【十七階層十五区画】王都での再会
アレクサンダーとディオンは、帰りの馬車の中で沈黙していた。
だが、どちらともなく口を開く。
「ディオンよ。彼らをどうみる?」
「正直な話……敵に回したくありませんね。彼ら一人一人が英雄クラスの能力を有しています」
「お前もそう思うか……」
「彼らの祖国がどのような国かは、姫様の手紙から知らされることなどは、信じられないことばかりですが……少なくとも、あのレンジと呼ばれた少年と私が戦うのなら、命を懸けて戦ったとして、万に一つの勝機を見出せるか……それほどの強者です」
「ムムム…それに、この手土産か」
「彼が作ったモノらしいですが……料理好きの一般人が作れるレベルの品でこれとは……」
「うむ、一応、教えてやらなねばならないか……」
とんでもない爆弾を抱えて帰路につく彼らであった。
翌日、錬治たちは、辺境伯に努めている兵士の案内で城下町を散策していた。
「ところで錬治さん、昨日渡したもの良かったんですか?」
「ただのレバーペーストだぜ?」
「それでもですよ。城一さんたち、不利になるとかは……」
「そりゃーありへんわー、最低でも岬ちゃんおるさかい問題あらへんやろ」
「……そうだな」
「そうですわね」
そんな会話を交わしつつ異国情緒を楽しんでいた。そんななか案内役になったラルクは正直不満でしかなかった。なにせ、折角の辺境伯家の兵士になったのに、たかだか冒険者の案内役。くわえて次期当主のギムレットですら最上級のもてなしをしている上に、英雄ギムリと親しい友人のように振る舞う。嫉妬しているといえば正しいが、それでも鼻をあかしてやりたいと思い、思いついたのが、噂になっている屋台。裏通りにある屋台だが味は絶品で、何度も通っている。ただ、食べるのに慣れていないと、服が大変なことになる。かるい嫌がらせ程度に、その屋台へと案内しようと思っていた。
「ラルクさんでしたね? 今度はどこに案内してくれるのかしら?」
「僕のとっておきのお店で、ちょっとした話題になっている屋台なんですよ」
「屋台か、そら珍しそうや」
「……だな」
「えぇ、王都にも今までなかった食べ物で、屋台の名前はメンドコロヤマトと異国の料理をだしているお店なんですよ」
その店名をきいた瞬間全員の足が止まる。
「あの? みなさん、どうかされましたか?」
「いやぁ、楽しみが増えたなと思ってなぁ」
案内されたのは、木製の大型の馬車で、達筆で書かれた『麺処大和』という看板が立てかけていた。
「これは間違いありませんわね」
「さぁて誰がいるかな?」
そう囁きあいながらラルクに案内されて行列にならなんだ。
「あら、みなさんお行儀いいですわね?」
「あー……ここの店主がおっかなくて、ルール守らないと問答無用で殴り飛ばされるので」
待つこと十数分、香ばしいニンニクと生姜の漂う中で待つのはそれでけでも苦痛ともいえたがようやく、錬治たちの番へとなった。
「いらっしゃいませ」
にっこりと微笑んで受付をしてくれたのは、ちょっと腹部がぽっこりとした小柄な女性。
「ソニアさんこんにちわ。旦那さんは?」
「こんにちはラルクさん。いまは厨房にいますけど? なにか御用ですか?」
「いえ、今日は新しいお客さんを連れてきたので」
「まぁ、いつもありがとうございます。それで注文は? といっても鶏油ソバしかないんですけどね」
チロリと舌を出す姿はかわいらしい。
「それを5つお願いします」
「解りました。注文ソバ5つです」
調理スペースへと声をかけると、
「ケケケケ、任せな!」
すごく聞き覚えのある声が錬治たちの耳に届き
「こ、この独特の笑い声は……ま、まさか!?」
「……落ち着け、まだ本人確認ができていない」
「しかし、否定できないほどに間違いありませんわ」
「だなぁ」
そして待つこと数分。
「ケケケケ、特製鶏油ソバおま……ち?」
厨房からでてきた顔で錬治たちは確信をした。
「よっ、光太郎。ちょっと外でオハナシしようゼぇ?」
錬治が面白いものを見つけたと言わんばかりにいい笑みを浮かべていた。
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