【十五階層十三区画】理不尽がやってきた
~とりあえず舐められたら力づく~
(何で騙されたかな……)
闘龍の谷にある闘技者の街・ゼルトナーに住むソニアは、今、命を終えると自身で確信していた。目の前に迫るはブレイジングバッファロー。大岩のような猛牛が、自分を踏み殺さんと迫っている。
「ケケケケ。この牛、貰っていいか?」
「えっ?」
目をつぶり覚悟をきめた瞬間、突然、声を掛けられ目を開くとそこには
「うん? もしかして、仕留めるとこだったか? ケケケケ、そいつは悪いことをしたか?」
長身の男が片手でブレイジングバッファローを受け止めていた。
「い、いえ…あの助けてください」
「そうだな。後で頼みきいてくれるならいいぜ?」
顔はどう見ても善人には見えない。何をされるか想像ができないほど子どもではないけど……命には代えられない。
「わかりました……私にできることなら」
「じゃー、契約成立と……《トレイター》」
その呟きがスキル発動だと少女はわかると、この後にナニをされるのかと別の意味で恐怖してしまうが、その次の光景でその思考すらも止まってしまう。
蹴り飛ばしたのだ。それも巨大な猛牛を一発の蹴りで吹き飛ばし、ブレイジングバッファローが宙に舞い上がると男も跳躍し、片手には、本来なら片手で持てないような大斧が握られており、それで一閃とあっさりとブレイジングバッファローを仕留めた。
少女にとって信じらない光景だった。ブレイジングバッファローは、本来は、腕利きの冒険者が20人掛かりで仕留める。超大物。しかも腕利きであっても死者や重傷者が出ることは当たり前の獲物があっさりとしとめてしまった。
「あっ、やっべ思ったよりも柔らくて、首切り落としちまった。収納カプセルこれが最後の一個なんだよな」
あっけらかんと、軽い運動だったと言わんばかりに奇妙なボールを投げると、ブレイジングバッファローの胴体が消え、ボールだけが残った。
「ケケケ。さてと、それじゃーお楽しみといくかな」
ソニアはビクリッと身を震わした。
―
――
―――
――――
「かぁーうめぇぇぇ」
「一人で飛び出したとおもったらである」
「あなたも食べる?」
「えっ……えっと…??」
目の前に開かれている光景にソニアは、理解が追いつかない状態になった。
時は少し戻り、ブレイジングバッファローを倒された後に、現れたのは筋骨隆々の大男と自分と同じくらいの少女の二人連れが現れたかと思うと、ブレイジングバッファローの頭部から舌を切り出すと、先ほどブレイジングバッファローの首を切り落とした男が、大きい岩を平たく切り抜くと岩を組み、その下で火をつける。
「舌の処理……これが本当の下処理」
「うむ、下処理は大事であるな。守里」
「ケケケ、できるまでに時間があるから、済ませておかないとな……あー俺は光太郎、あっちのデカいのが剛でちっこいのが守里だ。うんで名前は?」
「名前ですか?」
怯えながら応える。
「えっと……ソニアです」
「ソニア、ソニアかケケケケ、とりあえず食事にするか」
「食事って……あのブレイジングバッファローの舌て食べれるんですか?」
恐る恐る尋ねる。
「うーん、どうなんだ? 守里」
「毒性はなし……それに《食材鑑定》で見たから……間違いなし」
「ケケケケ、だそうだけど、こっちの方じゃ食わないのか?」
「えっと……そうですね。確か硬くて食べれないという話ですし、それに気持ち悪くて、誰も食べようなんて、思ないですよ」
「そいつはもったいねぇな」
そうこうしている内に、下処理が終えてできたメニューは
「牛タンのスパイス焼き……できあがり。筋とかは煮込み中」
「おぉ旨そうだな」
「ケケケケ、話の続きは食いながらだ」
「は、はい」
焼ける肉の匂いに香辛料の香り。
「ふわぁぁぁ美味しいです。これって胡椒!? それにいくつも香草も」
「胡椒は貴重品?」
「もちろんですよ。昔、一度だけ少しだけですけど……ふぁぁぁでも、全然硬くないですぅぅ」
「こいつはうめぇな」
「うむ、白飯が欲しいであるな」
「ライスパックは食べ切った……のは失敗」
「ケケケケ、よーし、じゃんじゃん焼くぞ」
大量にあった牛タンを全員であっさりと平らげてしまう。
「ふぅ、さてと。そうそう頼みてのは、街に案内してくれねぇか?」
「えっ、そんな事ですか?」
「おう、実はな……」
話された内容は驚きのモノであったが、ダンジョンでそういう罠があるとも聞いたことがある。
「わかりました」
「あぁ、あと寝泊まりできる場所も頼む」
そういって案内されたのは谷の間にある町・ゼルトナーへと続く門へとやってきたのだが。
「おいおい嬢ちゃん生きていたのか。親父さんが慌ててたぜ。で、ガキどもは?」
「この人たちに助けてもらったんです。あの門を通っても」
「あぁ嬢ちゃんはいいが……おいガキども身分証をだしな?」
「探検者カードでいいであるか?」
「あぁん? なんだそりゃ? ないなら一人銅貨6枚だしな」
「銅貨……もってない」
「はぁ? どんだけ田舎もんなんだよ。まぁ決まりだから通せねぇな。はい、残念。荒野で野タレ死に……」
そこまでいいかけて、門番の横に鋭いものが突き刺さる。
「ケケケケ、そいつが銅貨の代わりってことでいいか?」
「ひっ…が、ガキ」
「おらよ。もう一つオマケだぜ」
ダメ押しにと門番を挟むように突き刺した。
「何の騒ぎだ!? ってコレはブレイジングバッファローの角!? どういうことだ?」
「ケケケケ、いやー通行料がなかったから代わりに物納しようかとおもってよ。ケケケケ」
「はぁ? ふざけているのか、この角の状態なら大金貨でも千枚は蔵だ無いぞ?」
「ふーん。まぁいいやそれなら通っていいよ? あっ、その角はやるよ。壁の修理費てことで」
「解った……とりあえず、街でもめ事は極力おこすなよ」
「ケケケケ、ほいほーい」
「滞在先は決まってるのか?」
「は、はい。静かな青い鳥亭の予定です」
「わかった。いっていいぞ」
こんなやり取りのあった案内されたのは……
「廃墟……?」
「うむ、今にも崩れそうである」
「ケケケケ、すっげーボロ小屋」
ボロボロになった建物を前に正直な感想をのべる三人たいしてソニアは申し訳なさそうに
「あう……えっと……ようこそ。ここが家の『静かな青い鳥亭』です」
と、告げるのであった。
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