守護神を守護する巫女
失敗しました。ここは静かにやりそごそうと思っていましたが、美味しそうな食べ物とお酒の話にお腹の虫が鳴ってしまい、潜んでいる事に気づかれてしまいました。救いはお腹の虫の音とは気づかれてなさそうな事でしょうか。
『ミミちゃん、ごめんね。累お姉ちゃんが絶対に守るから、今からお姉ちゃんが前に出たらずっとお姉ちゃんの後ろに立ったままで居てちょうだい。吠えたり襲いかかっちゃ駄目よ!』
『ウン 分カッタ 吠エナイ ジット立ッテル』
まずはこの場を切り抜ける・・・というか、綿津見神さまよりお話をいただき、転生して閻魔さまに鍛えてもらい転星して今まで、ずっと考えていた事。本当は私を守ってくださる守護神の鏡さまに先に相談してから進めたかった事。鏡さまのご神体の鏡をチラッと見ると、漢数字は零、零、零、壱。まだ起きてはこれないでしょう。
「鏡さま、相談もしないでごめんなさい。後で説明しますから許してください・・・」
お腹に力を入れて気合を入れる。大きすぎず、でも太く通る声を出せるように深呼吸をひとつ。6人がこちらに向かってくる前に物陰からすっと姿を出して6人に向かって話しかけます。
「そこの人々よ、私は神である鏡九十九さまの巫女、瑞樹累!この度この森一帯が急激に荒らされ、神使の大兎熊一族がことごとく死に絶えました。原因を調べに参った次第です。そなたらはこの件について何かご存知か!」
いろいろ賭けです。いきなり神が現れ荒唐無稽な話をして、聞く耳が持てるのか?そもそも森を荒らしたのはこの人達なのか?この星の『人』と話し合いは成立するのか?
できるだけ威厳あるように立ち問いかける私の後ろで、仁王立ちをしたミミちゃんの鼻息がフンフン聞こえてきます。
「ああ?何言ってんだこの変な格好をした女は?」
「おい、あの後ろのは大兎熊じゃねえか。少し前に町に入ろうとしてたヤツじゃないか?」
「神様って昼の光や火や水を司る見えない存在っていうアレよね」
「おい、姉さん、あんたの後ろにいる大兎熊は危険だ。悪いが始末するぞ」
ああ、いきなり神様なんて言われてもそうですよねぇ。ミミちゃんが現れるのも良くなかったような・・・なんだか失敗に失敗を重ねているようですが、今更引き下がるわけにもいきません!
「待たれよ!先ほど言ったようにこの大兎熊は神の使い、神使になります。危害を加えてはなりません!」
言い終わる前に後方の二人が素早く矢を射かけてきました。
カカッツ!
薙刀 黒融の黒くんでミミちゃんに向けられた両矢とも払い落とします。やはり言葉だけでは説得力がありません。ここは閻魔さまに教わった[ 火の操者 ]でなんとか自分のモノにできた[ 纏火 ]を見せてみようと思いました。この星にも神様の存在自体はあるようですので、できるだけ見た目派手なものを見てもらえばそれなりに説得力があるのではないでしょうか。
「まだ私の話が聞けませんか?では[ 纏火 ]」
ゴォと激しい音とともに、全身に激しい炎が巡ります。さすがにこの様子を見て動揺したようです。
「ちょっとあの娘燃えちゃってるじゃない」
「誰か川行って水汲んでこい!」
なんか反応が思ってたのと違います。ご親切にも心配されてます。でも確かにこの御技は見た感じとして、私が燃えてるだけになります。絶対防御の御技であり、あらゆる攻撃を防ぎますが、攻撃されなければ傍目にはただ燃えてる人であり、真空層に覆われていますので私の呼吸も苦しくなります。このままでは皆さん水を汲みに行ってしまいそうでしたので[ 纏火 ]は解きました。
ここは調査に来ている神様御一行ということにして話を進めたかったのですが、どうにも神様御一行には見ていただけません。あとはどうすれば・・・。
と、その時、首にかけていた白鏡が青白く眩しい程に輝きました。同じく高台に隠していた依り代の方からもまばゆい光が輝き、輝きの中で鏡さまが高台で立ち上がりました。鏡さまの自己修復が終わったようです。ああ、こんなにも派手に移るのですね、でもこのタイミングはとても好都合です。なんだかものすごく神様が現れたような感じです。
「瑞樹殿、お待たせして申し訳なかったです。では急いで夕餉にしましょう」
あああ、ちょっと鏡さま、いい笑顔で復活一言目にご飯の話を始めないでください!この状況見て空気読んでください!・・・ってのは無茶な話ですよね。幸いにも光り輝く鏡さまを見て狼狽し、先ほどの話はあちらの人たちには聞こえて居なかったようです。あの光輝く人が神なのか!?と大慌てしています。
「鏡さま、ごめんなさい、ちょっと説明を・・・」
ガラガラピッシャーーーーーン!
鏡さまに説明しようと振り返ると、雲ひとつなかった空から細い赤い稲光が走り私の横に落ちました。
ええっ!?これは一体何事でしょうか!?
「者共控えよ!拙者は綿津見神様が眷属、白鏡の神、鏡九十九様の第一の従者にして神使、竜宮なり!」
稲光の落ちた場所に小柄で紫色の袴姿をした可愛い女の子が、あちらの人たちに向かって仁王立ちし、両手に刀を構えています。竜宮ちゃん?誰でしょうかこの子は?鏡さまのお知り合いのようですが・・・。
でもこれはナイスタイミングです。今度こそチャンスです!完全にあちらの人たちは、雷光から人が舞い降りた!また神が現れた!と慌てています。いまのうちに説得をもう一押し・・・
「鏡様に危害を加えたのは誰じゃーーー!この竜宮が直々に成敗いたす!」
あああああ、やっぱり駄目です。話がどんどんややこしくなっていきます。仕方なく大声であちらの人たちに話しかけます。
「そこの人々よ、私供は明日、日の光が一番高くなる時間に改めてそなたらの集落を訪れましょう。その際に先の質問を改めてします。まずは集落にお戻りなさい。日も完全に落ちてしまい足元も暗く心細いでしょう。ささ、とく行かれなさい!」
自称 竜宮ちゃんが、まだ「成敗じゃ!」と叫ぶのを抑える中、勢いに押されて6人は集落に向かって走り去りました。そこに残った一柱に二人に一頭。さあ、これから一体どうしましょうか・・・。
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そんな様子を今回も閻魔天が閻魔帳から伺っている。横には瑞樹累の転生時に同席した綿津見神の使いと、綿津見神も居る。
普段は真っ赤な閻魔天が真っ青になってワナワナと打ち震えていた。
「・・・なんで竜宮がもうアッチに居るんだよ。さっきまでそこで元気に訓練してたよな」
「・・・何と言いましょうか・・・彼女は鏡殿への想いが強すぎますから。先ほど鏡殿は負傷により自動修復中と綿津見神様に聞いたとたんに消えてしまいました」
「消えてしまいましたじゃねぇよ!まだ訓練はぜんぜん途中なのに、勝手に辰星の鳥居くぐったんかよ!あのちんちくりんは!
綿津見!てめぇはあいつの仕上がり具合を見に来たんじゃねぇのかよ!どうすんだよコレ。もうあの鳥居くぐったら竜宮程度の神使じゃ戻ってこれねぇんだぞ!」
綿津見神は頭を抱えている。使いの者もオロオロするばかり。閻魔天は真っ赤に戻って怒り狂う。
「だーーー黙ってんじゃねぇよ!俺様が教えておきたかった事の半分もまだ習得できてねぇんだぞ!せっかく今度はモノになると少しは期待したってぇのに・・・おい、ちょっとコラ!こっち見ろテメェら!逃げんなーーーーー!」




