【一階層四区画】打合せと牡丹と蒼
ダンジョンへの準備回となります
カッンーと木と木がぶつかり合う音がなること無く、すらりと流された。銀の受け流し…たしか流転とかいう技だったか、前よりも巧みになってやがる。銀は大柄で筋肉質のパワーファイターと勘違いされるけど本質は技巧者だ。
が、だからどうした? それが勝負を捨てる理由にもならないしする気もない。むしろ、嬉しくてしょうがない。爺は幸運だと言っているがまったく同感だ。俺は剣術が好きだ。正直スキルで剣術がうまくなるようなレアスキルが出なくて安心したくらいだ。こいつは俺のモノだ。手品のようなユニークスキルは便利ではあるが、頼りにする気はない。むろん、生死をかけた戦いなら別だが、闘いに使う気はないし銀も同じだろう。
あぁ、楽しいな銀との闘いは楽しくてしょうがないが、今回は俺が勝つ、戦績はたしか357戦172勝173敗12引き分けと負け越している。
一合、二合と剣を合わせては返して何合目になるだろうか十、二十と打ち合うたびに剣速は増す、ハハハハ笑ってやがる楽しいな銀、だがな
「「勝つのは俺だ!」」
互いに手にもつ木刀に力を込め渾身の打ち込みを放ち、一瞬遅れて鈍い肉を打つ音…届いたの俺の剣だった
「あっ、くっそ。これで358戦173勝173敗で12引き分けかよ」
「もう一戦と行きたいが…」
そうも言ってられないか…
「やれやれ誰に似たのやらだね」
「お前さんじゃろ。ワシなんて人畜無害の好々爺じゃし」
「よくいうよ。昔、暇つぶしにヤクザ事務所を襲撃したのは誰だったかね」
「耄碌したか? お前さんじゃろ」
俺は今は、銀の祖母である鬼塚灯さんが営む鬼灯一刀流の道場に来ている。
今日は俺たちの武器と防具を受け取りに向かうために、ここに集まったのだが、時間が少しあるのでちょっと手合わせに防具なしの打ち合いをしていた処だ。
灯さんは小柄で銀とは似ても似つかないが怒らせると本気でヤバい。うちの爺さん尾張哲一とは古い知り合いで二人でいろいろとヤンチャしていたらしい。
「銀之助も錬治君もいい立ち回りだったよ」
長身やせ型でひょろっとした印象ではあるがれっきとした鬼灯一刀流師範であり銀之助の叔父の鬼塚辰馬さん、今日は俺たちのために車をだしてくれることになっている。
「今日はよろしくお願いします」
「いいよ。僕もどんなふうに仕上がったか気になったから。さぁ、いこうか?」
向かう先は探検者センター。
探検者センターはダンジョンでのドロップ品の買い取り、探検者向けの情報の開示・広報、依頼の斡旋、訓練設備、探検者に関する手続きを行う政府の出張機関となっている。そして、法律で武器の取り扱いが可能な場所が制限されている。
これは、粗悪品の売り付けなどを避けるためでもあるし何よりも所持している武器はしっかりと申告しておかないといけない。
そういった手続きもあるので自然と探検者センターでの取引が自然となっている。実際大手メーカーなどは探検者センターに併設されているのも珍しくない。
センターまでは車で20分程度、互いの祖父母をともないセンターへと向かった。休日ではあるが、やはり人は多いが、あらかじめ取引用の個室を予約しておいたので時間を取られることなく手続きも手短に部屋へと向かう。
部屋には着くと既に四人の人が待っていた。四人とも見覚えがある一人は小柄で少しふくよかな人は鎧などを取り扱う田上製作所の営業の小川内さん、もう一人の初老でありながらもまるでドワーフのような風貌の刀匠の波平安行さん、その後ろに控えている筋骨隆々の二人組はお弟子さんで今回の俺の刀を打ってくれた鑢目忠さんと前田平治さんだ。
「遅れて申し訳ありません」
「なぁに、今着たとこよ。それに待ち合わせ時間よりも10分程度早いしな」
気さくに波平さんはカンラカンラと笑っている。見た目は、いかついが刀のこと以外ならおおらかな気のいい爺さんだ。
「こちらも、先客が早く終わりましたので」
小川内さんも愛想のいい笑いを浮かべているちょっと小太りだが結婚前はやせていたらしい幸せ太りだと言っていたな。
「やすちゃんまで来るなんて珍しいわね」
「哲一と灯さんの孫に渡す刀だ、最後まで見届けねぇとと思ってな。それに弟子の最初の納品てのもあるな。作刀数の制限がなくなったとはいえ無駄打ちしていい理由にはなんねぇ、ちゃんと打つ相手を見て打つには丁度よかったから感謝してるぜ」
近年の需要に作刀数の制限がネックとなり、そうそうに撤廃された。むろん工業製品の量産品もあるが将来を見越すならと顔つなぎの為に今回は依頼した。ちなみにお値段は20万円。
まぁ、一般的な探検者が初めて買う武器は大体10万円前後なのでちょっとお高いレベルらしい
「では、鎧のほうからお渡ししましょう。まずは、錬治さまからダンジョンの3階層から出現するキラーウルフの革を使用したロングレザーコートをメインにした『蒼』です。ロングブーツの脛あてには鉄板が仕込んであります。そして、銀之助様のはレイジングボアの革と鉄板を仕込んで作りました日本甲冑造りの『朱』となります。こちらも履物はレザーブーツになっています」
見せてもらったのは蒼みかかった革製のコートただし裏にはカーボンナノチューブなどが仕込まれており強度も問題なし首を保護するために襟は立っており鉄板が仕込んであるインナーなどにも細かい細工と仕事に抜け目なし身に着けて体を軽く動かしてみても違和感なく動ける。銀も同じようで動きに問題はないようだ。
「ありがとうございます。小川内さん、動きに問題はないです」
「あぁ、さすが田上製作所だな本当に」
「満足していただけてよかった。整備や買い替えの際はお声がけをください。料金は勉強させていただきますよ」
とりあえず鎧とコートは着たままで過ごしてみて長時間の活動でどうなのかも確認しておかないと…
「次はうちのだな。おう、さっきは錬ぼうからだったから今度は銀ぼうのから見せてやんな」
「なら、俺作の長巻、名は白椿。中反り、鎬造り、柾目肌、簾刃、火炎帽子となっている柄は長めにして鉄心をしこんである」
「ほう、悪くねぇな」
家の爺さんがそう呟く確かにイイものだと思う。銀も無言で見つめているが小刻みに震えている。
「もういいだろ。俺の刀も見てくれ名は牡丹。先反り、鎬造り、綾杉肌、小乱れ、地蔵帽子。拵えは柄は内ぞりに柄頭のほうが太くしてあるし一般的な柄よりも長めに拵えた。後、鍔は要望通り小さめに、柄紐はスタンピードバイソンの革を漆で固めたものをつかっているぜ」
言葉もない。これが俺の刀…魅入られるとはよく言ったものだ。
「その反応、満足してもらえたようだな」
「あぁ、平治さんありがとうございます」
「忠さん本当にありがとございます。俺、感動しました」
二人とも満足そうに頬緩める
「まぁ、まだまだ未熟じゃが何かあったらまたこいつらに任せるからよ。遠慮なくもってこい」
どことなく嬉しそうに波平さんも言っている。
「よし、おめぇらそれを登録したら二人でダンジョン潜ってきな」
「そうだねぇ、確かここからなら小鬼のダンジョンが近いからちょうどいいさねぇ。行っておいで」
うん、この展開は知ってた。
とりあえず、俺と銀は登録の手続きを済ませてウェポンボックスと呼ばれるアタッシュケースを縦長にしたようなケースに装備をしまう。
このケースを開けるには、探検者カードを必要になり登録されたカードでないと開けられない仕組みになっている優れものである。なお、ダンジョンで発見された技術で見た目以上の容量と重量軽減が可能とこれ一つとってもダンジョンの恩恵がどれだけすごいのか伝わる一品である。
「じゃぁ、二人ともダンジョンでお金を稼いで晩御飯食べて帰ってくることを課題としよう。あっ、何を食べるかは自由だから好きなもの食べてきなよ」
辰馬さんはニコニコしながら言ってくれるけど…これ安物食って帰ったら絶対地獄見る奴だ…
防具のデザインは個人の好みが反映されます。
主人公の刀の拵えは一般的な日本刀と異なる拵えとなっています。きちんと理由はありますよ。