほとんど焼いたり奪ったりして来たんじゃ!食べ物はほとんどワシらで食べちゃったがのう、食べ過ぎちゃったせいか、走るとお腹が痛くて痛くて」
「ばばばば、ばか言ってんじゃないわよ!でもでも、ものすごい大火事になっちゃったから、これでシマ組も『神』とやらも、みーんな燃えちゃったわよ!きっと!ね!ね!そうよね!」
グスタの眉間はシワに加え青筋が浮いてきた。
「全て燃えたかどうかの確認すらしておらんのだろう?何もかもが中途半端ではないか!役に立たぬ上に命令違反だ。おい、衛兵ども!誰かいるか!この馬鹿供を牢にぶち込んでおけ」
「ははっ!」
「いや、そんな!お待ちくだされ!我らはグラフール副王様のためを思う一心で!こら離せ!はなせーーーー・・・ 」
「なぜじゃあ、ワシらなんも悪いことなんぞしとらんぞぉ!言われた通りにしただけじゃぁぁぁ・・・ 」
「きゃー!やだやだやだ、そんな、どうしてーーー・・・・・・ 」
静けさの戻った兵舎の納屋に、小柄な男が一人ため息交じりに入ってきた。
「もう少し使える馬鹿どもかと思ったが、所詮はこの程度か・・・しかし『神』とは何のことか、少し気になるな」
「ははっ、ジョス様。申し訳ございません。まあ、『神』という集落があったのやもしれませんな。それよりも王一派を始末し、グラフール副王を王にすえた後、あの馬鹿共々まとめてシマ組全てを焼き払い、始末する予定が台無しです」
「ふむ、今のところハクリュウと直接の関係はないとしても、シマ組の連中は強者揃いで何かと目障りだからな」
「ええ、防護にかこつけうまく忍ばせた延焼柵に我らで火を放ち、シマ組が燃える様を眺めながら一杯やりたかったですなぁ」
「ククク・・・まあ、あれだけ念入りに用意した仕掛けだ。柵の中に居たシマ組の奴らは無事では済むまい。万一炎に巻かれずとも食料がなければ冬も越せぬ・・・しかし確認だけはしておけ。念を入れ鋭兵を差し向けよ」
「ははっ、ジョス様」
しばらくの沈黙の後、卑下た笑いが納屋に響いた。
「ククク、上出来だグスタ、お前は野盗の頭だった頃から格段に成長したな。なかなか優秀な兵長に見えるぞ。優等生を演じるのもあと少しだ」
「へへへ、ジョスの旦那、あんたのおかげで、誰も俺を元野盗の頭なんて思わねぇよ。立ち居振る舞いだけでもこんなに違って見えるもんなんだなぁ。ちょろいもんだぜ」
「おっと、油断するとお互い『地』が出てしまう。今後も気を引き締めていけ」
「ははっ、ジョス様」




