表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/293

【一階層七区画】ダンジョン夏期講習・実技編

ようやく、錬治の剣についてです。

 日本ダンジョン戦記 【一階層七区画】ダンジョン夏期講習・実技編


 尾張錬治は、困っていた。


 実技のほうは朝練は型稽古なのだが、正直しまったと思った。


 理由は、その型が自分とは合わないという事だ。別段、傲りでもなく、流派の型が染みついているためにどうしても合わない。かと言って自分の普段の修練をすると周りがどん引きすることになる。なので人目が付かないところでいつものように素振りをしておりいつもの回数を終えて全員の場所に戻ると打ち込み稽古になっておりあぶれてしまったのである。


「うん? 戻ってきたのか?」

「はい、ただ、打ち込み稽古となると…余計に相手に剣を向けるわけには」


 教官役の教師が気が付いたのでばつが悪そうに頬かく


「君のことは担任の先生からも聞いているからな。見稽古ということで見ておくといい」


 実は錬治には前科があった。と、いっても犯罪なのではないのだが…


 二年の時の体育の授業で剣道にてついうっかり、本気を出してしまった。


 剣術をしていたのは、周りにも話していたのでやはりそういうのにあこがれる。同級生に乞われてつい出してしまった本気。


 教師も別段止めるわけもなく。むしろ、興味から剣道部の生徒と試合をすることになったのだが、結果は、錬治の勝利となったが、その相手の生徒が悲惨なことになった。大けがをしたとかではなく、錬治の剣に殺気によりいろんな尊厳が台無しになり。


 その生徒はその後、剣道がトラウマになってしまうという後味の悪いものになってしまったために封印された事件となった。


 なお、その生徒は探検者カード授与式にて生産系のスキルを獲得しており意外とそっち方面に適正ともあい今では楽しそうにモノづくりに励んでおり、戦闘も「あの時の恐怖と比べれば大したことないな」とトラウマも克服に向かっているという嬉しい話を銀之助からきき罪悪感が少し薄れた錬治であった。


 さてと、こういう集まりになるとトラブルはつきものである。


「ぐっ」

「おっと、ワリィワリィ。手加減したつもりだったんだけどよ。ザコに合わせるのってやっぱ難しいんだナ。まぁ、おれもうレベル8だし、《剣》のレベルも3だからよ」


 教師はため息をつく。


 例年においてこの合宿にむけて夏休みの前半をレベル上げに費やし他の生徒にマウントをとってイキがる生徒は珍しくないのである。レベルアップによる高揚感とそれに伴う万能感がそれを助長した結果といえる。ちなみにこの合宿に参加する生徒での平均は5レベルくらいで打ちのめされた生徒もけして特段低い訳でもない普通の生徒であった。


「おい、そこ」


 と止めようとしたとき悪ノリしてまわりとニヤニヤ笑っていた生徒に


「なら、俺と相手してくれよ。ちょうど暇してたんだよ」


 錬治は普通に声をかけていた。


「はぁ? まぁいいぜ。ボコボコにされてもなくなよオザコちゃん」


 取り巻き連中の多くは、はやし立てるが数人は少し青ざめてなにか言いたそうであったが、いまのレベルならなんとかなるだろと思いなおし止めることは結局しなかったために、二人の試合が勝手に決まった。


 教師も早く止めるべきではあったとおもうが、結果をみてから止めても問題ないだろと判断し二人と立会を許可し周りに休憩とあわせて見学をするように計らった。


 こうしてイキった学生―磯垣将人(いそがき まさと)―との試合が決定した。


 磯垣は特に秀でたところはない。ある意味では普通の学生だ。


 自堕落に遊んで適当にふざける。そこそこに運動神経はいいがそれだけ、真剣に取り組んでる相手には勝てないが、そこらへんにいる相手なら運動でなら負けることはない。ガキ大将と表現してもいい。体格も同世代では、大きいほうであるから何かに打ち込んでいれば芽がでたかもしれない。気に入られない相手は、ぶん殴って言うことを聞かせればいいという傍若無人といって気質もある。


 そして、レベルが上がったことで、その思想はさらに強くなっていた。錬治のことも剣術を習っているとかいう生意気なヤツ程度には、知ってはいたが、それだけである。ダンジョンにいってレベルさえ上げればどうとでもなる。そういう考えになるのが磯垣将人である。


「では、始めるぞ。みんなもよく見て学ぶように」

「まぁ、ザコ君だから負けてもなくなよ。今まで無駄な努力してきたみたいだけど、世の中レベルがすべて教えてやるよ」


 磯垣が挑発をするが錬治は反応しない。チッと舌打ちをして錬治が腰に差している太さ15cm程度の長めの丸太をみて笑う


「だいたいよう。木刀も用意できないて、お前、確か剣術習ってる言ってたのもしかしてフカシ? うわぁだせぇぇぇ。なになに木の枝振り回すとか超うけるんだけど」


 もしも、磯垣が少しでも剣術を知っていれば…あるいは、歴史などに興味を持っていれば知っていればこんな発言はするべきではなかった。生徒の中には、この時点で錬治の剣術の流派を推察できるものが何人かいたし、クラスメイトはあの惨事から知ってはいた。錬治の使う剣を…


 錬治はそんな暴言を耳にしなが心を抑えていた。いかなる時にも平常心である事。それもまた学んでいた教えである。互いに距離をとり5メートル程離れての位置につきヘラヘラと笑いながら磯垣と静かに丸棒をにぎる錬治。反応をしないと錬治をビビッており出しゃばってきたザコに恥をかかせてやる程度の気構えで木刀を握る。


「始め!」


 教師のその言葉とともに磯垣は一気に間合いを詰めるつもりだったステータスも上がり5メートルなど一瞬と思っていた矢先、


 ブンッー


 それよりは、早く間合いを詰めた錬治の丸太が腰から抜かれ逆袈裟から跳ね上げ風を切り裂く音が響く。それを何とか躱せたのは磯垣のレベルが錬治よりも高かったから()()()避けてしまった。


「くっ、この!」


 反撃をしようと体制を整えようとするが既に遅い。


 雲耀(うんよう)の如き動きを神髄とする、その流派の前にそれはあまりにも悪手、相手に刃よりも髪の毛一本でも早く打ち込むことを旨とするその剣技。


 先手必勝を具現化した剣術なのだから。その剣術の名は自顕流(示現流)。幕末において新選組局長・近藤勇が「初太刀は受けるな」と言わしめした流派である。もっともこの言葉が誤解され一撃目さえしのげば後は容易な流派と誤解されるが一対一を想定した道場剣術ではなく、あくまでも戦場の剣技に連続技がない訳でなく単純に一撃目を躱すことができなければ何もできなくなる。という意味合いの言葉でしかない。


「キェェェェェぇぇぇえっ!!」


 猿叫と呼ばれる掛け声に乗せられた裂帛の気迫に磯垣の体は固まる。


 錬治に言わせればどんなに身体が強くても、どんなにスキルで技が跳ね上がっても、気合も気概も何もないモノなど子供のチャンバラにすら劣るものでしかなく錬治の木刀から放たれた二太刀目は(したた)かに磯垣を打ち込まれた。


「剣術を、武術を舐めるな。気合の入ってねぇ剣なんざただガキが木の棒振り回しているのと変わらねぇんだよ」


 痛みよりも、何よりも気当たりによって磯垣は立てなかった。だれが見ても錬治の勝利である。


 この後、錬治も少々やりすぎと教師に指導された罰として磯垣とその取り巻きと一緒に素振りを夕方まで降り続けることになった。なお受講生たちは錬治の見事な素振りに感化されたのか実のある訓練となった。


 その夜、ダンジョン内での寝泊まりの体験として野外の林でマントでの睡眠実習が行われた。ダンジョンでの寝泊まりでは基本的にテントや寝袋は使用しない。なにせいつモンスターが襲ってくるかもしれない。なのでマントにくるまって眠るのが一般的だ。それにあまり大荷物をもっては動きが阻害されるというのもある。そんな説明のもと各自で手ごろな場所を見つけて寝るという実習である。


 そして、皆が寝静まった頃、数名の生徒がゴソゴソと動きだす。磯垣達である。昼に恥をかかされた仕返しにと錬治を襲撃しようとしたのだが…灯をともせば教師に見つかるので月明りを頼りに林を歩くが人の手が入っているとはいえ薄暗くかつ方向もいまいちわからない。何よりも錬治がどこで寝ているのかは大まかにというか男子生徒が寝るように言われている区間内としかわかっていないのに何とかなるという根拠のない自信から歩いた結果


「こらぁぁお前たち何をしている!」


 うっかりというか運悪くなのか女生徒たちエリアへと侵入してしまい。見回りの教師たちに取り押さえられ、しかも木刀を持っていたために女生徒を襲撃しようとしていたと勘違いされ、さらに仕返しと言い訳したために施設へと強制連行の末に朝まで説教のあと教師付きっ切りでの指導を最終日まで受けることになった。


 ちなみに、錬治は一応、襲撃に備えてそれなりに頑丈そうな木の上で寝ていたであった。

錬治の剣は薬丸自顕流をベースにしております。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ