【十六階層一区画】負い目
~いつかは起きる事だった~
――はぁはぁ……急いで逃げて……誰かに助けを……
少女は必死に逃げていた。森に逃げ込みながら必死にかけた。
けれども、現実は無慈悲であり、運よく都合よくたまたま助かるなどという奇跡など、そうそうあるわけでもない。
「ようやく、捕まえたぜお嬢ちゃん」
下卑た笑みを浮かべながら少女を捕まえた薄汚い男は手に持った斧で少女を叩き斬ろうと振り下ろされ、少女は目をつぶり自分の人生の終わりを確信した。
「はぁ……この世界ってなんで、こう、襲撃されてる人が多いんだよ。殺意高すぎだろ」
少女は、恐る恐る目を開くと、自分を殺そうとしていた男が倒れうずくまり右手を抑えており。そして、見たこともない装束を身に纏った青年―錬治―が立っていた。
「よっ、大丈夫か?」
「は、はい」
少女に手を刺し伸ばした時にそれは起こった。倒れ伏していた男が斧を再び掴み少女に迫った。
油断。錬治にとっての慢心というよりも、平和な日本でなら痛い目にあってから、再び襲いかかってくるなどという事は、そうそうある事である為に起きた失念。戦えるように意識を残していなかったわけでもない。むしろ逆に、戦う意識を残していたからこその無意識の超反応。
ダンジョンでの戦いを幾たびも経験したことで、身についた当たり前の反応でもあり、ある意味では仕方がないとされる。が、決して望んだことではない結末。
錬治がその事態を認識した時には、終わっていた。
「ちっ……」
小さく舌打ちをして、抜き斬っていた自分の刀を視線を送り、自身が斬り殺していた男に目を向ける。
「あ、あの…」
「あぁ、悪いな。それで大丈夫か?」
不安に自分を見つめる少女に、錬治は気持ちを切り替えて話しかけた。
「それで……」
「おーい、レンジ無事か!!」
ギムリが駆け寄ってきた。
合流する前に、錬治は自分が斬り殺した男を埋葬し手を合わせて、その場を去るのであった。
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