【十七階層一区画】辺境領にて
~どうしてこうなった?~
辺境領主城『ブレス城・鍛錬場』
多くの人がその戦いを、今か、今かと待っている。その鍛錬場に立っているのは、錬治とそれに向き合うように、さっきに満ち溢れた男が十と二名程、全員が同じような鎧を身に着けているが、錬治はワイシャツにジーンズと完全なラフな格好に武骨で太い木の枝をもっていた。
「少しは楽しめるかねぇ」
そういいながら雲一つない空を見上げていた。
少し、時を戻すとしよう。
「ようこそ。お越しくださいましたギムリ殿」
「おぉ、久しぶりだなゴルジ殿」
まさか領主直々が門で出迎えがあるとは思っていなかった錬治たちは少々、面を喰らった。
「ますます、強さを増されましたか?」
「長らくレベルは計っておらんが、衰えてはおらんよ。ゴルジ殿も一層精進されたようでなによりじゃ」
筋肉隆々で身長は2m近い大男であるが、年は壮年の域に入っているが、若々しさも感じ、そして知的な印象を受ける。
「ふむ、それにしても冒険者の護衛とは珍しいですな?」
「おぉ、そうじゃった。ゴルジ殿にも紹介しよう我が友のレンジにゲンジにサエにミチヨじゃ」
紹介されて会釈をする。
「一団を代表いたしまして、ご挨拶させていただきます。私、琴吹佐江と申します。こちらの言い方に直しますと、サエ=コトブキと申します」
「ふぅむ」
佐江の所作に作法は違えど、かなり高い教育を受けていると見受けられているとゴルジは考えていた。
「丁寧なあいさつ痛み入る。冒険者のみでそれほどの作法をお持ちとは感服しました」
「いえいえ、無作法がありますでしょうが大目に見ていただけると幸いですわ」
二人の挨拶を遠目に見ながら、錬治たちは
「すげぇ腹の探り合いしてるなぁ」
「せやねぇ」
「……細かい事は解らん」
案内される街は石造りの街。いがいと臭気は漂っておらず、メインストリートは広く整備されていた。
「……コンクリート造りか?」
「古代ローマでもあったからなぁ」
「そういえば、歴史でなろうたな。それにしても流石、佐江はん。おえらいさんとのお相手とかようやるわ」
佐江とギムリは領主の馬車に乗り、その後ろの馬車へと錬治たちは案内された。賓客の友人として紹介されただけに無下に扱うわけにもいかないが少し怪訝な顔をされたが、馬車に揺られて領主城へと案内された。
「ようこそ、我らが城に」
きっちりとした鎧に身に着けた青年たちが出迎えた。
「ギムリ殿、我が息子のギムレットになります。王都への護衛としてお連れください」
「ふむぅ……」
「よろしくお願いいたします」
しっかりと礼儀正しくお辞儀をする。
「サエはどう思う?」
「そうですわね……錬治さんと、戦わせてみればいいと思いますわよ」
「なるほどの」
「うん? 俺がどうした?」
馬車から降りた錬治が話している二人に近づいた。
「レンジちと、あやつらと、戦ってくれんか?」
「まぁ、いいけど。じゃっ、始めるか」
そういって、即座に臨戦態勢へと錬治は移り、そのしぐさにギムレットはどうしていいのか分からずにとりあえず構える。
「待て待て!」
慌ててゴルジは止めに入る。
「あのギムリ殿。その我が息子に何か不満が? 息子は教会でレベル20に達した神託を受けた英才ですぞ?」
「不満というよりも、不安かの。じゃから儂が、信頼しておる、レンジと戦うのが手早いと思っての」
「実力が分からないと、いざという時困りますしね」
「じゃ、やるか」
説明はおわりと、錬治は再び構えるが、ゴルジは再び止めに入り
「いや、なんで、この者はやる気なんだ? しかしフム…若き精鋭と冒険者の戦いか面白そうではありますな。では、訓練所で行うということでいかがか?」
「なら、護衛につく全員で頼む。後でいろいろと面倒になったらアレだし」
その一言で場は一気に凍りつく。
「ほう、随分舐められたものだな。いいだろう。父上、どうせならば大々的に喧伝すべきでは?」
「うむ、学びがあるかもしれんし、それに家々の騎士たちも来ているが……今からというのは……」
「では、明日の正午でいかがでしょうか?」
「急ではあるが、明日の夜には、歓迎の宴も予定していたし……わかった。しかし、君、いいのかね?」
ゴルジは錬治に尋ねるが
「うん? なにが?」
飄々というか今すぐに戦うのではないと思い少しばかりがっかりとさえしている。
「全員を相手にするなどと口にして…」
「あぁ、いいぜ」
「解った。では、ゲストハウスを用意しているのでゆっくりと休んでくれたまえ」
こうして、錬治と護衛の騎士団との試合があっさりと決まったのであった。




