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転神転生  作者: 拓人雨
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ミミちゃんとこれから

瑞樹みずき殿、申し訳ないが緊急事態です」


 大兎熊おおうさぐまのミミちゃんと念話をしていたかがみさまが大粒の汗を流しながら膝をつき声を絞り出します。


かがみさま!どうされたのですか?顔色も悪いですよ」

「・・・どうも先ほどのミミ殿の一撃が、かなりこの体に効いていたようで、依り代の自動修復しないと駄目なようです。しばし神体の白鏡に移りますが、自身も思いの外ダメージがあったようなので修復のためしばし休息いたします。その間に神体の白鏡を持っていれば、ミミ殿と念話ができるようにいたしますので、会話をしてみてください。

 とりあえずこの川の下流に15キロ程行った辺りに、まとまった民家があるとミミ殿は申していますので、そちらの方向にお向かいください・・・では御免」


 話し終わるとかがみさまはパタリと倒れてしまいました。その瞬間、首に下げていた白鏡はまばゆい光を放ちました。取り出して見ると、白鏡の中央に古めかしいニキシー管のようなオレンジ色の光沢を放つ、漢字のような表示が縦に四文字見えました。それと秒針が秒を刻むような『カチカチ』という音が聞こえてきます。・・・時計機能でしょうか?


『・・・瑞樹みずき殿、聞こえますか?自動修復状態でも少しだけ念話は可能です。白鏡に表示されている数字はどうなっていますか?』

「ええと上から、ぜろぜろぜろしつです」

『では自動修復時間は約7時間ですね・・・あまり長くなくてよかった。そうしましたら瑞樹みずき殿、この川沿いに15キロ程下流に向かい、集落が見えましたら川を挟んだ方角に岩だらけの高台があります。そこまでなんとか進んでください』

「ああ、この表示は漢数字なのですね。はい、ではミミちゃんと一緒に移動しますね」

『お願いします。ミミ殿がの依り代を運んでくださるようですので、背中に載せてください。が目覚めましたら、少し遅い晩御飯にいたします。今朝の仕込みが無駄にならなくて・・・よかった・・・』


 最後は消え入るような声になっていました。少し心配ではありますが、かがみさまは食事に対して本当に貪欲・・・というか食いしん坊さんで、とても共感できます!

 さて、ミミちゃんに頼んで川下に向かうとしましょう。ミミちゃんの方を向くと、驚いたようにビクッと反応しました。なんだか私は怖がられているようです。


『ミミちゃん、さっきはごめんね。痛かったでしょ?でもミミちゃんがかがみさまを吹き飛ばしちゃったから、私も慌てちゃったの』

『オ姉チャン ノ 黒イ棒 痛カッタ 怖イ・・・』

『あらあら、そうよね。私も自分でびっくりするくらい連撃を打ち込んじゃったから・・・でも、もうしないから許してちょうだいね』

『モウ 痛イ コト シナイ?』

『しないしない、ミミちゃんも大変な目に遭って必死だったんだよね。私はミミちゃんとこれから仲良くしたいの。名前は瑞樹みずきかさねよ。私がミミちゃんの名前つけちゃったけど良かったかしら』

『マタ人間ガ 森ニ 悪イ 事シニ 来タノカト 思ッタノ。ゴメンナサイ。 ミミ 名前モラエテ 嬉シイ』

『うん、良かった!じゃあかがみさまをミミちゃんの背中に載せるから、かさねお姉ちゃんに着いてきてくれるかな』

『ウン ミミ ガ 鏡サマ 運ブ』


 まだ私はミミちゃんには怖がられてしまっているようですが、かがみさまの依り代をミミちゃんの背中に載せて運んでもらいます。

 かがみさまの依り代・・・私一人で持ち上げられるか心配でしたが、案外軽く持ち上げられました。かがみさまが軽いのか、重力が少し軽い分楽なのか?両方でしょうか。

 ともかくかがみさまの依り代をミミちゃんの背中に乗せてもらい、川下に向かって歩き始めました。


『それじゃあ30頭居たミミちゃんの仲間は、みんなお腹を空かせて死んじゃったのね・・・』

『ミミ ガ 人間 ノ 後ヲ 追ッテ ゴ飯 取リ返ソウト 何日モ 頑張ッタ ケド 取リ返セナカッタ。人間 ノ 矢ガ 当タッテ 怪我シテ 家ニ 帰ッタラ 皆 ゴ飯無クテ 死ンデタ』


 この他にもミミちゃんから道すがら聞いた話は少し大変な内容でした。大きな体の大兎熊おおうさぐまの群30頭が今まで食べていけただけの食料を、根こそぎ取ってしまうとなると、相当に大規模な乱獲が行われたと考えられます。集落でミミちゃんの侵入を防いていた人数は10人くらいとミミちゃんは言いましたが、10人やそこらでできる事ではありません。


「この星で最初の人との接触になるけれど、そこの集落の人には気をつけたほうが良さそうですね」


 かがみさまが動けない今、未知の生き物や人に出会ってしまうのは避けたいところです。緊張しながらも進みましたが、ミミちゃんに出会うまでと同じように、生き物という生き物に全く出会いませんでした。


 日が少しだけ傾きかけた頃、かなり先に民家らしき建物が見えました。私とミミちゃんは浅瀬づたいに川を渡り、かがみさまの教えてくださった集落とは反対側に見える岩場の高台に向かいました。仮装住居が置けそうな地形を探し、あとはかがみさまが修復から戻るのを物陰に隠れて待つ事にしました。


カサネオ姉チャン ミミ 眠ク ナッチャッタ』

『あらあら、大丈夫ですよ。お姉ちゃんが見張ってるから、ミミちゃんは安心してお休みなさい』

『ウン カサネオ姉チャン オヤスミ ナ サ・・・イ』


 日もすっかり傾き、遠くに見える集落の家々から夕餉の支度の煙があがりはじめました。家の数に対して昇る煙は数筋しかありません。


「おかしいですね。民家のような建物は50戸程見えるのですが、生活感が無い家が多すぎます」

『・・・ゴ飯 イッパイ アルヨ ダカラ 皆デ食ベテ・・・』


 傍で眠るミミちゃんが寝言を言ってます。ミミちゃんのよだれと一緒に涙が地面に落ちます。

 私も夫の真一郎しんいちろうさまと死に別れてしまったのが17歳の頃でした。早く両親も亡くしていたので、肉親は妹だけになり、その妹もその後の戦火で夫君ふくんとともに空襲で死亡。それでも甥と姪が居たので、大変ではありましたが、寂しくはありませんでした。


「優しい子。・・・これからずっと一人ぼっちは、嫌だよねぇミミちゃん」

『・・・オ母チャン・・・』


 群の長だったとはいえ、たった一人になってしまうと、やはり一番に母親が恋しいのでしょう。ぴくぴく動くうさ耳と鼻の頭を優しく撫でてあげると、嬉しそうにプスプスと可愛らしい鼻息が出ました。


「ふふふ、顔だけ見てると本当にウサギさんですね」


 おっきいけどとても和みます。念話って便利ですね。知能の高い動物さんとでしたらお話できちゃうって事ですよね。でもこれからお話していく相手は、この星の人々なんですよね。人恋しくもありますが、一番怖いのも人です。


「これから私はどうしたら良いのかな・・・よく考えたらコミュりょくも高くないし、人と交わっても大丈夫かしら。いっそのことかがみさまと一緒に大兎熊おおうさぐまの保護活動を頑張るとか・・・はっ!」


 集落の反対側の少し離れたところから人の話す声と足音が聞こえてきました。どうもこちらに向かってきています。ミミちゃんも気づいたようで、耳をピンと立てて起き上がり低く唸りました。


『ミミちゃん、だめよ。静かにしましょう。向こうに気づかれてしまう』

カサネオ姉チャン ドウシタラ イイノ?』

『まだかがみさまが起きてないから、向こうの岩陰にそっと運んで隠れて様子を見ましょう』


 気づかれないように足音を忍ばせてミミちゃんとかがみさまを岩陰に運び息を潜めました。声はだんだん近づき、内容が聞こえるくらいになりました。大兎熊おおうさぐまのミミちゃんと念話で話していながら今更ですが、接近者達の話している言葉がわかりました。そういえば閻魔えんまさまが『会話は大丈夫』って教えてくださっていたような。


「はー、やっと家が見えるとこまで来れたな」

「なんとか日が落ちる前に着けて良かったわ」

「しかしこれからどうしたものかね、あの国とやらに入らないと、ずっとこれからもこんな事が続くのだろうか?」

「まあ、これからのことは飯食ってから考えようぜ。角豚つのぶたの肉を炙って一杯やろう」


 接近者は全部で6人。男性4人に女性が2人。皮の服に簡易な木製の鎧のようなものを着てそれぞれ剣や弓で武装しています。とりあえずここはやり過ごそうと思ったところ・・・


ぐーーーっ


「・・・なんだなんだ?なんか向こう岩の方からうめくような音がしたぞ」


 私の馬鹿ーーー!いくら最近お肉食べてないからって、実はお酒もいけるくちだからって、角豚つのぶたの肉を炙って一杯という言葉に、お腹が反応しちゃうなんて!そもそも角豚つのぶたって生き物のこと知らないのに勝手に頭が豚肉に変換しちゃうなんてぇぇぇ。

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