たくらみの根っこの方
今日は朝から昨晩の飲酒反省会でしたが、丸一日火事の後片付けの続きと、柵の作り直しに専念することにしました。シマさん達の手際の良さと、ミミちゃんの怪力のおかげで、かなりの工程を終えることができました。シマ組の皆さんが支える杭を、ミミちゃんが木槌の一撃で、次々と打ち込んでいく様子は壮観でした。
シマ組の皆さんの食料に関しては、火災の難を逃れた備蓄と、鏡さまの神袋ストックで賄う事にしました。現在のシマ組は全員で22人。キクさんが昨日言われてたように、皆さん屈強です。女性は9人いらっしゃいますが、全員戦えます。驚いたのは9人の女性のうち近接戦が得意なのが7人と多い事です。中でもシマさんの奥様であるナナさんは長槍が得意で、お話ししてみるととても話が合いました。
夕餉の支度にかかろうという頃に、ヒサさんがジサイさんを連れて戻ってきました。大人の足で2日かかると聞いていたジサイさんの所に往復20時間とはびっくりです。ヒサさんは、少し息が荒い以外はピンピンされていました。ジサイさんも少し息をきらせていますが、元気いっぱいのようです。隠居されたと聞いてお年を召されているかと思いましたが、見た目の印象は50歳くらいでしょうか。お顔も体つきも精悍で、まだまだ現役の兵士ように筋骨隆々な方でした。
「はぁはぁ、シマどん!ご無事か!ハクリュウの者に図られたと聞き急ぎ参った!」
「おお、サイどん、・・・おっと今はジサイ殿でしたな、急遽ご足労いただきかたじけないですじゃ。儂らはこの通り無事ですじゃ。早速で申し訳ないが、ハクリュウについて色々教えていただきたいのですじゃ」
「いやいや、シマどんに呼ばれるのなら、サイどんのままの方が良いですよ。・・・ハクリュウについてですね、私のわかることは全てお話しましょう。しかし、まさか本当にシマ組に手を出すとは思ってませんでしたが」
お話の始まる前に、キクさんよりお聞きしましたが、シマさんとジサイさんは、もともとハクリュウの国ができ始めた頃は、それぞれ若くして集落を率いており、その戦力と指導力から国の軍を指揮監督する者として同じ時期にスカウトされていたそいうです。
シマさんの集落は屈強な住人が多く残ったので、国からも他の集落からも攻め取られる事もなく、独立を維持されていました。
シマ組はどこにも属さず、独自の道を進んでいましたが、ジサイさんの集落はジサイさん以外に抵抗できる大きな力もなくハクリュウに取り込まれてしまい、ジサイさんはその才を買われて2年前まで守備兵長をされていたそうです。国に入る際に、名前をサイからジサイへと、改めるように授かったとの事でした。
「2年前にサイどんが、元の集落に一人で戻られた時は、今は一人で静かに過ごしたいと言われたので、今まであまりお邪魔もせんと、すまんかったですじゃ」
「いやいや、シマどんが心配してくれていたのは分かっていたし、嬉しかった。しかし、あの時の私は色々と落ち込む事ばかりで、塞いでしまっていた事と、実はシマどんに嫉妬もしていたんです」
「ほ?こんな爺いに兵長殿がなにを嫉妬なさるんじゃ?」
「いや、それはさておき、私がハクリュウの国に居た最後の数年間は、領土拡張の為に他の集落を攻め落し、防衛の為に殲滅させる。まさに血みどろの日々でした」
夕餉をシマ組の皆と囲みながらのお話は、なかなか重い内容でした。
「はて、ハクリュウのグリマーニア王はそんなに征服欲がつよかったのかのう?」
「いやいや、王は国を大きくして豊かにしようとはしていたが、戦って広げようとするほど強引な事は考えていなかった。しかし、国が大きくなるにつれ、一人では手が回らなくなり、10年ほど前より弟のグラフール殿を副王に据え、軍事と商業についての一切を任せ、ご自身は外交や国全体の運営に専念されていったんだ」
「確かにハクリュウの国は20年前からは比べ物にならんほど大きくなったからのう」
「ああ、2年前ですでに国民は30万人を超えていた。副王もはじめの数年は、軍事改革や武器の開発、商業の発展など、それなりに多くの実績を残された」
「ほー、そういえば昨年キクが国で土産に買ってきた刀なども、随分と良い出来のものが多かったのう」
「店に出回っているのは国では二級品以下です。軍には2年前でも、かなり強力な武器が支給されていました。今では更に強力になっているでしょう」
「なんと、それほどとは・・・」
お話はどんどん進み、食事も終わり、やがてお酒も出てきましたが、私たちは今回は断固拒否をしました。もう五体投地の反省会はご免ですから!
「副王が軍事と商業を掌握して5年が経つ頃より、国土拡張を急に推し進めるようになりました。今まで私たちの集落にしてきたような合併提案から、征服宣言や宣戦布告のような書面を送り、武力制圧する事が増えてきたのです」
「そんな事が起きておったとは・・・」
「ああ、しかも狙った集落が、豊かであればあるほど、侵攻は苛烈を極め、戦った住人を奴隷まがいに使役したり、副王が勝手に処刑したりしていた」
「ひどい話じゃ。王はその事に気づかんかったのか?」
「ちょうどその頃、同じようにコクロウの国を名乗る国との折衝が暗礁に乗り上げて、そちらにかかりきりだったようだ」
「ふむ、頼りにならんのう」
「副王は弟君だからな、しかも結果として国力は、副王が就任してから急上昇している。しかしそれは略奪や搾取によるものでもあったという訳だ。そして2年前に決定的な事が起こった」
「なんじゃ?」
「シマ組を国に組み込め。できなければ殲滅せよとの命令が副王から出たのだ」
「なんじゃと!?」
深刻な話が続く中、お酒が入ったことで少しゆるんでいた緊張感が一気に張り詰めました。
「それだけはできない、と断ったが、その数日後に私は守備兵長を罷免されたんだ。王には私が独断でここ数年の間に集落を侵攻し、略奪した主犯と告げられ、証人として副兵長のグスタの報告書が書き添えられていた」
「グスタだって!?シマ組に仕掛けをしていった兵長じゃねぇか!」
キクさんがすごい剣幕で立ち上がって叫びました。皆さんも一様に憤りを隠せない様子です。
「周辺の集落はシマ組以外は、ほぼハクリュウ国に組み込まれている。汚れ仕事はあらかた終わって、私は用済みだったんだろう」
「副王も副王じゃが、グリマーニア王もグリマーニア王もじゃ!そんな弟の愚策も見抜けぬとは・・・」
「王を擁護するわけではないが、コクロウの国に自国の集落が次々と落とされて、そちらの問題にかなり手こずっていたようだ。内患を細かく精査するよりも、厄介な外患に手一杯だったんだろう。私の処罰も副王は処刑を主張したが、王は罷免しか認めなかった。加えてシマ組の件も手を出さないように、と王は厳命されていた。そして最近の情報では、副王は王さえ蹴落とそうとしているようだ」
「なんと!国を兄から掠め取ると言うのか?」
「ああ、私も引き籠っていたので、情報はハクリュウ国に残った昔の仲間が教えてくれたのだが、副王の側近にジョス・・・昔の名前でジスの奴がいるらしい」
「ジスじゃと?昔サイどんの集落を掠め取ろうとした男か?」
「ああ、その時シマどんと私でボコボコにして二度と剣を持てないようにしてやったんだが、相変わらず小狡いやりかたで権力に擦り寄り、今回はとんでもない大物狙いをしているようだ。これもまだ未確認な部分が多くてシマどんに相談ができなかった・・・あと繰り返すがシマどんに少しばかり嫉妬もしていたから声をかけづらくてね・・・」
「ん?どうもその嫉妬というのがわからんのじゃが」
「ここに居るシマ組のみんなの事ですよ。ずっとシマどんを信頼して付いてきている。私の集落はあっという間にバラバラでした」
「何を言いますじゃ。一人で奥地に籠もられたサイどんに、このような情報を届けてくれる仲間もおるではないか。何を隠そう、儂は仲間じゃと思っておった三人に、昨日痛い目に遭わされたばかりじゃよ」
「なんと・・・いやはや」
二人は苦笑しあい、お互いにまだまだだ、と笑い合いました。張り詰めていた空気がすこしだけ緩み、そしてふとジサイさんと目が合いました。
「・・・ところでシマどん、実はずっと気になっていたのですが、上座におられる方々はどなたでしょうか?」
「おお、紹介がまだでしたじゃ。こちら神様のカガミツクモ様、神使のタツミヤ様とミミ殿、そして巫女のカサネ様じゃ」
「・・・はあっ?神様だって!?」




