【十三階層二十六区画】修学旅行 その23
~邂逅~
梵貂を下した。佐江は教主・安武マリの前に躍り出た。
「あらあら? 梵貂じゃ止められなかったのね。仕方ない仕方ない」
緊張感もなく、ケラケラと笑いながらその手に、握った一対の鉄扇を構える。
「お揃いね。お揃い」
コロコロと笑いながらクルクルと鉄扇を回す。
「いつまで…いつまで……ふざけるつもりですか…貴方は!!」
珍しく感情的になった佐江が、飛び掛かり振り下ろした鉄扇をあっさりと自らの鉄扇で受け止め火花が飛び散る。
「クスクス。円武・花鳥風月」
少しだけ受け止める力を緩め、ゆらりと回し蹴りを放ち佐江の頭部を捉え数メートルほど吹き飛ぶ。
「だめよ。ダメ。熱くなっちゃ。昔そう教えなかったなかった?」
「……黙りなさい……」
「あらあら? 怒っているね。お姉ちゃんは悲しいわ悲しいわ」
「だまれぇぇぇぇぇ。安武マリなんてふざけた名前を名乗って…その姿で姉さんを名乗るな! 貴方が姉さんじゃないことは解っているのよ!」
少しだけ琴吹佐江の過去を語ろう。それはありふれたとか陳腐と言われればお終いだが、佐江には尊敬できる姉がいた名は光江。しかし、今から七年前、突如、両親を殺害しその姿を消して以後行方不明となっただけの話である。
「あぁ、この器になってくれた子の…フフフフ、これも術式の影響か知らね? まぁ、まだ少し時間があるし遊んであげるから相手になってあげますよ」
「この!」
激しい鉄扇と鉄扇の打ち合いが始まった。
その様子を遠目に見ながら大剣を振り回す暴聖はイラついていた。
「我が妻の危機である邪魔をするでなぁ~い」
暴れ狂う暴聖。大剣を小枝のようにふるまわし地面をバターを削るように切り裂く。だが、城一と岬をは、攻撃を躱しながら小さく、手数で攻めるのだが効果がまるでない。いや、手ごたえは間違いなくあるし、手傷も負わせたはずなのに何ともないように暴れ狂う暴聖。
「ムダムダ、我が【強制徴税】により我は無敵ぞぉ?」
「強制徴税だと?」
「クックックッ、我がスキルの有効範囲は半径100m。その範囲内にいるスキル対象から強制的にHPとMPを徴収するまさに王に相応しいアーツであろうぅ~」
「なるほどな……やはりウヌは最低の男のようだ。しかし、仕掛けが解れば問題ない」
「ふっ、貴様に我が《タイラント》が敗れるとでも?」
「試してみるか?《ドミニオン》!」
《タイラント》と《ドミニオン》酷似するこの2つのスキルではあるが、《タイラント》は人を支配するスキルであり《ドミニオン》は場を支配するスキルという違いがある。
「ぐっ…この負荷…かなりの厳しいな」
「むっ!? ほんの少し貴様に流れるかぁ~だがぁ~完全に奪いきれていなぁいなぁ」
「でしたら《アテンション》」
岬が《アテンション》で人の意識を城一へと向ける。ほんの僅かな意識の流れが城一の支配を強化する。
「ぐっ、これが命の重み……」
「貴様のようなぁ脆弱な者に支えきれまいぃ。貴様もぉ貴様の仲間もぉ我がタイラントの前には無力。だがぁ、よくここまで戦ったと誉めてやる。そぉら褒美ぞぉ~」
暴聖が大剣を振り下ろそうとした瞬間…
ザクッ! ザクッ! ザクッ!
右手の甲、右肘、左ひざ裏に矢が突き刺さる。
「なぁにぃ!?」
「流石は崇高…タイミングが計れる男だ。岬一気に畳みかけるぞ」
「はい、城一さん」
思わず膝をついた暴聖の頭部めがけて城一が殴り飛ばし、岬は暴聖の肩を踏み台にすると、ひたすらに後頭部めがけて踏みつ続ける。上と下からの波状攻撃はタフネスに自信がある暴聖も耐え切れずに昏倒し気絶するのであった。
そして、城一と暴聖が戦った場所から150mの離れた地点では、
「ふぅ、当たってよかったでありますよ。さて自分は、魔物を討伐にまわりであります」
一人そう呟いた崇高であった。
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