【八階層七区画】チェイス3
【八階層七区画】チェイス3
「これはもっていかないと…」
磯原夏江は、灯を点けるのも惜しんで、机からあるものを取り出していた。
「あぁ、そこにあったんですね」
驚き振り返ると、銀色に輝く大きなもった、まるで日本人形のような美少女が立っていた。
「驚かれた事は否定しませんよ。気配も匂いも音も否定してましたからね」
「なんで…」
「さてと、あなたを否定する前に、全てをお話しましょうか? 今回の通り魔事件の黒幕さん?」
「ち、ちがう、それはフブキちゃんが…」
「その答えは否定します。そうなるように、お膳立てしたのは貴女ですね。元々、素行の悪かった飯島フブキさんを中心にしたグループの使い走りだった貴女が、肥溜め…いけませんね。ゴミくず、これもしっくりきません…掃き溜め、いまいちですね。まぁ、この世に存在する中でももっとも価値のない集団、名前すら覚えるのすら無駄ではありますけど、確か、選真教などという狂信者たちの…」
「<エアーバレット>」
夏江の放った空気の弾丸は、佐江が扇を一振りするだけで霧散した。
「話の途中でこのような行為は行儀が悪いですね。結論から言いますと、彼女たちは生贄の羊。本当の目的は、被害者の一人、木島伸介さん。この方は、結構人気のある探検者ブロガーですが、3か月ほど前に選真教に対して批判的な記事を書いてかなりの支持を受けていたみたいですね。彼に対する報復をカモフラージュする為の事件というのが今回の事件の真相ですが…あまりにも陳腐というか、粗末というか…あまりのくだらなさに辟易してしまいました。何か弁明がありましたらお聞きしますけど?」
体を小刻みに震わせながら夏江は叫びだした。
「あいつが悪いのよ! 私たちの教祖様をペテン師呼ばわりして! だから、私が天罰を与えてやったのよ!」
「それで、無関係の人を巻き込んだと?」
「ええ、そうよ! 選ばれなかった人間が、教祖様の為役立てるんだから感謝すべきなのよ!」
「判りました」
パン!
激しい打撃音が響くと同時に夏江は大きく吹き飛び壁に激突する。
「あまりにも下劣すぎて反吐がでますね。自分が選ばた人間などと思い上がった貴女のその思想…全力で否定してさしあげます。お立ちなさい。ダメージは否定して差し上げたのですから立てるでしょ?」
そう言われて夏江は、確かに痛みがないことを確認するとゆっくりと立ち上がる。
ガン!
再び鈍い音だけが響き、今度は床に倒れこむ。
「あら、選真教に選ばれた人間とは、この程度ですの? あぁ、地べたに這いつくばうのがお似合いの方を選ぶのがお上手な方なのですね。くすくす」
佐江は笑みを浮かべているが、その眼は一切笑っておらず、まるでゴミくずを見るかのような、冷ややかな目を向けていた。
「バカに…」
ゴン!
しゃべろうとした瞬間、直ぐに打撃音が響き天井近くまで跳ね上がり、そのまま重力に従い落下し床に叩きつけられ、衝撃でむせ返りながら夏江は恐怖を感じ始めていた。三度の打撃。それは間違いないが、その過程を自分が一切認識できていない。速さなどというものではない、得体のしれないなにかに襲われている。それは認識は何とかできるが、正体が分からないことが、余計に恐怖を駆り立てる。
「あなたに喋る権利などはございませんよ。わたくしは、貴女を否定いたします」
怒り――
心の底より沸き立つそれを、理性で制御しながらも、佐江は、目の前にいる存在を許す気は、微塵もなかった。
夏江は、反撃にでる。普段は隠しているが、《格闘》スキルを習得しており、屋内でならと思い、右フック放った次の瞬間、右腕の骨が、鎖骨、上腕骨、前腕骨が砕け、痛みでうずくまる。
「あらあら、ですが、ほらもう痛くないですよね? さぁ、次はどうします?」
「〈エアークロー・スラッシュ〉」
風で作り出した爪を振るうが、それが佐江に届くことはなく、風の爪は霧散する。
「ところで先ほど、このような物を拾ったのですが」
「そ、それは、か、返して!」
佐江が見せたのは変わった形のペンダント。くすりと佐江は笑うと鉄扇で粉砕する。
「あぁぁぁぁ」
嘆き悲しみながら夏江はへたり込むと、笑みを浮かべながら佐江は歩みを進める。
「さぁ、そろそろ終わらせてあげます」
動揺し、怯えながら後ろに下がろうとするが、背後にあるのは壁。逃げ場となる場所はどこにもない。
「円武・月下美陣」
流れるように滑らかな動きから繰り出される鉄扇による連打。
「あなたが、どのような過去があろうとも、無関係の人を巻き込み傷つけた罪は否定できません。その痛みを抱えて反省することですね」
そう言い放ち電話をかけるのであった。
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