【最終階層三区画】人間は諦めないから人間
グシャリ――
錬治に迫る拳が宙に舞った。
「おいおい、錬治。油断しすぎだろ」
「ちっ、悪かったなぁ。銀」
幼馴染で親友が、そこに立っていた。
「ほらよ!」
炎の刃が、赤黒いスライムを焼き払う。
『ふふふ、意気が良いではないか。だが、これならどうかの?』
フィロンの腕がいくつも降ってくる。
「いけるか?」
「当然」
背中合わせに、次々に迫るフィロンの拳の弾幕がさばききる。
「なぁ、錬治。気のせいかもしれないけどよ。どんどん、でかくなってないか?」
「みたいだなぁ」
増す暴威なか、銀之助も錬治も力を緩めないし、諦めない。いや、錬治たちだけではない。この場にいる全員が諦めてなどいない。
『クククククク、愚かな。二つの世界からの畏れを得た我に敵うはずがあるまい。神とは、人の意思を糧にする。満ちるぞ満ちるぞ力が』
高笑いするフィロン。異形と変わり続け、その完成されていた美が崩れ、悍ましい姿へと変わり続けていく。
「だからどうしたぁ」
「オレが」
「俺らがぁ」
「「てめぇをぶった斬るだけだ!」」
刀を突き付けて啖呵をきってみせる。
『好きなだけあがけ。人間!』
「あぁあがくさ」
「とことんな」
斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る
人外よりも人外。
無限に再生するなら無限に斬る。シンプルで頭の悪い行動。
それでもフィロンは余裕の笑みを浮かべながら、裂け目から、世界を観察しようとしたとき。フィロンの頭部に野球ボールが当たる。
『ぐっ、誰だ!』
次元の裂け目から飛んできた方向をみる。
――シルフィディア・扶桑村
「届いたか?」
「押忍! 横賀さん」
銀城高校野球部主将・横賀の打った打球が次元を超えてフィロンの頭部に命中した。
「是非もなし」
カキーンとカキーン、子気味良い金属バットの打球音が響き、打球はフィロンの頭部へと次々に命中する。
『バカな!? 次元の壁を越えるだと?』
改めて、次元の裂け目から、二つの世界を見て、驚愕する。
例えば……
――地球・日本某所
地味な服装で三つ編みの少女に、鰐頭の天使と人頭のリザードマンが襲い掛かるも……
「《エクリプス》です」
闇が蝕み、フィロンの眷属たちを蝕み塵へと変わっていく。
「はぁ……ゴミですね」
無人の野を行くがの如く、少女は駆逐していく。
どこもかしくも、眷属たちが駆逐されていく。善戦をしていても、逆に倒されていく。
『何故だ!!! 我は多くの畏れ得たのだぞ!!』
手にした圧倒的な力。それは間違いないはずなのになぜか勝利のビジョンが見えない。
「てめぇの敗因なんざ簡単なことだ。てめぇは人を見くびり過ぎたのさ! 人間は諦めが悪く、無様でも最後の最後まであがくから人間なんだよ!」
眼前に迫る錬治。
『ふざけるな人間!』
錬治に無数の拳が繰り出される。さすがの錬治も20の腕を切り裂いたところで吹き飛ばされ、地面に激突する。
普通なら即ししているだろう、だが、錬治は折れない。
「刮目しな、人間の悪あがき」
しっかりと大地を踏みしめ立ち上がる。
呼吸を整え刀を鞘に納める。
「【神成】」
錬治は柏手を打つと雷光が世界を包むのであった。
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