【一階層十九区画】卒業そして鹿児島へ
今回で一章は最後となります。
【一階層十九区画】卒業そして鹿児島へ
錬治たちが「小鬼のダンジョン」を制覇してからあっという間に卒業を迎えた。
そして、幸たちも無事に合格し卒業祝いのパーティーなども終えて三月も中旬へと差し掛かり、いよいよ旅立ちの日。正直、錬治の手荷物は少ない。というか、衣服とダンジョン用装備くらいなものである。
「じゃあ行ってくるよ父さん、母さん」
「えぇ、気を付けてね。伯父さんたちにもよろしくね」
「では、お義父さんお願いします」
「おう、まぁ里帰りついでに少し向こうでのんびりしてくるかの」
ちなみに、錬治の父の巌は婿養子であるので、母親の親戚筋が鹿児島にはいるので、挨拶に祖父である哲一も同行することになったのである。
「ところで、お前さん見送り、誰もこんの」
「あぁ、全員見送りは断った。散々別れはすませたしな」
こうして、錬治は故郷を後に、一路鹿児島へと向かった…季節は廻り再び春を迎える。その地に集う同類の十三人が待つ地へと…
《ライブラ》新田 崇高
ザシュ…ザシュッ…ザシュッ
ダンジョンに短く音が響く、音の先にはゴブリンが三体倒れていた。
「本日も計り間違いなし。正鵠必中と」
ダンジョンでは、珍しい弓を武器に使う少年。《ライブラ》ありとあらゆるモノを計ることができるスキルの所有者の一端である。
《ホワイトブック》渡瀬 ぼたん
「ありがとうございました」
「おう、また、聞きたいことあったら声かけてくれよお嬢ちゃん」
「その…私、進学で鹿児島へ行くので今日が最後なんですよ」
「そうかい…お嬢ちゃんの予想は、結構世話になってたからな。まぁ、向こう行ってもがんばってな」
「はい、こちらに戻ってきたらまた声を掛けますね」
そういって男は席を離れた。
「さてと【ブック】」
手元に一冊のほうが現れる。タイトルは『迷宮白書』
「…うーん、今回の話で少し情報が集まったな。とりあえず、ここのダンジョンの傾向と対策纏めて出しておこう」
スキル《ホワイトブック》スキル保持者が得た情報を編纂・統合し情報の精度に合わせて予測する程度の能力である。
《デッドコピー》赤城 次郎
「いや、やっぱすげぇな、次郎のスキル。ほぼ完全に再現してるよな」
「へへへ、まぁな。スキルは使いようよ。俺のスキル《デッドコピー》は、オリジナルを確かに超えられないけど、オリジナルに近い能力を発揮できる。まぁ、制限に実際にあったことがある事と最低条件に必要だけどな。ありとあらゆるものが再現できるから助手とかにはもってこいだから将来安泰よ。単純作業なら高いレベルは必要ないしな」
「…その志の低さてどうなんだ?」
「いいの。いいの。俺てほら、器用貧乏でおまけに気移りしやすいからさ、将来やりたいことが決まったら考えるさ」
楽天家の少年、赤城次郎。スキル《デッドコピー》ユニークスキルを除くありとあらゆるスキルを90%の効果まで再現する程度の能力ではあるがかなり上手く付き合っているようである。
《ボックス》六角 美千代
「美千代、準備はできた?」
「終わってるよ。お母さん」
「あら、本当。これもあなたのスキルなの?」
「まぁね。最初は変なスキルて思ったけど便利だよ。生き物以外なら何でも入るし【インベントリー】にしまえるから」
「あら、将来は引っ越し業者とかしたらすごく助かりそうね」
「もう、お母さんたら。このスキルを使えばもっとスゴイ事できるんだから億万長者もめじゃないからガッポリ稼いで見せるわよ」
「ふふふふ、なら楽しみにさせてもらうわね。けど無茶と犯罪はダメよ」
「大丈夫。犯罪は嫌いだし犯罪者は箱詰めにしてあげるよ」
「あらあら物騒ね」
少し能天気な母親と会話する、少々金銭にこだわる少女、六角美千代。スキル【ボックス】箱を作りの能力は規格外のようである。
《ビースト》諏訪 一芽と《ブラッド》秋葉 美穂
鹿児島へと向かう新幹線の中二人の少女が楽しそうに会話をしている。
「ねぇ、美穂っち向こういったら何すル?」
ラフな格好からみえる健康的なレベルの褐色の肌と相まって非常に活発な印象を受ける少女と
「…スイーツ食べる」
手元のガイドブックらしき本を読んでいる地味目な印象をうける小柄な少女と対照的ではあるが仲睦まじい様子で会話を続けている。
「好きだネ」
「甘味大事…」
「しかし、二人とも同じ高校になるとは思わなかったネ」
「嫌…だった?」
「まさか、幼馴染で親友と一緒て最高でショ」
「美味しいもの…一緒に食べると…最高」
「アハハハ、そうだね。けど、焼き肉はスイーツじゃないからネ?」
「なん……だと……??」
スキル《ビースト》獣の力を操る能力。諏訪一芽。
スキル《ブラッド》血を操る能力。秋葉美穂。
二人仲良く新幹線の旅を楽しんでいた。
《マスカレイド》矢車 調
『闇に抱かれて眠るがいい』
蝙蝠の意匠を施された仮面をつけた少年が一人呟く。その背後には、なにかが貫通したオーガの死体が一つ。少年は仮面を外すと
「うわぁぁぁぁぁぁん…またやっちゃったよ。なにが闇に抱かれて眠れだよ。なに、馬鹿なのアホなの!? もうすぐ高校生なんですけど! …ううぅ…強いけど、もうヤダ、このスキル…ほかのユニークスキルもこんな感じなのか…」
自分の言動に躁鬱を繰り返しながら、仮面を身に着ける。身に着ける仮面によって能力が変化するスキル《マスカレイド》その保持者である矢車調はいたって普通のメンタルの少年である。
《アンフェア》藤堂 光太郎
「あぁ、もう退屈だ。マジで退屈だ。いや、ピンチのはずなのに負ける気がしない。てマジでヤバイ。不利なはずなのに…はぁ、こんなの本当に反則だぜ。けど、まぁ、しょうがないか俺が強いのは仕方ない」
周り一面には、オークの死体が二十体ほど。手には斧が握られて血が滴っている。かなり長身ではあるが、細身でその斧を振ることができているのが、不思議ではあるが息一つ乱れていないどころか楽々と担ぐ。
「俺と互角の勝負できる奴なんているのかねぇ」
スキル《アンフェア》自らが不利なほど身体能力があがる程度のスキルである。
《カスタマイズ》如月 源治
ここは実家のガレージを改造してもらった源治のトレーニングルームである。なにせ源治のスキル《カスタマイズ》はあまりにも特殊なタイプである為に両親に頼んで設えてもらったのである。
「ライトアーム・モード:チェーンソー」
奇妙なキューブが現れると右手に纏わりつくとチェーンソーの形に変形する。これが《カスタマイズ》の効果。金属を吸収し再構築し武装へと変換される。武装は他にも多数ある。
「これも重いな…筋力が足りないか鍛えなければいけないな」
解除すると逆立ちをしながら腕立てを始める。かなりストイックな性格である。
《アンチェイン》小鳥遊 充希
「うん、今日は、何するかなぁ」
プカプカと浮きながらそう口にする。スキル《アンチェイン》数あるスキルのあるなかでも、異端の中の異端。あらゆる法則に縛られない能力。それも物理法則すらにも縛られない恐ろしい能力である。
「うーん、今日はお昼寝だね」
自由奔放な楽天家の少女。小鳥遊充希。気まぐれな彼女の実力は未だ不明である。
《ネガティブ》琴吹 佐江
「ふーん、どの人も面白いわね。退屈を否定してくれそう」
どこから手に入れたクラスメイトの資料に目を通しているのは琴吹佐江。楽しそうに笑いながら資料を何度も目を通す。
「うん、それにしても私のスキルと似た人もいるのね。私のスキル《ネガティブ》は否定の能力。事象の否定だけどね。あぁ楽しみこの楽しみな気分は否定できない」
彼女はありとあらゆる事象を否定できる。ユニークスキル保持者らしい保持者である。
《アテンション》志藤 岬と《ドミニオン》新藤 城一
錦江湾を遊覧する船のなか一組の男女
「城一さん、右手をご覧ください。あちらが鹿児島の象徴、桜島にございます」
「であるか」
男装の麗人といった風体の志藤岬と、うどんをすすりながら若干、横柄そうな態度の新藤城一。二人の関係性は不明ではあるが仲はそこまで悪くないとは思われる。
「あの城一さんなぜうどんを?」
「ふっ、愚問だな。このフェリーに乗ったら、よく食べられているというのでな。俺が食さないわけないであろ?」
「そうですね。さすがです」
「俺はいずれこの桜島ダンジョンを制覇する男。ならば地元に愛され称えられる英雄でなければならいないと考えている。わかるな」
「はい」
「だから、お前も食すがいい俺の一の配下としてな」
「はい」
「ふふふふ、称えよ我が覇道を!」
その宣言に呼応するかのように鳴り響く音楽。それは、スキル《ドミニオン》の一端である。
《ドミニオン》新藤城一。そのスキルは《アンフェア》《ネガティブ》と並ぶ反則級のスキルである。
ユニークスキル保持者の活躍は次章からとなります。
次章からは更新は1週間に1度のペースを保てるように努力したい考えております。
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