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潮風薫るこの地にて  作者: 松田 業平
第二章 日常
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第27話 交錯する想い

買い物からの帰り道、汐見君の言葉について考えていた。

「でも俺は別に気になる人いるから」

小学生の時の好きな人である海さんとは別の汐見君の気になる人、その言葉が本当なのか確かめる術はない。

でも、それでもこの落ち着かない気持ちはなんなのだろう。

汐見君の気になる人、これまでの彼の周囲の人間関係をすべて把握している訳ではない。

でも可能性として今考えられるとしたら。

「私・・・?」

そんなことあり得ない、出会ってからまだ間もないのに。

ただ疑問のほかにも今の自分の中にある気持ちに驚いていた、それは安心と嬉しいという思いだった。

すべては自分の思い込みや妄想なのかもしれない、でも本当にそうだとしたら、そう考えるだけでこみ上げてくる気持ちに胸が熱くなってくる。

これまで誰かに好かれる事も、誰かを好きになることなんてなかった。

初恋の経験もなく、中学時代は女子校で恋愛をする相手なんていなかった。

だからこの知らない思いに戸惑った。

宿に着いて汐見君とぎこちない挨拶をしてから別れ部屋に戻る、そこにはもうすでに海さんが仕事を終えて帰ってきていた。

「あれ?薫ちゃんどうしたの、部屋にいなかったからちょっと心配だったんだよ?」

「少し買い物に行ってたの、海さんと一緒に食べようかと思ってね」

買い物袋を見せて海さんに手渡す。

「わあ、ありがとう!あっ後でお金渡すね」

「別にかまわないわ、そんなに高い物でもないし」

「いやいやそんなわけにはいかないよ、あとではらうから。ね!」

「わかったわ、そうしましょう」

あまりの勢いの負けて結局お金をもらってしまった。

「いやー、助かったよ。もう時間遅いからあきらめようかと思ってたからさ」

「そう思ってたのが当たったみたいで良かった」

「ありがとう、でも買い物はまさか一人で行ったの?夜に?」

そのことを話すのは少し恥ずかしかったが、心配させるのも悪いから素直に話すことにした。

「偶然見かけた汐見君と一緒に・・・」

「えっ、そうなの。晶と一緒に?」

「まあ、他に頼る人もいなかったから」

「でも二人きりで大丈夫だったの?あいつが変なことするとは思えないけど薫ちゃん男子苦手なんだし」

「他の人ならともかく汐見君はまだましよ、一緒に歩くくらいなら大丈夫だった。」

「そっか、そうなんだ」

海さんも驚いてしばらくお菓子と飲み物を無言で口に入れていた、何かを考え込むように。

「・・・、ねえ。薫ちゃんはさ晶のことどう思ってるの?」

あまりの直球過ぎる問いに思わずむせてしまい、慌てて詰まった物を流し込んだ。

「ごめんね、驚かせて。でもどうしても聞いておきたくて」

「正直、よくわからなくて。嫌いではないことだけは確かなの、でも好きかと言われるとなんだかもやもやするの」

この気持ちがどういう物かはっきりと断言することができない、海さんならば何か知っているのだろか。

「そうなんだ、その気持ち私わかるよ」

「わかるの?」

「うん、でもね薫ちゃんその気持ちって誰かに教えてもらってわかることじゃないと思う。素直になればちゃんと理解できるようになるよ。私より賢いんだから大丈夫」

「そうね、自分で考えてみることにする」

「うん、それじゃ片付けてもう寝ようか」

「ええ、そうしましょう」


周りの皆の寝息が聞こえてくる、スマホで時間を確認したらまだ十一時と言ったところ。

練習で疲れているからかすんなりと眠りに落ちている、そんななかでも私はしばらく眠れそうになかった。

予感はあった、薫ちゃんが晶のこと好きになること。

男性恐怖症の彼女にとって抵抗のない晶は特別な存在として見えているはず、気にならない訳がない。

それに学校で毎日同じ時間を共有しているから距離が縮まっていくことも自然なことだと思う。

でも予想外だったのは晶が彼女を少なからず意識していること、いやもう私の知らないうちに好きになっていてもおかしくはない。

さっきも夜に偶然とはいえ二人で買い物に行ってきたらしい。

それがとても気になっていた。

小学生の頃、晶に告白された時はただただ驚いた。保育園の時からのつきあいで知らない仲でもなく別に嫌いと言うわけではなかった、でもそのことがクラスの皆に知れ渡って悪目立ちするのが嫌だったからそれはもうひどく振った。

もう二度と私と関わらないでください、と。

それからだった、晶がクラスの皆からひどいことをされるようになったのは。

元々からそこまで自己主張の強いわけでもなかったからただただなにも言わずに受け入れていた、私も空気を読んで晶の敵になるしかなった。

でも小学校を卒業して中学生になってからは、晶は誰とも関わらなくなったせいか何事もなく一人で平凡に過ごしていた。

小学生の時からの生徒もクラスにはたくさんいたが時間が経つにつれて記憶も薄れていき、また新しい友達もできて誰にも関わらない晶のことなど誰も気にとめる事などなかった。

しかし、学校行事などクラスでまとまって行動するときは晶も参加せざるおえない。

こういうときは晶もクラスのために頑張っていた、根が真面目な分積極的に取り組んでいたものだ。

一番頼りにされたのが体育祭の時、体力テストでの実力で運動能力は島の中学校の中でとはいえトップクラスの晶は重要な立ち位置に抜擢され、見事にその大役を全うしてクラスに勝利をもたらした。

確か一年の頃はただ決められたことをこなしていただけだったが、二年の時にクラスの体育祭実行委員として頑張っていたこともあったらしい。

それに晶のいたクラスでは毎年勝っていたと思う、イベント事でなくても普段の授業ではたまに目立つしテストの成績も良かった。

そのせいで、一部の女子から隠れた人気を集めていたことは本人にはわからないことだ。

いつも休み時間は寝てるか静かに本を読んでいるかでいつも一人で過ごしいることからクールで孤高、顔もそこまで悪くない感じではあったからだろうと思う。

その頃からだろう、私が晶から目が離せなくなったのは。

最初は後悔して同情するように遠くから見ているしかなかったけれど、そうやっていつも気になっていくうちに彼の全部を見てきたつもりだ良いところも悪いところも。

でもそれを踏まえたとしても、優しくて真面目で頭も良いし運動もできてちょっとおとなしくて全然喋ろうともしないけど話しかければちゃんとしてくれるそんな魅力的な異性に見えてくる。

だから同じクラスになると嬉しかったし、違うクラスになっても彼の評判を聞く度に自分の事のように嬉しくなった。

高校も自然と同じところに行くことはわかっていたけど同じアッパークラスになるために必死に勉強した、そして今年同じクラス同じ部活に入れて本人の前ではつっけんどんな態度になってしまったが心の中では大興奮していてそれを隠すのが大変だった。

私はこれからの高校生活が幸せになるだろうと確信していた、薫ちゃんという存在が現れるまでは。

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