年寄りの胸熱
「・・・はあっ?神様だって!?」
シマさんからの突拍子もない紹介に、目を白黒させて驚くジサイさん。いくら親しい友人からとはいえ、いきなり神様と紹介されてもそうすんなり受け入れるのも無理ですよね・・・
「・・・いや、申し訳ない。いきなりで驚いたが、シマどんがそう言うならば、そうなのだろうと思う。初めまして、元ハクリュウ国守備隊長、ジサイと申します・・・が、もうあの国から賜った名は棄てます。元々の名、サイとお呼びください」
あらあら、もの凄くすんなり受け入れていただけました。サイさんのシマさんへの信頼は、それほどに厚いものなのでしょう。
「サイどん、今のハクリュウ国守備隊長のグスタに仕組まれたシマ組を焼き尽くす仕掛けは、カガミツクモ様の水の御技というもので防いでいただけたんじゃよ」
「なんと!どのような力かはとんと解りませぬが、カガミツクモ様はそのようなお力をお持ちなのですね・・・おや、お疲れでしょうか?顔色が優れないようですが」
「い、いえ、サイ殿、ご心配ありがとうございます。吾の事はお気になさらず」
どうも鏡さまは、昨日の酔った勢いで陽気に踊り回っていたのを、かなり悔いているようです。それでも昨日は鏡さまが酔って水の御技を使い、普段は塩水で放たれる水が制御の狂いから真水となり、シマ組の土地に塩害を残さずに済んだのです。結果としては良い方に転びました。
今朝の反省会では、その件を鏡さまにお話しし、『万能辞書』で調べたところ、不確定な要素として、術者の精神状態、意識状態などによって、放たれる御技の内容や状態が、ごく稀に乱れると記載されていました。今回はラッキーでしたが、鏡さま、竜宮ちゃん、そして私も御技の制御には気をつけようと、改めて反省した次第です。
それから昨日のその他の出来事をサイさんに説明し、夜も更けてきたことから今日はお開きとなりました。明日は朝からサイさんを交え、改めて今後の計画を考える事になりました。
私たちも昼間の作業の疲れもあり、床に入るとすぐに眠りにつきました。
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その日の夜遅く。
静まり返った深夜の集会場で、シマとサイの二人が膝を突き合わせて話をしている。
「シマどん、あの神という男は本物であろうか」
「本音のところでは、そもそも神と言われてものう。本当の神はどんなもんかなど、誰も知りゃあせん。しかし持っている力は本物じゃろう」
「この世界に住むすべての者達から、諍いや争いをなくすのが目的など、まるで夢か御伽噺のような話ではないか」
「うむ、儂も初めはどこぞの戦火で気の触れた若者どもかと思ったが、どうもそうでもなさそうじゃ。あの落ち着きに、あの力。存分に振るえば、周辺の支配や殲滅など訳もなかろう。あと気になるのは、傍目に行き当たりばったりな行動くらいかのう」
長く争いの渦中にあった集落や軍を率いてきた二人には、どうも計画性を感じられない行動が気にかかっていた。
「では明日の話し合いではどうするつもりか?」
「ふっふっふ、いっそうまく利用して、ハクリュウの国ごと頂いてしまおうかのう」
「なっ!?正気か?グラフール副王を討つならいざ知らず、グリマーニア王はできたお人だ。私も王の助命がなければ、この首は落とされていた!」
「かっかっか、冗談じゃ。儂はカガミツクモ様たちの行く末を見てみたいとは思うが、己の為に利用しようとまでは思わぬ。そもそも国なんぞ面倒見きれぬわ」
「グリマーニア王は国を栄させ、民の暮らしを豊かにしようと努力されてきている。側に仕える者も副王とジョス、グスタ以外は、志の高い者が多い。副王も以前はこんな野心的ではなかったというのに」
「儂は会ったことは無いが、グリマーニア王は確かに心ある王だと思っておる。ただし、サイどんを首にするなんぞ愚の骨頂じゃ。しかも弟のしている事を見抜けぬ、諌めぬようでは、真の統治なぞおぼつかぬわい。まあ、儂も厳しく仕込んだ三馬鹿に手痛くやられたんじゃから、人の事はいえぬがのう」
シマは少し厳しい顔になり、傍にあった愛刀を抜き、囲炉裏の炎にかざした。
「血で血を洗う集落の闘争の頃を思えば、今なんぞ十分に平和と言うもんじゃ。平和になればなったで、内輪で無駄に揉め出す。しかし、カガミツクモ様たちの目指す平和という物にも興味はある。いろいろと甘ちゃんな考えが気になるがのう」
刀身にはシマの笑った顔が歪んで映っている。ここ数年は争いもなく、使う事も無かった愛刀は丁寧に手入れされており、鋭い光を放っている。
「私が居た2年前でも国の兵の数は一万。うち三千は併合した集落の寄せ集めだ。普段は街に居らん。現在はコクロウの国と揉めている最中で、兵力をそちらの方面に割かれている分、動かせる兵は二千程度だろう」
「相手は千人単位になるやも知れぬと言う訳じゃな。サイどん、思い出すのう、一度はお互いにやりあった頃を。その後共に戦った日々を。自分の全力をぶつけられる相手が互いに居た頃を!」
「はは、私は思い出すのは恐ろしいですよ。特にシマどんとはもう二度と、刃を合わせたくはない。まだ死にたくはないからね」
「よく言うわい、あの時に死にかけたのは儂の方じゃ」
二人は昔を懐かしみ、静かに笑い合った。
「さて、これからについてじゃが、儂は国とのゴタゴタが片付くまでは、カガミツクモ様たちに付き随う所存じゃ。シマ組を救ってもらった恩もあるしのう。若い者の面倒は年寄りがみてやるもんじゃて」
「うむ、シマどんがそう思うのであれば、私も全力で協力しよう」




