【十七階層十一区画】戦慄の調
レオンハルトが目にしたのは、信じられない光景だった。
神の作り出した、鷹の頭、虎の胴と腕、飛蝗の足をもったモンスターが調と呼ばれている少年に飛び掛かったと思った瞬間。骨でできた槍で頭を殴り潰し、振るった槍で虎の腕を切り落としてから真っ二つにした。
流麗としかいえない槍捌きで駆逐していく。モンスターの強さはレベル30~35とレオンハルトと聞かされていた。なのにまったく相手にされていない。
調のクラスは天侠。戦士系クラスの上級クラスの最上位に位置する武聖、剣聖、拳聖をも超える究極のクラスである。サブクラスは武人/怪盗。純粋な武の極みといっていい領域へと足を踏み入れていた。本人は望んでいなかったといえば多くの武人から嫉妬の炎で焼き尽くされるであろう。
今の調にとって、その辺に落ちている小枝一つでも一振りするだけで100の敵を吹き飛ばす事すら可能である。
その調が、槍を振るうだけで100の敵をけん制し一突きごとに数体の魔物を倒していく。
時間にしてみれば5分と立たずに凶悪なモンスター全てを息も乱れることなく調は倒しきっていた。
「ぜってぇ、こいつらとは敵対しねぇ」
ヴェルフェスは思わず口にする。いぜん出合い頭に戦った時、調たちは疲労していた為に実力がだせず、さらに状況把握のためにかなり手加減していたのである。故に、全力を発揮することができ、相手を倒していいのであれば負けはない。
「はぁ……マジで勘弁してくれよ」
仮面を外しながら飛んできたモノを見ることなく落ちている枝を拾って飛んできたモノを打ち抜き近くの大木へと縫い付ける。
「がぺっ」
「ナーイス。さすが調ッチ」
「はぁー……一芽、マジでこいうの辞めてくれって……てっ、またかよ!」
別方向から飛んできたモノを後方に飛びのきながら木の枝を数本折り、木に激突したものを縫い付ける。
「……いえーい」
Vサインをしながら美穂が無傷で姿を現した。
「ま、まさかトマアティさまとスレーヴェさまが……敗れるなんて……ありえない神が敗れるなんて……」
レオンハルトはヨロヨロと数歩あるいて膝をついた。
「やっぱり終わってたしー。こいつ意外としぶとくて大変だったんだよー」
大木に打ち付けられたボロボロになったトマアティの顔面を一芽はゲシゲシと蹴り続ける。
「……ほんと、ほんと」
ついでにと言わんばかりにスレーヴェを一芽に倣って美穂が蹴る。
「生きているのですかな?」
「……多分、イーコールの影響だけど……」
老執事のベンドルフが尋ねると美穂が小首をかしげながら答える。
「イーコール? ベンドルフさん知ってますか?」
「いえ、私も聞いたことがありませんな」
ヴェルフェスの問いにベンドルフは答えることができなかった。
「はぁはぁ……なぜヒュームがイーコールのことを……」
「……イーコール……霊血とも呼ばれる神の血……だから吸血族のレミールを狙った……血に親和性の高い吸血族は……あなた達の天敵になりうる……違う?」
完全に図星と言わんばかりに無言になってしまった。
「ねぇねぇー調ッチ。こいつらて何とかできない?」
「はぁ……わかったよ。生かしておく理由はないけど、ベンドルフさんたちはいい? 仇でしょ?」
「えぇ……構いません……というよりも我らには……手が出せません。先ほどから仕掛けようとしたのですが……体が動かなく……」
全員が悔しそうにしながら歯を食いしばっている。
「解りました。たぶん、こいつでいけるだろ【フェイスレス】」
無謀の面を身に着けると、トマアティとスレーヴェはガタガタと震え始めた。
「お、お前は……いえ、あなた様は一体……!?」
恐怖に震えながら歯をガタガタと鳴らし明らかにトマアティとスレーヴェはおびえだした。。
『消え失せよ……』
蝋燭の火を消すように、フッと吹き消すように、触手が不快なモノを吹き飛ばすようになでると、この世界から二柱の神が消滅した。
「ふぅ、それじゃ、一休みしたら聖霊樹をめざしますかね」
あっさりと決着はつけ、調たちはエルフたちの聖地・聖霊樹ホーリーバウムへと向かうのであった。
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