【十七階層八区画】壺の男と翼の女
二足歩行のネズミの種族。力は弱く、姑息で素早く身を隠すしか取り柄がない。それがラットマンで評価であり、レオンハルトはそれが屈辱でしかなかった。
だから、自らの手で、成り上がろうとした矢先に、救われてしまった。レミールの母、聖女と呼ばれた女性ジャンヌによって……
ジャンヌは誰にも優しく、等しく敬意を払い女神のようだと人々に慕われていた。
レオンハルトにとってそれは救いではなく絶望だった。自身の力でラットマンの地位を向上させるという思い。弱者故の思いを切実に語った。
だが…
「うーん、よくわからないしー」
「……強さ、弱さは個人の問題……」
「悪い、まったく共感できない」
一芽、美穂、調にはまったくもって理解できない感情だった。三人にとって恩人を裏切った卑怯者という認識であり、命を奪わないのは情報源になるからと割り切っている。むろん積極的に殺すほどの恨みは三人にはない為に、後のことは当事者であるベンドルフたちに任せようと思っている。
『やはり、また失敗か』
『そういうな。ラットマンに期待する方がおかしいのだよ。スレーヴェ』
『確かにそうであった。失言だったよ。トマアティ』
上空からよく聞こえるように響いた声に上を見上げると奇妙な窯に座ったローブ姿の男と蝙蝠と白い翼が生えた女が空に浮かんでいた。
「あなた方は…旦那様と奥様を殺した……」
その姿を見るや老執事のベンドルフは怒りに震えながらとびかかるも地中から伸びたツタが、絡めとる。
『あの時の執事か、いい顔をしている。私は君のような顔をしてくれるものが大好きですね。だから殺さないで置いたのさ。やはり憎しみの感情は熟成したほうが旨味がます』
ツボにのったスレーヴェと呼ばれた男はニヤニヤと笑いながら、手を突き出し、やっくりと何かを握りつぶすような仕草をすると、ベンドルフを締め付けていたツタが、締め上げる力が強まり、やがてゴキリと鈍い音が響く。
『おや、骨が折れたみたいだ。やはり老人は骨が脆い。だが、骨の砕ける音は実に素晴らしい、どれもっと聞かせてくれたまえ』
さらに、ツタが締め付けを強くしベンドルフの体の骨から悲鳴があがろとうした瞬間、何かが飛び出し、一瞬でツタを切り裂き、そしてスレーヴェの顔面を殴り飛ばし地面に叩きつけていた。
「よくも! よくも! わちきのかわいいレミールの両親を殺して、その家族にまた手をだしてくれたねぇ。覚悟を決めな! お前らはわちきがぶっ飛ばす」
美穂がブチ切れて、啖呵をきっていた。最初はベンドルフたちに任せようと思っていたために初動が遅れたが、レミールの不安そうな顔をした瞬間、行動を完了としいた。
「おねえちゃん……」
レミールは美穂にこの旅の間、非常になついており美穂にとっては掛買いのない妹ような存在になっていた。
「うわー、みほっちのガチギレモード久々にみたしー。しらべっちは、みんなのこと任せるからよろしく」
「了解と」
そういって、蝙蝠と白い翼をもつ女トマアティへと一芽が向かった。
「はぁ…さてと、フェリエスさんにヴェルフェスはお嬢さまをしっかり守っていてくださいね」
調は骸骨の仮面を取り出し身に着ける。
「我は周りのモノどもの駆逐する故に」
暗闇に潜んでいた魔獣へと調は骨の槍を構えるのであった。
評価や感想、ご意見など時間がありましたらどうかお願いいたします。




