【十四階層一区画】レイドバトル その1
~顕現セシ物~
神議会は上に下への大混乱に陥っていた。
「地上の様子は!」
上座に座る女性は声を荒げ配下に状況を確認している。
「迷宮の浸食止まりません。このままだと現世と迷宮が完全に融合してしまいます!」
「それは何とか阻止…それにしてもやってくれたわね……どんだけ迷惑かけるのよ!」
力一杯に机を殴りつけるとメキッと嫌な音が響き
「姉貴…机、ヒビはいってるぜ?」
「ぐっ…それで」
「少しだけ干渉はしたけど、あんまり強く干渉はムリだ。下手に干渉すると世界そのものがバランスが壊れちまうよ」
世界崩壊の危機でありながら手を出せないジレンマが神議会を支配している。
「室長大変です! 出雲大迷宮の50階層と強制接続されて……」
「ガッデム! アレが地上に顕現したら下手したら日ノ本が滅ぶわよ! 最悪…私たちも顕現しないといけなくなるわね」
「そうなったら日ノ本が半分は滅びる事に……」
「地上の子達に頑張ってもらうしかないわね。可能な限り支援をする方針でいくわよ」
ダンジョンが地上に出現してから起こる未曽有の危機に神議会も行動を起こさずにはいられないのだった。
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それは誰もが日本人なら知っている化け物だった。
輝く鬼灯の瞳――
八の頭を持つ大蛇――
その体躯は八つの丘と八ノ谷を覆いつくす――
水害の化身――
蛇神・八岐大蛇が現代に顕現した。
「ハハハハハハハハ、まさかまさかここまで強大で巨大なの? 凄い凄い。ねぇねぇ凄いわよね? 喰らいなさい太古の蛇神、贄は用意してあるわよ」
その言葉とともに選真教の教徒たちや選真教の聖印を身に着けて命乞いをした人々が苦しみだした。
「まさか……贄って」
「クスクスそうよ。この印は生贄の印。選真は正しくは選身、生贄となる身を選んだのよ。傲慢で強欲で嫉妬深くて生き汚い魂を選別し捧げる為に……まぁ、あの蛇神ならこの程度の贄じゃ足りないからこの国も全部平らげるでしょうね」
「このぉぉぉお」
佐江は声を荒げながら鉄扇を振り下ろすも受け止められる。
「あらあら、危ないわよ」
そう言うと蹴り飛ばされ後方へと吹き飛ばされた。
「【キューブクッション】」
「【サモン・ドッペル・サーバント】受け止めて!」
ぼたんと美千代が受け止めると佐江の口から血が垂れていた。
「それじゃバイバイ」
ガブリッ……
地面もろともに大蛇の頭の一つが降りてきて丸のみにした。
――シャー!
大地を揺るがす咆哮が響く。
「こんなのってムリやろ……八岐大蛇なんてそんな反則や」
「けど、戦わないと……戦えない人を守らないと」
「はぁはぁ……おねえ…ちゃん…ごめん……」
何とか戦おうと踏ん張る三人だが気圧されしまい八岐大蛇が身動ぎした程度でも地面が砕けて、はじけ飛び降りかかる岩への反応が遅れてしまった。
「そうはさせんぞ」
三人を守るように一人の老人が飛び出しその身で庇う。
「お爺さん大丈夫? って総理大臣やん!」
「佐江ちゃん回復、回復」
「あっ…えっ…〈ヒール〉」
何とかいつもの調子を取り戻しながら総理大臣の傷をいやす。
「総理が無茶したらあかんやろ。というか早くにげぇや」
「何を言っているのです。君たちこそ逃げなさい。私が死んでも代わりなんてなんとかなります。それよりも君たちこそ逃げなさい。惚けて指示が遅れてしまったのは申し訳ないだが、今からでも逃げてくれ頼む」
真摯の頭をさげる総理のまわりのSPたちも装備を身に着ける。
「その意気や良し。さすがは日本国の首相である。首相がでたのなら主将の我がでないわけにはいくまい」
「皆さん救援が遅れて申し訳ありません」
城一と岬が合流しながらも八岐大蛇を睨む
「須佐之男命となるとは我もついているな」
「ハハハハ、この状況でそんな事いえるのって城一くんだけだと思うよ」
「流石は、あの錬治君が大将にしている人だ……たぶんこの状況でも彼は楽しそうに笑っているだろうけど」
充希と勇雄も無事に合流する。
「…なぁ、さっきから八岐大蛇が鎮座して動かへんようだけど」
「多分、エネルギー不足ですわ。顕現して生贄を吸収してもあの体躯です維持するだけでも消耗するのでしょう。ぼたんさんどうですか?」
「そうみたいだけど……てっ、鱗から何か出てきてますけど? 分霊体? 蛇が現れて人を襲ってる?」
八岐大蛇はとぐろを巻くと寝息を立て始めると同時に夥しいということばすら生ぬるい大蛇の群れが、鱗の隙間から湧き出し、ありとあらゆるものを呑み込み始めるであった。
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