第34話 波打ち際で
「もう、バスから降りた瞬間に走り出すからびっくりしたよ。それにめっちゃ速かったから追いつけなかったし」
「流石、陸上部に入っただけのことはあるな」
「ごめんなさい、バスから見えた海が凄いものだったから早く間近で見てみたくてつい」
「もう、急がなくても海は逃げないよ。でもそっかそう言ってもらえると連れてきたかいがあったよ」
黒崎がいるのに海がいなかったのはそういう理由だったらしい、おかげで黒崎におこられる羽目になった。
「で、なんで晶が薫ちゃんと一緒にいるの。もしかして誘ったの?」
「んなわけあるか、たまたまみかけたから声かけただけだよ」
「それを誘ってるって言うの、もしかしてナンパ?」
「ばっか、違うわ!」
海に来た理由がまさかナンパしに来たたとは、死んでも言えない、それを言ったら間違いなくこいつから白い目で見られる事だろう。
「なにそんなに必死になってんの、これだから男って言うのはそういうことしか頭にないわけ?」
「だから違うって言ってんだろ!」
「まあまあ二人とも喧嘩しないで、せっかく海に遊びに来たんだから。それにしても汐見君は一人?」
「まさか、陸部のやつと待ち合わせしてるよ。多分もうそろそろ来ると思うけど」
噂をすればなんとやら、こちらに向かってくる新町の姿が見えた。
こちらの様子を見るや興奮気味に走ってくる、やはり陸上部というべきか恐ろしい速さでやってきた。
「おう、汐見。待たせたと思ったらもうすでにナンパ成功してるじゃんか。やるな」
なんとも空気を読まない登場、なんとなくあの表情を見て察したがこうもストレートにぶっちゃけられるとは。
「やっぱり、そういうことじゃん。最低!」
「汐見君もやっぱりそういう人なの?」
「誤解だ、俺は新町が言うから仕方なく」
「何言ってんだ、彼女ほしいだろっていったら。うん、っていってたろうが」
「((じー・・・))」
「余計なこと言うなよ!」
「まあ、そんなことはおいといてせっかくだからこの四人で遊ぼうぜ」
「えー、どうしよう。薫ちゃん」
「えっと初対面の男の人と遊ぶとのはちょっと抵抗あるわね」
俺はまだともかく新町とはあまり相性が良くなさそうだ、さっきもあいつが来たときに少し距離を取っていた。
「新町、黒崎はなんていうか女子校出身だから男子っていうのに耐性がないんだよ」
「ん?でもお前とはちゃんとしてるじゃん、大丈夫だよ。俺は初めての子でも優しくするから」
「いや、お前その言い方は色々と誤解を受けるぞ?」
「お前こそなに言ってんだよ、一応始めまして。一年五組で同じ陸上部の新町一茶です。よろしくな黒崎さん」
「え、ええよろしく。新町君」
このあたりで握手を求めないあたり確かに気を遣っているらしい、黒崎の方も最近はこのように男子と対面で話ができるようにはなってきている。一緒に遊ぶのはハードルが高いかもしれないがそのあたりはこちらでフォローするしかない。
「まあいっか、せっかくだし一緒に遊んであげてもいいよ。男子二人とも感謝しなさい」
「なんでお前が偉そうなんだよ」
「まあまあ、元浜の言うとおりだぜ。それとも男二人寂しく遊びたいのか?」
「それは・・・ちょっとな」
「よっし決まりだ、じゃあ女子の方は準備が出来たら言ってくれ。それまでは待ってるからよ」
「了解、薫ちゃん着替えてこよう」
「でも、下に水着着てきてるけど?」
「男子の前で着替える訳にはいかないよ!ほら早く行こう」
慌てる黒崎を連れて海達は更衣室に入っていった。
若干女子の生着替えというのも見たかったものだが、それを言ったらそれこそ海に殺されかけないからおとなしくしていることにした。
それに。
「いやー、良かったな汐見」
「ずいぶん嬉しそうだな新町」
「当たり前だろ、海に着いたときには女子が待ってて一緒に遊べるんだぞ」
「お前的には確かに幸運だろうな」
「おいおいそれはお互い様だろ、黒崎は言わずもがな元浜も可愛い。そんな二人の水着姿を独占出来たんだぞ、俺のラッキーなんて大差ない」
そう、その通りなのだ。
黒崎も海もはっきりいってレベルの高い美少女達だ、プロポーションが良い黒崎は下手な女優よりも魅惑的な色気があるし。
海は田舎の健康優良少女という感じで黒崎ほどではないが昔よりも女性としての成長を感じる、俺的にも幼馴染み補正がかかって想像するだけでドキドキが止まらない。
「今や陸上部だけでなく学校の中でも注目されている女子二人とご一緒出来るチャンスなんてもう一生ないかもしれないぞ、これを楽しまないでどうする?」
「キャラじゃないけど激しく同意する」
「おう、その意気だぜ。この短い夏の高校生らしい思い出を作るんだ同士よ」
「不本意だけど今日はそのテンションに乗ってやるぜ同士よ」
ここに二人の熱く固い結束が生まれた、これも男としての性だ。
抗うことなど出来はしない、なんせ男だからだ。
「二人はなんの話しているの?」
そうして友情が芽生えているところに待ち望んでいた光景がやってきた。
「「おおー・・・」」
この瞬間、俺たちは目の前の二人を前にして立ち尽くすしかなかった。
生まれてこの方女子の水着姿など小学生以来に見ていない、それほど経験のない俺からしても二人の姿は目が離せないほどで。
黒崎は黒を基調としたビキニ、制服からでもわかるくらいのその大きな胸はグラビア雑誌の女優のように色っぽい。
しかも綺麗な黒髪とも相まってとても大人っぽい女性としか思えない。
海はというと黒崎とは正反対にオレンジ色で明るい印象、黒崎と比べると見劣りするかもしれないがそれでも小さいというわけでもない。
しかしそれよりも目を引くのはその下半身だ、昔から運動が出来る方で小学生の時は同じ陸上クラブだったし中学でも運動部に入っていたためなんとも言えない肉付きのいいお尻と太ももをしている。
普段の二人からして考えられないほど魅力的な姿にもうなにも言えずにただただ目に焼きつけんとしていた。
「こら二人ともガン見しすぎ、晶、鼻の下伸びすぎきもいよ。こっち見んな」
「なんでだよ」
「二人ともめっちゃ似合ってんじゃん、可愛いよ。マジで」
「でしょう、薫ちゃんの水着は私が選んだよ」
「海さん、この水着は少し布の面積が狭くないかしら。ものすごく恥ずかしいのだけど」
「何言ってんの、薫ちゃんおっぱい大きいんだからそれをアピールしないとね」
「ううぅ・・・」
「うっしそれじゃ早速海に入ろうぜ」
「うん、もう暑くてたまんないもん。おーりゃーー!」
「おう、元浜も良い感じに元気だなおっしゃ俺も行くぜ!」
そうして二人は勢いよく波打ち際まで走っていってしまった。
「二人ともはしゃぎすぎだろ・・・」
「そうね。・・・ねえ汐見君」
「どうした?」
なんか顔を赤くしてもじもじしながら俺を見てなにか様子を伺っているが、それを見ているこっちも恥ずかしい。
「その、海さんに選んでもらったこの水着なのだけど。変じゃないかしら?」
「ああ、そういうことか。えっとそのなんだ、似合ってると思うぞ」
「ありがとう・・・」
さっきの新町みたいにストレートに褒められないのが悲しいかな長年ぼっちの弊害だ、でも黒崎の方もまんざらでもなさそうなので少しほっとしている。
「おーい、二人ともどうした?早く来いよ冷たくて気持ちいいぞ」
「薫ちゃん、一緒に泳ごうよ!」
なんだか変な感じになったが二人に呼ばれたおかげで俺も調子を取り戻してきた、せっかく海にきたんだから遊ばなきゃもったいない。
「ほら、黒崎二人が待ってるし。行こうぜ」
「ええ、そうね私もあの海で泳いでみたいし」
その時に手の一つでも握って連れて行ければと思ったが、そんな勇気も度胸もない。
ただ本当に嬉しそうな黒崎のまぶしい笑顔を見て俺ももうこれ以上なにも考えずに楽しむことにした。




