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【二十一階層九区画】虚像と真実! 充希と佐江の戦い

 魚が空を飛び、鳥が池の中を泳ぎ、植物が動物を食べ、虎がネズミに捕食されるあべこべで不気味な庭園を見下ろすようにその宮はできていた。


「どうですかな、わたしの世界は」


 執事服姿の少年の姿をした老人が恭しく、慇懃にお辞儀をしてみせる。


「否定したいほどに気持ち悪いですわね」

「ハハハハ、うん、最悪かな?」

「好評ばかりでこの偽りのヴェリテ、喜びを隠しきれませんね」


 二人はそれぞれ、鉄扇とカードを構える。


「お礼にオブジェにしないであげますよ。【フェイクボディ】」


 ヴェリテが二人に増えて襲い掛かる。


「「さぁ、どっちが本物かな??」」


 ニヤリと笑みを浮かべ、襲い掛かる。


「そんな選択肢に縛られないヨ」


 充希はそう言いながら、空を飛ぶ魚にカードを投げつけると、魚はギリギリのところで避けるが、そこに佐江が鉄扇を叩き込みこまれて地面へと激突する。


 それと同時に二体のヴェリテが消え、叩きつけられた魚がヴェリテへと変わる。


「なっ、なぜわかった!?」

「ハハハ。僕の前にどんな嘘も真実も縛る事はできないよ」


 虚構と現実を入れかえる。それがヴェリテの能力。だが、ありとあらゆる縛りをうけない充希の《アンチェイン》の前には無価値へと変わる。そして……


「否定は逆説的な肯定。偽りを否定すれば真実だけしかありません」

「人間が舐めるな! 【フェイク・800】」


 ヴェリテが夥しい数と異形の姿へと歪む。


「嘘偽りない物量で押しつぶしてくれる」


 夢幻が無限に湧き出る。地獄のような光景に二人は、笑みを浮かべる。


「こういう時にするのは神頼みでしょうか?」

「ハハハハ、悪魔かもしれないよ?」

「それも否定はできませんわね」


 押しつぶされそうになりながらも、二人は背中合わせに戦う。


「わたくし、充希さんの何にも縛られないところが好きですよ。これは否定しようがない事実です」

「ハハハハ、僕も佐江ちゃんの芯のしっかりところが好きだよ」

「ありがとうございます。それでは、いきますわよ」

「うん、やろうか」


 佐江が目を閉じ詠唱を始める。


「過去は糸を紡ぎ――

 現在は機を織り――

 未来は布を断つ――

 運命を司る三柱――

 彼のモノの運命を織りなさせ――

 【ノルン・タペストリー】」  


 佐江の周りに美しい女神三柱がその姿をみせると、妖艶な美人が糸車を回すとヴェリテから伸びた糸が伸びる。


「こ、これは因果の糸。まさか!? 人間の呼びかけに古代神が答えただと」


 ヴェリテの【フェイク・800】は全てが偽物で全てが本物。そういうアーツ。


 糸は巻き取られ、清楚な淑女が糸を織り布へと姿を変えていき、そして大ばさみを持った少女が布を断ち切った。


「あなたの死が確定しましたわ」

「ふざけるな! その布がなんだというのだ!」

「この布はあなたの終着点。死を織り上げたモノ」

「バカなことを死ぬのはお前たちだ」


 ヴェリテたちは佐江に襲い掛かるが布に触れると消滅していく。


「ハハハハ、やるね。なら、僕も行くよ『箱の中の猫は死んでいるのか生きてるいのか、ラプラスとマクスウェルの悪魔が観測し忘却の彼方へ【マルチバース・パラドックス】』」


 奇妙な箱が現れると、次々にヴェリテたちを飲み込んでいく。


「なんだこの空間は!? 人間がこんな空間を作り神を閉じ込めるだと」


 困惑するヴェリテにさらに追い打ちが起こる。自分が一体、焼け死んでいた。


「な、なにが起きた? ガハッ」


 今度は槍で心臓を貫き絶命する。


「幻覚か? いや、それとは別の何か……グギャ」


 ヴェリテは思考する間もなく死に続ける。


 氷山に潰され。


 深海へと引き込まれ。


 光も脱出できない重力の渦の中へ。


 斬首され。


 龍に喰われ。


 ナイフに刺され。


 太陽へと呑まれ。


 あり得ない死を体験し続ける。


 本来なら死ぬはずのない出来事が次々に起き、そして死を観測した後に忘却し、死に続ける。偽りの生と真実の死の狭間。悠久の刹那は魂が消滅するまで続くだろう。


「わたしたちの勝ちでしょうか?」

「ハハハハ、否定することなく勝ちだね」


 悪趣味な庭園は消えただの粗末な荒野だけが残るのであった。

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