第37話 同じ気持ち
「ねえこれとかどうかな、可愛くない?」
「良いんじゃないかしら、明るい色は海さんらしくて」
「えへへ、そうかなちょっと試着してくるね」
「行ってらっしゃい」
今日は昨日の約束通り海さんと一緒に来週のお祭りに着ていく浴衣を買いに来ました。
正直島で浴衣が買えることにちょっと驚いたりもして、まだこの島のこと知らないんだなと感じている。
「どう、薫ちゃん似合う?」
「とっても素敵よ、これでお祭りに行ったら良い感じね」
「ありがとう、じゃあ次は薫ちゃんのを選ばないとね。やっぱり黒髪に合うように黒が良いかな」
「私も落ち着いた感じの方か好みだからそれがいいわね」
「それならこれとかどうかな」
それからは、自分の好きな浴衣を選んだり他にもある小物や雑貨も見て回ったりと女子高生の買い物らしい時間を過ごした。
「いやーいいのが見つかって良かったね、これでお祭りに行く準備も出来たし。これからどうしよっか」
「そうね、まだ時間はあるけれど」
「それなら喫茶店寄って休憩しようか」
「いいけれど、この近くに喫茶店ってあるの?」
「それがね、あるんだよ一軒だけだけど。私も行ったことないけど良い感じのお店らしいよ」
「そういうことなら行きましょうか、少し喉も乾いてきたもの」
「だよね、ここのところ暑いし。スイーツとかもあったら食べようかな」
案内された喫茶店は、他のお店より新しく綺麗な外観で雰囲気も良さそうだった。
店内は空調が効いており、熱くなった体に気持ちいい冷気を運んでくれている。
ちょうど二人用のテーブルに案内されてそこに座ることにした。
「涼しいー、生き返るね」
「本当に、でも母からは島にはあんまりこういう施設はないって聞いたけれど」
「うん、小さい頃は確かになかったけど最近増えてきてるよ。コンビニとかも出来てきたりとか、こういう喫茶店とかも」
「変わってきてるのね、これも時代の流れなのかしら」
「薫ちゃんも島に馴染んできたよね」
「そうね、でも案外住みやすいところだと思うわよ。この島は」
「うーん、そうなのかな。都会なら帰りにマックとかコンビニ寄ったりとか、休日には電車に乗って大きなデパートで買い物したりとか出来るじゃん」
「私はそういうことしたことないからあまりわからないのだけど、都会ってそういう良い面だけじゃないのよ。犯罪が近くで起きたり、人が多くて電車に乗るときは満員で億劫になるし、夜はバイクの音でうるさかったりするし」
「それは嫌だね、都会怖い」
「島の暮らしは慣れれば良いものだしね、充分なくらいよ」
「そっか、島に来て良かったんだね。後悔とかもなさそうだし」
「汐見君と同じ事をいうのね、海さん」
「晶と、そうなの。知らなかった」
それから、私はアイスコーヒーとバニラアイス。海さんはアイスカフェオレとプリンアラモードを頼んだ。
「そういえばさ、薫ちゃん晶のことはもう平気な感じなのかな」
「それは、どうなのかしら。確かに面と向かって会話も出来るし二人っきりでもどうもないけれど。まだなんていうか落ち着かない感じがするの」
他の陸上部の男子は未だにまともに会話をすることが出来ていない、青方先輩や昨日会った新町君ならまだ押さえられる。
でも彼だけは、汐見君だけは別だった。
誰よりも普通に接することが出来るし、もはや一緒にいて安心感すら抱いている。
「落ち着かないか、ねぇ。正直晶のことどう思うの。前にも聞いたけど嫌いって事ないんだから好きなのかな」
胸がどきっとした。
その好きという言葉に自分の感情が反応してしまう、途端に顔が熱くなった。
「それはその、海さんの言う通り嫌いではないけれど・・・。」
「そっか、そうなんだ」
「そういう海さんはどうなの?」
この前の遠征の時は詳しくは聞けてなかったから、今がそのタイミングなのかもしれない。
「私は、好きだよ晶のこと。腐れ縁とかじゃなくて、異性として好きなんだよ」
予想はしていた、海さんの気持ちを。
彼女はいつだって彼のそばにいた、言葉を交わして喧嘩をすることもあったけどでもその後は何も気にせず普通にしている。
「それで、薫ちゃんの気持ちはどうなの。はっきり聞かせて欲しいな」
「・・・、私も汐見君のこと好き。出会ったときからずっと気になってた、どこまでもまっすぐで真面目で優しい彼のこと。気づいたら彼を見ていて目が離せなかった」
「そっか、やっとわかったんだね自分の気持ちに」
「でも、海さんも汐見君のことが好きなんでしょう?それって・・・」
「まあ、ライバルになるよね私たち。でもね、それで薫ちゃんと今の関係を壊すような事は絶対ないよ」
「・・・。」
「今のまま皆友達な関係を続けるのも良いと思うけど、私はずっと待ってた。晶と一緒にいられる今の環境、中学生の時はまだお互い距離があったけど今は違う。それに晶高校生になってから変わってるの、物腰が柔らかくなって人当たりが良くなって前よりも笑うようになって」
私は知らない、その前の汐見君のことがわからない。
けれど海さんがどれほど彼の事を好きなのかは想像できてしまう、これほど彼のことを話す彼女はとても魅力的な恋する女の子に見えたからだ。
「そんな晶を見てもっと好きになったの、最近はこの気持ちが抑えきれなくなって会う度に胸がドキドキするの」
「私が落ち着かなかったりするのも同じ理由なのかしら、汐見君のことを想っているから」
「そうなんだよ、それにね晶が変わったのってさ。多分薫ちゃんと出会ったからだよ」
「そうだったのね、私も汐見君も同じように成長してるってことかしら」
「うんうん、だからこそ私はちゃんと自分の気持ちに気づいて欲しかったし。私の気持ちも知って欲しかったんだよ」
注文した飲み物とスイーツが来て、それを飲んでいったん落ち着く。
冷たいコーヒーは喉を潤し頭を冷やしてくれた。
「なんか、凄い話になっちゃったね。女子二人で同じ好きな人の話をするって」
「確かに、普通なら喧嘩してもおかしくないのにね」
こうして同じ気持ちを共有したことで私たちは今よりもずっと仲良くなれた気がした。




