第44話 結ばれた絆
目を開けるとそこは見慣れない天井だった、白い天井に鼻で感じる薬品の臭い。
体を起こそうとすると、腹部に鋭い痛みを感じてもだえる。
「晶、目を覚ましたのね。良かった。先生呼ばないと」
聞こえてきたのは母親の声、なんとか周囲を見渡すとここはベットの上で病院だった。
ナースコールですぐに白衣の先生と看護師が来て俺の様子を確認してきた、色々してくる質問に答えながら自分がなんでこうなったのかを思い出す。
ナイフで腹を刺されて、けどなんとか立ち上がってあの野郎を・・・。
「薫!薫は?」
「落ち着いて、君は今は安静にしてないとだめだよ」
「おかあさん、薫はどうなったんだ。俺は気を失って。あの野郎は」
気が動転して上手く言葉が出ない、でも俺はあいつにとどめを刺せなかった。
薫に止められてそれからはどうなった、薫は無事なのか。
「晶君!」
勢いよく開かれたドアからは、薫の声がした。
俺の姿を見るや飛び込んでくる勢いで抱きしめてきた、その瞳には大粒の涙を溢れさせて。
「よかった、このまま…目を…覚まさないかと思って心配した。良かった本当に良かった」
「薫、おまえこそ大丈夫なのか」
「私は平気あのあと警察がきてくれたから、それよりも晶君が無事で安心した」
薫のその言葉を聞いて俺もやっと落ち着くことが出来た、そして冷静になると薫の色々な感触が伝わってくるのと同時に腹部が燃えるように痛んだ。
「いってぇぇ!薫痛い痛い!とりあえず離してくれ頼む」
「あっごめんさい、大丈夫じゃないわね」
「汐見が目を覚ましたって聞いたけど・・・、マジかよ」
「晶!良かった生きてて。・・・ふえぇえー本当に良かったー」
海もドアのところで泣き崩れてしまい収拾が着くまでにかなりの時間を要した、それからは色々違う検査を受けて他に異常はないか調べられた。
幸い結果は良く内蔵も無傷お腹の傷口もふさがるのはそこまで長くなくて夏休みが終わる前にはなんとか治るらしい、それまでは絶対安静だが。
だから薫達と落ち着いて話す事が出来るのにまた一日おかなければならなかった。
ドアのノックする音がした、おそらく薫だろう。
「どうぞ」
「失礼します、こんにちは具合はどう?」
「晶差し入れ持ってきたよお菓子食べられる?」
「痛み止め飲んでるからなんとかな、お菓子も平気。とりあえず座ってくれ聞きたいこともあるし」
椅子を二つ出してきてから並んでベットの近くで座る。
「わかったわ何が知りたい?」
「薫、本当になにもされなかったのか」
まずはそこだった、あの後警察は来たのだとはいえ間に合わなかったかもしれない。
それだけが気がかりだった。
「ええ、あのあとあの人も晶君も気を失ってから晶君のお母様となんとか晶君を助けようとしてたの。後で聞いてみればわかるわ」
「そうか、ならよかった。それじゃああいつはどうなったんだ」
「あの人は警察に逮捕されてから今は収容されているはずよ、なんでも身柄は後日本島の方に送られてそれから裁判が行われるらしいから」
「そっか、なら良いけど」
罪状としては、銃刀法違反、婦女暴行未遂、殺人未遂ってところか。
どれくらいの刑罰が下るか知らないけど、もう終身刑か無期懲役かにして欲しい。
死刑はどうだろ、よくわからないけども。
「まあ、晶が頑張ったおかげで薫ちゃんも無事だったてことだよ。本当に無茶して、心配したんだから」
「私も本当に怖かった、あの人に襲われるとって思うと今でも恐ろしい。でもそれ以上に晶君が死ぬかもしれないっておもったらもっと怖かった」
そうするともう二人は泣き出してしまって俺にはどうしようもなく、ナースコールしようか迷った。結局なんとか泣き止ませた二人と一緒にお菓子を食べつつ色々話をした。
「そういえば今日って何日だっけ」
「八月の二十日、晶ここに運び込まれてから二三日は目を覚まさなかったって聞いたよ。」
「マジか、まあこの様じゃあな」
まだ傷口はふさがっておらず、定期的に包帯の交換と化膿しないように消毒をされている状態だ。
「そういえば、新町のやつはどうした。一緒じゃないのか」
その質問はあれだったのか二人ともだまりこんでしまう、聞いてはいけない事だったのだろうか。
「それがね、晶。薫ちゃんトラウマが悪化して知り合いの新町君ですらもう一緒にいる事が出来なくなってるの」
「なんだって!」
まさかそんなことになっているとは、祭りの時は喋るくらいならまだ平気だったのにも関わらず今はこうして一緒にお見舞いが出来ないほどとは。
「でも、俺は平気なんだな」
「だって晶君は命の恩人だもの、そんな人を嫌いになるはずなんてない」
だとしてもこれでは俺相手に訓練したとしても全く意味がなくなってしまった、一からやり直すことも難しい。
これまでの俺たちの努力がすべて水の泡ということだ、やるせない。
「私はもうかえるけど、薫ちゃんは?」
「私はまだもうしばらく残ってるわ。母もまだ迎えに来ないから」
「わかった、それじゃ先に帰ってるね晶絶対に安静にしてるんだよ」
「わかったよ」
海が帰った後は薫と二人っきり、でも薫はというとさっきから何かを話そうとしても口をつぐむばかりでなかなか話そうとしない。
「薫、ちょっといいか」
「どうしたの?」
「もうちょっとこっち寄ってきてくれ」
「ええ、いいけれど。きゃっ」
なんとか腕の届く範囲に来た薫を抱きしめる、お腹の痛みはないから平気だった。
「薫、何か言いたいことがあるんだろ。俺は大丈夫だから話してくれよ」
「わかった、聞いてくれる?晶君」
「おう」
「私、もう晶君以外の男の人が怖くてたまらないの。あの新町君でさえもう目を合わせるのも恐ろしい。どうしても男性を前にするとあの人と重なってしまってらそれに最近はあのときの事を夢に見て眠れなくなってるの」
「そうか」
「でもねこうして晶君に抱きしめられてると凄く落ち着く」
「そうか」
そういいつつも薫は俺から離れていく、その顔には涙を浮かべていた。
「でもね、私はもう汚れているの。あの人に色んなところを触られた、あの画像を見たでしょ」
あの時見せられた、薫の画像は今でも脳裏に焼き付いてしまっている。
まだ中学生のころからあのような行為をされていたというのはとてもじゃないが、許せない事だ。
薫は、自分の体を抱きしめて震えている。
「こんな私なんて晶君のそばにいていい訳がない、こんな汚い私じゃあ晶君のそばにはいられない」
「薫はとても綺麗だよ」
「そんなことない私はそんな綺麗な体じゃないの」
「昔のことなんて関係ないよ、俺は今の薫しか見えないんだから。今見えてる薫は凄く綺麗だ」
「本当、こんな私でもいいの?」
「ああ、だって俺は今の薫が好きなんだから」
やっと伝えられた、春に出会ったときから気になっていた彼女に。
始めは尊敬と憧憬だった、でも次第にそれが恋心に変わっていくのにそう時間は掛からなかった。
「私も、私も晶君の事がすき。貴方の事が大好きなの」
好きな気持ちが通じ合うのがこんなにも胸を熱くさせるなんて思わなかった、薫の顔は真っ赤に染まっていて俺も同じようになっていることだろう。
「ねえ、晶君。お互いに好きってわかったのなら次はどうしたい?」
「ああ、薫。俺と恋人として付き合ってくれないか?」
「喜んで!」
結ばれた二人はその証としてお互いに何も言わずとも口づけを交わした。
以上で物語は完結となりました。
ここまで読んでくださって本当にありがとうございました、応援してくださって頂いている読者には感謝しかありません。
また新作を書いていくと思いますのでそちらの方も是非ご覧下さい。




