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潮風薫るこの地にて  作者: 松田 業平
第一章 島の学校
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第4話 バス停にて

この橄欖通りは道が狭く横は二人分くらいの幅しかない、そのため向かいに人がいると割と接近してしまうのだ。

歩いているとどんどんグラウンドを恐らく陸上部を見ている黒崎さんに近づいていく。

顔の細部がハッキリと見えるくらいになると流石に気づいたのかこちらに顔を向けた。

しかし少しビックリされるとは思ったが、顔色が驚きとは違うもので怯えている感じがした。

「陸上部に興味があるの?」

「えっ?ええ、あのハードルを飛んでる女の人が格好いいなって思って」

「ん?…ああ。あれ俺の姉ちゃん」

うちの姉、汐見 奈々は一個上で成績優秀、運動神経抜群、優等生と三拍子揃った完璧少女で陸上部でも二年生ながら頭角を表しているらしい、出場種目のハードルでは上位大会は確実と言われるほどだ。

「汐見君のお姉さんなの?格好良い人ね」

「まあ、ていうか名前もう覚えたの?」

「これから一緒に学級委員をする人くらいは覚えるわよ?それに後ろから貴方の椅子に貼ってる名前シールが見えるもの」

「まあ、確かに」

話をして思ったのがさっきの動揺はやはり勘違いではなく、取り繕っているがさっきから俺と目を合わせないようにしている。

まあ初対面の男子に対しての反応なんてこんなもんなのだと納得することにした。

「それじゃおつかれ」

「ええ、さようなら」

一応別れの挨拶をして会話を切りあげる、黒崎の方はまだ陸上部の我が姉の姿を眺めていた。


帰りのバス停は部活動の見学があるからか誰も居らず座るところはガラガラだったが一番隅っこに座った、横の壁にもたれつつ一息つく。

先程バスの時間を確認したが、どうやら一本逃したようであと数十分くらい待つしかない。

家から学校までは歩いて行けない程遠くはないが途中で峠を越えて行かないといけないためちょっと疲れる、バス通にしたのはそのためだ。

バスを待つ時間があれば歩いて帰った方が速いがどうしようかと悩んでいると、バス停の方に歩いてくる人影が見えた。

黒崎だった、見学を終えて帰るためだろう。

黒崎も俺を見つけて視線があった、がすぐにそらされてしまった。

待合所の中に入り真ん中の方に座り、それからしばらく沈黙。

…気まずい、先程別れの挨拶をした相手にその直後に再会してしまったからか。

「…なあ、黒崎さん」

「…なにかしら?」

この空気を紛らわそうと話しかけてみるも対する黒崎と言えばやはりおかしい、人見知りとかそういう類ではなくやはり怯えているというのがしっくりくる。

「気になってたんだ、なんでわざわざこんな離島の高校に進学してきたのか」

東京から島までは新幹線か飛行機に乗ってそれから船を使ってまでしないといけない。

それに都内にも進学する高校はいくらでもあったはず、うちの高校は小さい島の学校でレベルでいえばあまり高い方ではない。

都会の方が設備や教育方法もより良く、進路の幅も広いはず。

なぜそうまでして島の高校を選んだのか理由が分からなかった。

「それは…」

「…その、なんか難しい事情があるのか?」

「っ!?」

図星をつかれたようでかなり挙動がおかしくなっている、これは薮蛇だったようだ。

「それなら無理に聞かない方がよかったな、なんかすまん」

「いえ…そんな」

余計に重い空気になってしまい、話しかけたのを今更に後悔した。

中学生で極めた陰キャコミュ障がでしゃばるとこうなる、それを分かっていても今のところ治しようがない。

これ以上この場に残るのはキツそうだ、歩いて帰るのはだるいけど今日はしょうがなさそうだった。

帰路に着くために立ち上がる。

「…どうしたの?」

「歩いて帰るわ、そこまでの距離じゃないし。黒崎さんもこんな俺といると面倒臭いし疲れるでしょ?」

あまりにも卑屈すぎる台詞を吐いた自分が嫌になる、黒崎にも軽蔑されたと思った。

これから一緒に学級委員として頑張っていこうというのにこれでは本末転倒だ、本当にこんな自分が嫌になる。

「…んっ、ふふっ」

しかし黒崎は笑っていた、嘲笑とかじゃなくて普通に笑っていた。

その素のままの笑顔をみて素直に綺麗だな思ってしまう、なまじ顔が整ってる分余計に感じた。

「ごめんなさい、なんだかおかしくて」

ツボったのかお腹を抱えて笑うのを我慢している、そこまで面白いことしたっけ?

「だって、なんかフィクションで出るようなクサイ台詞だったから現実で聞く機会があるとは思わなくて」

「ああ、そういう事ね」

「ええそうなの、でもね、汐見君?」

「どうした?」

今度はちゃんと目を合わせて、こちらの心の奥底まで見ようとするような視線で話しかけてきた。

「汐見君、貴方そんなに優しいんだから自分にもっと自信を持った方がいいと思うわよ?」

先程の怯えたような顔色とは変わって、咲き誇る桜のような笑顔はとても魅力的だった。

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