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潮風薫るこの地にて  作者: 松田 業平
第一章 島の学校
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第7話 決意

こんな、のどかな図書室で相談された内容が男性恐怖症についてとは絶対に間違っている。

保健室かスクールカウンセラーの方のほうに出直してもらいたい。

「理由は聞いた、でもそれを踏まえても俺に相談するのは間違ってる。同性のやつとかないのか?」

「まだ初めて会ったばっかりで友達もいないし、汐見君なら一緒に学級委員をするのだから相談する機会が多いと思って」

「流石にそれは安直すぎるだろ」

断る理由はないがあまり他人の問題に首を突っ込みたくはない、はっきり言って面倒だった。

「その話はちょっと俺じゃあ難しい、悪いが他を当たってくれ」

昼休みの終わりを告げる予鈴が鳴った、それを合図に図書室から生徒が立ち去っていく。

「先に教室戻る、授業遅れないようにな」

借りた本を手に席を立って図書室の入口へと向かう。

「そうするわ」

黒崎も着いてきて、なし崩しに教室まで一緒に戻ることになった。


自分の席に着いてからも後ろに黒崎が居るため、落ち着かない。

休み時間になると、女子の取り巻きが出来て椅子をちょっと前に出そうか悩んでしまう。

早く席替えをしたいと切に願った、今の俺には教室に安住の地が欲しい。


一日の授業が終わり、HRが終わった後の教室には早速今日から部活動をする生徒や、まだ決めかねていて見学する者は早々に教室を出ている。

まだ残っているのは仲の良い友達と駄弁っている女子くらいなものだ。

本来は今週に入部希望を取り、本格的に始まるのは来週からだがその決まりは緩くもう既に部員として扱っている部活もある。

俺が希望している陸上部もそういう所だが生憎今日は練習着がないため参加はしない、今週はその予定もない。

取り敢えず帰り支度をして教室を出ていく、バスの時間はまだだったはずだがその時間は本でも読んで潰そう。

バス停は今日も相変わらずガラガラで、どこでも座り放題だが隅っこの方に座る。

周りが静かになると何故か昼休みのことが思い出された、少し冷たかっただろうが俺みたいなやつに自身のトラウマをどうにかしてくれと話すものでは無い。

自分だって、そもそも人と話すことが苦手である。

それに昔のトラウマもあって自分自身女子から距離を置くようにしている。

彼女ならそう遅くないうちに同じクラスの女子と仲良くなり友達も増えていくことだろう、その内信頼出来る親友が出来ればそっちに相談すればいいだけの話だ。

逆に俺みたいなやつと親しくしてると変に浮いたりしてあまり宜しくない、俺だってそんな事は御免こうむる。

だから別に俺の判断は間違っていないはずだ。

そうこう考えているとバスが到着した、そう言えば昨日は黒崎も一緒だったなとふと思ったがなんか用事があるんだろうと思い直した。


朝起きて、今日は親もゆっくりと仕事に向かうらしいので俺もしっかりと二度寝することにした。

昨日は早い時間のバスだったため人はあまりいなかったが、今日は少しばかり混んでいた。

人の流れに沿うように橄欖通りを抜け、もう花が散ってしまった桜の木の下を通り玄関で靴を履き変える。

階段を上り自分の教室の前まで来たが、中の様子がちょっとおかしい。

入ってみると俺の席の後ろ、つまり黒崎の席に人だかりが出来ていた。

女子の取り巻きだろう、問題はあれのせいで俺の席に座りづらくなっていることだ。

しかし朝の読書の時間を告げる予鈴がなったことで、女子達が元の席に戻って行ったため何とか座れるようになった。

この調子なら直ぐに相談相手も見つかるだろうと内心ほっとしていたが、それが何故なのか自分でもよく分からなかった。

朝の読書が終わりHRの時間、先生が入ってきて学級委員の俺が号令をかける。

だが、いつもはにこやかで優しい先生が少し不安そうな顔をしていた。

「おはようございます、まだ学校に慣れてないかもしれんけどこれから徐々にやっていけばいいからな?黒崎さんは昨日倒れたって聞いたとやけどもう平気か?」

先生の発言を聞いて唖然とした、あまりに突然だったのもあるが話の内容が日常では聞かないものだったからだ。

「はい、ちょっと疲れてたみたいで。もう平気です」

その声音からは言葉とは裏腹に元気がないように思えた。

「まあ島に来たばっかりやけんねさっきも行ったけどゆっくりでよかけんな、みんなもフォローしてやって」

それから簡単な連絡をして、黒崎の号令でHRは終わった。

その直後再び黒崎の席に女子達が群がっていく、すぐ後ろなので話し声は全部聞こえた。

「黒崎さん大丈夫?」

「昨日、倒れた時陸上部の先輩に勧誘されてたって聞いたけど」

「男子の先輩だったんでしょ?何か変なことでもされたんじゃない?」

「いいえ、違うわ本当に最近ちょっと疲れてただけ」

「それならいいんだけど…」

「何かあったら遠慮なく相談してね?」

「ありがとう、みんな」

話を聞く限り、やはり例の男性恐怖症が原因だろう。

それを聞くと俺と会話をしていたあの黒崎が何かの勘違いではないかと思えてしまう。

恐らくその陸上部の先輩も普通に勧誘をしていただけなんだろうがそれで、倒れてしまうというのは予想していたよりもかなり深刻なところまで来ているということに他ならない。

それを聞いた俺の心には驚きの他にも自覚のない悔しさと自分への憤りを感じていた。

あの時に黒崎のことを考えたつもりでいたが、結局の所は自分に降りかかる面倒事を避けていただけに過ぎない。

あの時に断ってしまったことで黒崎の心を傷つけてしまい、結果的に大変な事になってしまったのではないかと考えてしまう。

黒崎に優しいと言われて否定したが、やはり俺は優しい人間などでは決してない。

それどころか、他人に期待せず己のことだけを考えて周りの人間から距離を取ったような俺は自己中心的で利己的な人間なんだろう。

はっきり言って最低だ、あと少しもすれば社会人になる者としては不適合と見なされる。

そしてあの時相談を断ったのは面倒だった他にも理由がある。

自分の弱さを自覚した上で俺みたいなやつに相談をするほどに、必死に足掻いてる黒崎を見てその姿がとても眩しく見えたからだ。

俺みたいな諦めてダラダラとしているやつからしたら羨望と同じくらい嫉妬するものだ、だから俺は協力しなかった。

そんな自分が無性に腹立たしい、いつまで経っても過去のしがらみに捕われて子供のままな自分が。

だから俺もこのままではいけないと思った、変わらなければならないと。




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