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潮風薫るこの地にて  作者: 松田 業平
第二章 日常
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第26話 本当の気持ち

本日の練習を終えて食事や風呂などを済ませ、部屋で少しくつろいでいるのだが。

昨日暴露した俺の黒歴史を知った部員達から同情のような哀れみのような視線を感じるようになった、目が合うとうなずかれたり励まされたりと嫌な思いはしていないがなんとも気まずい。

この空気に耐えられず気分転換に散歩がてら買い物に行くことにした。

財布を持って宿のロビーに向かう、近くにコンビニのイートインで時間を潰そうかとも考えたが考え直して少し離れたスーパーまでのんびりと歩いて行くことにした。

時計を見ると七時を回っていて、空ももう暗くなっていた。

今頃は大半の人が部屋で休んでいるだろうがロビーには見知った人影があった。

「あっ、えっとこんばんわ汐見君。こんな時間にどうしたの?」

「こんばんわ、それはお互い様だろ。俺はこれから買い物に行くけど」

「私もこれから明日の飲み物でも買おうかと・・・」

「そうか」

「ええ、そうなの」

会話が途切れてお互いに黙り込んでしまう、こういうときはいつも海がいたから話す事ができていたことに今更ながら気付いた。

異性が苦手な者同士だと同じ空間にいるというのはあまりよろしくない知らない仲じゃないとはいえこのところ彼女の様子もおかしいように思える。

練習中は俺のこと凄い見てくるしさっきも挙動がおかしかった。

初めて会った頃の怯えているような感じではなく、単におどおどしている。

「ねえ、それなら一緒に行かない?買い物」

「いいのか、暗いなかで男と二人で歩くっていうのは相当ハードル高いんじゃないのか?それに海はどうしたんだ、あいつと一緒に行けば良いのに」

「海さんは明日の準備でマネージャーの仕事があるらしくて、戻ってきたときに一緒に食べるものも買いに行こうと思ったのだけれど」

「・・・・・・そうか」

こういうときに気の利いた台詞の一つでも吐いて黒崎を連れて行ければいいのだが、そこまでの器用さはあいにく持ち合わせてはいない。

青方先輩みたいな容姿も気前も色男ならたやすくやってのけるのだろうか。

「わかったそこまで言うならしょうがない、一緒に行くか」

「ありがとう、ほらそれなら早くいきましょ」

こうしてスーパーまで黒崎に同行することになった。

街頭のおかげで空が暗くても道は明るい、でも歩いている時に二人きりで会話がないと気まずい。

こちらから話しかけるべきだろうがとっさに話題が思いつかない。

「ねえ汐見君」

「おう、どうした?」

会話を振られたがなかなか話そうとしない、よほど話しづらいことなのか。

俺はじっと黒崎の言葉を待つ。

「実は昨日海さんから聞いたの、汐見君と海さんの小学生の時のこと・・・」

「あー、そうかだからちょっと様子がおかしかったわけだ」

「ごめんなさい、気分を害したと思う。でもちゃんと話さないとと思って」

「そうか、でも黒崎がそんなに気に病むことない。昔のことだしな」

「そうなの?てっきり過去を掘り返されて嫌な思いをするのかと」

「まあ恥ずかしいけどそれだけだよ、で話はそれだけか?」

「いいえ、次が本題。聞かせて、海さんのこと今どう思ってるのか」

「えっ?」

とっさのことで思わず足を止めてしまう、そして前を歩いていた黒崎が振り返る。

「小学生の時好きだった海さんのこと、今ではどう思ってるの?」

どうしてそんなことを聞くのかわからなかった、黒崎には関係のないことだと拒否しようかと思った。

でも黒崎の真剣な顔を見るとなんだかそれは間違いなきがしてならない、それにさっき黒崎は正直に俺の過去について聞いたことを話してくれた。

それでは対等じゃない、ならば俺も答えるべきだろう。

「あいつのことはもうなんとも思ってないよ、中学からもう話すことなんてなかったし時間が経つにつれてその時の思いも薄れていったし」

正真正銘本心を言ったまで、これで黒崎が満足するかは知らないがこれ以上は俺からは話すことはない。

「それじゃあ、海さんが貴方のことを思ってるとしたら。その時はどうするの」

「それは有り得ない、聞いただろ俺は振られたんだよ」

「それは以前の話、それにもしもの話だから関係ないわ」

「なあ、どうしたんだよ」

「いいから、答えて」

近づいて問いかける黒崎の顔はどこか切なげで一瞬言葉に詰まってしまう。

「でも俺は別に気になる人がいるから」

「それって」

「ほら、早くしないと遅くなるぞ。あいつに何か買っていってやるんだろ?」

照れ隠しにせかしたが、全然隠せてなくものすごく恥ずかしかった。

急いで先を歩いてしまったが黒崎もちゃんと着いてきた。

「待って、わかったからちょっと待って」

それからスーパーで買い物をしたが、帰り道は恥ずかしくて一言も話さなかった。

黒崎も遠慮してか会話もなく早歩きしたため宿に着いたのは八時。

「そ、それじゃまた明日」

「お、おうお疲れ」

ぎこちない挨拶をして互いの部屋に戻った。


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