第24話 続·恋バナ
男子が思春期真っ盛りの男子高校生の恋バナで激しく盛り上がりを見せるなか、女子の方も姦しい話でおしゃべりを続けている。
「汐見君も良いけど私は、新町君の方がタイプかも」
「うーん、なかなかやんちゃでおらおらしてそうだけど?」
「私そういう人の方がいいかな、主導権を握られるってかんじで」
「そうかな私はクール系の汐見君かなやっぱり奈々先輩の弟だけあってスペック高いしね」
もはや、女子の話題は新町と晶の話で持ちきりとなりお菓子の消費と同じく止まる事がない。
「存外、人気者ね汐見君。私はまだあって間もないけれど」
「まあ確かに、昔から頭も良かったし運動もずば抜けてたから人気と言うより目立つやつだったよ。でもね・・・」
「でも?」
「ううんやっぱり何でもない」
「そう」
海が何か隠していることがあるのはなんとなくわかったが本当に知られたくない事なんだろうと察してなにも聞くまいと追求しないことにした。
「そういえば、そこの二人って昼の休憩の時に汐見弟君と仲良く話してたよね?」
「確かに、男どもが怖い顔して睨んでると思ったらその視線の先に三人がいてね」
そこの二人とは黒崎と元浜の事で、昼の時の休憩の時の三人というのは晶を含めてのことだろう。
「ええ!?仲良くっていってもあいつとはただの腐れ縁です。それに話っていってもね?薫ちゃん」
「確かに今日の練習のことを話してただけですし、軽い世間話でどうこういわれるのはちょっと」
「でもさ三人同じクラスでしかも部活も一緒なんでしょ?」
「元浜ちゃんは幼馴染みで、黒崎ちゃんもまだ転校してきたばっかりなのにもう汐見君とは意気投合してるみたいだしね」
詰め寄ってくる先輩達の目はもう完全にこちらをいじり倒したくてうずうずしいている感じだ。
こうなった女子を止めるのはまず不可能だろう。
「別に私とあいつは幼馴染みっていうような関係じゃないですよ。もう犬猿の仲って言うか」
「でも、普段の二人は良くお互いのこと知っていて言うほど険悪な感じでもなさそうだけれど?」
「いやいやないない、それよりも薫ちゃんの方が仲良いんじゃない?昼間の時も晶のことべた褒めだったじゃん。晶もまんざらでもなさそうだったし」
互いが互いに墓穴を掘る結果になりこの話もどんどん熱くなっていく。
「小さい頃からの可愛い幼馴染みと、突如として現れた美少女転校生かー」
「ストーリー的には転校生の方が有利か。」
「いやでも最近は古株が負けない展開も熱いんだよ」
話の内容からして言われもない話を展開されているようだが、二人もそうも言っている場合ではなかった。
「でも、海さん汐見君と話す時はお互いに呼び捨てでいつも自然におしゃべりしているじゃない。時々喧嘩もするけど、喧嘩するほど仲が良いって実は本当にそういうことなのよ」
「そんなことない、呼び捨てにしてるのはつきあいが長いからもう今更のことだし。っていうか晶結構薫ちゃんのこと気にしてるよ、あいつ昔から友達作るタイプじゃなくて人とあんまり関わらないやつだったのに薫ちゃんとはすぐに喋るくらいになってるから多分相当気が合うと思ってるよ」
二人はもうなんの話をしていたのかも忘れてどっちが晶と仲が良いのか語り合っている、脇目も振らずに声を大きくして喋っているため周囲の女子の耳にも入ってしまっている。
「ねえねえ、あの二人やばくない?」
「一人の男を巡って争ってる的な」
「いや話の内容からして相手方がいかにその異性と相性が良いかだから、譲り合っているというか押しつけ合っているというか」
「多分後者だなあれは」
「晶のやつも大変だな、姉としてはもうちょっと落ち着いて欲しかったんだけど」
「でも、自分に被害が及ばなくて安全圏から眺めるのも悪くないって思ってない?」
「いえいえ、今里先輩。そんなこと半分くらいしか思ってないですよ」
「半分はおもってるのかい、このお姉ちゃんは」
取り巻きの言葉も意に返さず、白熱する二人をそこにいる全員ぬるい目で見守ることにした。
「絶対に海さんの方が!」
「薫ちゃんほどじゃないよ!」
こうして、最近女子高校生の恋バナよろしく盛り上がりを見せている一方男子の方もまだ終わりそうになかった。
「汐見よー、昼間見てた分にはどっちも脈ありそうだが?」
「え?そんなわけないですよ」
男子に注目されている二人と距離感が近い俺は今、凄い崖っぷちに立たされている気分だ、お腹が痛い。
「元浜ちゃんは基本的に誰にでも優しいからな、あれは天然なのかもしいれん」
「対して黒崎の方はまだ慣れてないのか距離感がつかめないんだよな、なんか男子によそよそしいというか避けられていると言うか」
それはおそらく男性恐怖症のせいだろう、そこらへんもまだ改善しないといけない課題だ。
「そんな二人が、汐見には気を許してる感じなのはどうしてなんだろうね?」
「いや俺に聞かれても、二人は同じクラスですし」
「なあ同じクラスの女子で仲良いやついるか?」
「いいや、口をきいてる女子なんて俺にはいないが」
「だとよ汐見、そんなことはあり得ない」
よりいっそう回りの視線が鋭くなってきているのを見てなんとかしなければ、今夜俺はこの場で血祭りにされかねない。
なんとか弁解せねば、しかし俺一人が反論したところで誰も聞いてはくれないだろう。
「俺は正直言って中学の頃から、オタクやってて女子からは嫌われてましたよ?それになあ新町、俺が女子に好かれるようなやつに見えるか?」
ここで新町に助けをこうことにしてみた。
「いや俺そんなことは知らんけどもよ、お前周りの女子からはまあまあ気にされてるぞ?」
「えっ、まじ?」
「おう」
知らなかった、普段自分がどう見られているかなんて気にしたことなかったから。
昔から嫌われ者だったからそういうことを聞く時は大概悪口だったりしてたから、情報自体をみずから遮断しているようにしている。
その評価は大変嬉しいものなんだが今は喜んでいる場合ではない、火に油を自分で注いだこの状況はまずい。
「ほほう、人気者だな汐見きゅん。新町もイケメンだからそうなのかと思ったがお前の方が罪深い!」
「知らない顔して二人の女子とお近づきになっているとはなー」
「陸上部の風紀を守らねば」
やばい、血祭りが現実のものになってしまう。
こうなれば言うしかあるまい、自分の身は惜しい。
「先輩方待ってください、すべては誤解です。自分の体は潔白なんです」
「何を往生際の悪い言い訳をしているんだ、とっとと覚悟を決めろ!」
「待って、まず第一に黒崎は男子が苦手なんです。部長が勧誘したときも黒崎は体調を崩して休んだこともあります、先輩方も知ってるでしょう?」
あえて凄く苦手ということで男性恐怖症というコンプレックスをうやむやにした、根本は変わってないが程度の問題だ。
「確かに、あれからまだ時間は経ってないしな」
「それに黒崎が前いたのは女子校なのもあって転校したばっかりなのに俺に対してそんな感情を覚えるのには無理があるでしょう」
「む、そうかもしれないな」
「じゃあ、元浜のことはどうなんだ。聞けばお前ら幼馴染みらしいじゃないか」
「あいつとはもっとないですよ、だって・・・」
このことは絶対に言いたくなかった、俺の黒歴史だからだ。
でもここで痛い目に遭うよりは少し恥をかく方が良い。
「だってなんだいってみろ」
「俺は、小学生の時にあいつに告ってふられてるんですよ!?」
「「・・・・・・」」
あの先輩方が一瞬で沈黙するほどの説得力と引き替えに俺はなにかを失った気がする。
またそのころ女子の方でも動きがあったようだ。
「海さんは彼とのつきあいが長くて、気が置けない仲でしょうに」
「長ければいいってものでもないよ、仲良くなるのに時間なんて関係ない」
もう長い時間話が続いていて聞いていた周りの女子も興味がなくなった者から元の話に戻ったりもう寝る準備を始めたりしている、今話を聞いているのは関係のある奈々や今里先輩と数名と言ったところ。
それも時間の問題だろう、現にもうすぐ消灯の時間だ。
今里もそれで止めるタイミングを狙っている。
「私はまだ男の人との接し方がうまくできないから彼ともうまく話せないのよ、海さんは誰とでも肩肘張らずにいられるから汐見君だって貴女のこと良く思ってるはずよ」
これは終わらなそうだと、判断してもうそろそろ止めようかと今里は奈々に目配せする。
長年のつきあいからか奈々も察して、うなずいた。
「二人ともそれまでにしてそろそろ・・・」
「そんなことあるはずないよ絶対に」
「えっ?」
海のただならぬ雰囲気にみんな沈黙してしまう、それほど彼女の顔は険しかった。
「だって、小学生の時に私あいつのことこっぴどくふったもん」




