第5話 我が家
その後ちょうど来たバスに二人は乗り込みしばらくしない間に目的地のバスターミナルに着く。
俺の家はここから歩いて数分のアパートに住んでいる、そのため割と家を出るのが遅めに出来る。
黒崎は恐らくここからまた乗り換えて自宅に帰るのだろう。
一緒のタイミングでバスを降りて今度こそ別れの挨拶をして俺は家に帰った。
家に着いたのは五時前で夕飯まではまだしばらく時間がある、風呂はまだ沸いてないから自分のベットでライトノベルの新刊を読むことにした。
まだ着慣れない制服を脱ぎ部屋着に着替える、それと小腹がすいたので台所に行ってみる。
母親がいつも買い置きしてくれているお菓子があるはずだ、それを食べつつ本を読むことにした。
台所ではいつもの様に母親がご飯を作っていた、今日のご飯は肉野菜炒めっぽい。
やった、美味しいやつ。
冷蔵庫の下の方に置いてある菓子パンを手に取り片手に本を持ってテレビがある部屋の俺の定位置に座る、我が家はまだまだ四月でもコタツをなおしていない。
「そう言えば、晶?」
「んー?何」
「黒崎さんって知っとる?最近島に来たらしいけど、その子のお母さんが同級生やったんよ」
「えっ?まじか、うちのクラスにいるよ」
「へぇ、そうなん?なんか離婚してこっちに来たらしいって」
「…ふーん。そうなんか」
まさか、そんなことがあったとは。
しかも本人の知らないところで凄いことを聞いてしまった。
離婚なら理由としては十分にありえる話だった、そういうことなら離島に来たのにも腑に落ちる。
「仲良くしてやってね」
「まあ、うん」
そこで会話は途切れ、俺は本の世界に入り込んでいった。
七時前になると中学生の弟と姉が部活から帰ってきて、すこし遅れて父親が仕事から帰ってくる。
肉野菜炒めに焼肉のタレをぶっかけほかほかのご飯をおかずの二倍くらい食べつつ明日の天気予報を見る、明日は快晴らしい。
「そう言えば、晶今日部活見に来てた?」
「うん、ちょっとだけね。」
俺の位置から反対側の姉から話しかけられる、我が家のテーブルの席はテレビのある方角から時計回りに姉、母、父、弟、俺という順番になっている。
姉の位置はテレビが一番見やすい所でちょっと羨ましく、反対側の俺の位置は父親がテレビを見るのに邪魔になりやすくいつも怒られている。
それはいいとして、いつもはほぼ無言な姉が話しかけてくるとは天気予報では晴れだが明日は雨が降るかもしれない。
「隣にいた女子は誰?晶もう彼女作ったの?」
思わぬ質問にかき込んでいたご飯を喉に引っ掛けてしまった、急いでお茶で流し込む。
「入学初日で彼女出来るわけないやろ、びっくりしたわ」
「ワンチャンあるんじゃないかと思ったw」
「ないない」
残りを全部食べ終え食器を台所に持っていく。
「それって黒崎さんの娘さんやね」
「ふーん、なんか陸部で美少女の隣にいるの奈々の弟じゃない?って騒いでた」
その話を小耳に挟みつつ、風呂場へと向かう。
風呂に入ってゆっくりしていると、さっきの話から黒崎のことを考えてしまう。
「黒崎 薫ねぇ。どういう子なんだろうか」
始めて二人で会話した時とバスが来る直前に話した時とでは全く雰囲気が違っていた、バス停での出来事から彼女の中で俺の印象がガラリと変わったからだろうか。
ただ、何故あんな些細なことで変わったのかが分からない。
小中で積極的に人との関わりを絶っていた俺からしたら経験値が無さすぎるため考えても結論は出ない、誰か教えてくれ。
あまり長湯をせずに風呂場からでる、居間では夜のバラエティをやっていて風呂から上がった俺と入れ替わりで姉が風呂に行く。
自分のベットに入り、枕元に充電ケーブルが刺さったままにしてある携帯ゲーム機を起動する。
昨日やりっぱなしにしていたギャルゲーがキャラルートの最後の方まで進んだ状態で止まっていた、こうなると個別のセーブしてあるルートの初めからやり直さなければいけない。
「まじかー、どこまでやったかな。」
これまで数々の女(二次元)を落としてきた俺だが、それでもやはり女心というものはさっぱり分からない。
それから歯を磨いて、家族におやすみと言って自分のベットでギャルゲーを再開する。
朝起きて、母親が用意したご飯を食べる。
ちなみに姉はもう食べ始めておりそろそろ食事を終えそうだ。
父親は寝ていて、弟もまだ起きてこない。
朝はそんなに食べる方じゃなく、少しのおかずと茶碗一杯だけで済ませる。
最近は茶漬けや卵かけご飯などでするするといけるものが俺の定番となっていてわずか数分で完食した。
今は6時半前、昨日は8時頃のバスで行ったのでまだ時間がある。
その時間は二度寝だ、しかし。
「今日お母さんもお父さんも早く出るから晶も二度寝せんで早う学校いかんね」
「えー…まじ?」
昨日は遅くまでギャルゲーをしていたのでまだ眠い。
確か最後までルートを消費して朝方まで起きていたはず。
眠気を我慢して支度をする、しかし。
「バスってこの時間帯いつでるかわからん」
正直、バス通はまだ始めたばかりなので1本しか知らない。そうこうしてるあいだに姉が玄関から出ていった。
こうなったら仕方ない姉と一緒に行けば確実だ、いそいで姉の後を追う。
早く学校について何をしようか考えていた。
結局今朝は7時頃のバスに乗っていった。
朝の読書後ホームルーム、時間は8時半ちょっとすぎるくらい。
そのためあと1時間くらい余裕がある、姉は朝練があるそうだ。
自分の席に着く。
突っ伏して寝るか、持ってきた本を読むか迷っているとドアを開く音が聞こえた。
「あら、汐見君。おはよう。」