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潮風薫るこの地にて  作者: 松田 業平
第二章 日常
22/46

第20話 練習の日々

起床は六時半、その後朝食を取ってから練習の準備をし八時半には出発となっている。

目的地には十時前に着くらしい、それから練習だ。

起きた直後と言うこともあり、バスに揺られて少し眠い。

到着したらグラウンドにいったん集合してから挨拶と号令をして、小浜先生から各種目ごとにメニューを通達される。

それに遠征中は日常的な練習とは違って一日掛けて行うため量も質も高い内容になってくる、相当体力を使うことになるだろう。

今日は天気が良く日差しも少しきつい、水筒を余分に持ってきてはいるが足りるかどうかわからないな。

「短距離集合!」

「「はいっ!」」

こうして遠征の二日目がスタートした。

午前中は軽いウォーミングアップをしたあとに、基本的なラダーやミニハードルをこなし広くて長いこの面積を活かして100メートルの流しを10本ほどこなした、午前中の最後には何本か全力で走りきり終了。

「だあー、やっと半日終わったわキッツ。なあ汐見」

「ああ、普段は半分くらいの距離でやってたからな。良い練習にはなるけど」

「お前結構マゾいな、そんなこと言えるなんてよ」

「なに言ってんだ、そんなわけないよ」

これだけでも島ではなかなかできない練習で思ったほど負荷がある、昼はこれ以上となるとやばい。

「なにへばってんだ、お前ら」

「青方先輩、お疲れ様です」

「うっす」

「昼からは筋トレとかも入ってくるからな、飯食ってしっかり休めよ。まだ合宿は始まったばっかりだからな」

そう言い残し他の部員にも同じように回って言っている。

「なんて爽やかな顔してるんだろうなあの先輩はよ、あんな練習しといて」

「それは元からああだからじゃないの」

「なんだそれ」

昼ご飯は皆に弁当が用意されてはいるが、大概の一年生は疲労で箸が進んでいない。

しかしながら先輩方はと言うとすでに完食しており仲良く談笑していたり横になって寝ている人もいれば、なんと自分で用意していたもう一つの弁当をもぐもぐと食べている投擲の選手とかもいた。

部長もおにぎりを食べている、隣には副部長がいてこれからの練習の打ち合わせでもしているのだろうか。

「薫ちゃん、お疲れ。練習どう?」

「お疲れ様、もうかなり疲れているわね。足だけじゃなくて全身が筋肉痛になりそうで」

「うわあ、大変そうだね。マネージャーの皆で水分とか用意してあるから足りなくなったらテントに取りに来てね、体調悪いときも遠慮しないで近くの先輩とかに一声かけてテントまで来てね」

「わかったわ、ありがとう海さん。結構マネージャーとして身についてきてるんじゃないかしら?」

「えへへ、そんなまだまだだよ。薫ちゃんこそ色々と話聞くよいい運動神経してるって」

黒崎は元々高い運動能力を持っており、他の一年生の陸上経験者と比べても遜色ないほど。

未経験者の黒崎はその点から一目置かれている。

「まあ昔から良く運動はしてはいたのだけれど、でも陸上って奥深いって思ったわ」

「ふーん、そっか」

休憩が終わってから、予告通り初っ端から全員で筋トレをするのだが例外はなくマネージャーや顧問の先生三人も参加している。

体を支える体幹を鍛えるトレーニングは陸上競技の種目や他のスポーツに限らず何においても重要な事であるのでこうして一斉に効率よく行おうと言う魂胆だろう。

「えー、マネージャーもやるなんて聞いてないよー」

「まあ運動不足解消もかねてのことだと思ってやるしかないわね一緒に頑張りましょう」

「うん、頑張る・・・」

「体幹トレとか一番だるいやつじゃん、動かないでじっと耐えるだけとか超つまらんし」

「そうか?」

「でたよ、お前自分いじめんの好きすぎね?」

「単純に筋トレとかが好きなんだよ、そういう変な意味じゃなくて」

手のひら感覚で大きく広がり、前ではマイクスピーカーを持った小浜先生の指揮のもと筋トレが開始される。

「じゃあ二十秒の十セット行こうか!はい、用意スタート」

先生のかけ声で指示された姿勢になる、それを一定時間保ち続けるのがこのトレーニングである。

「いいか、動くなよ。お腹、つまり丹田に力を込めて体を維持するんやぞ」

たかだか二十秒とはいえ、同じ姿勢を意識して続けるというのは集中力もいるし何より体幹に直に負荷がかかる。

普段体幹を意識して使うことがあまりないためかセットを重ねていくごとに徐々に体をぷるぷるさせているものがちらほらと出てきている。

「姿勢を崩すなよ、一人でもおったら全員やり直すからな」

おそらくそれは本気でやるつもりだろう、時間的にもまだまだある。

これは長い戦いになるかもしれないなー。


十八回目。

ちなみにノルマ的にはあと二セットなのだが、マネージャー陣をはじめ、一年生を筆頭に先輩方ですら倒れる人も出てきてなかなか終わらない。

「ほらほら!頑張らないと今日の練習はまだあるんぞ?はい用意」

「くそっこういうのだと思ったぜ全く」

「まあそういうなって多分ある程度回数いったら流石に終わるって」

「だといいけどな」

そうやってお互い余裕を見せたのをちょうど通りかかった先生に見つかってしまった。

「おう、そこの二人喋っとって余裕そうやな」

「げっ、しまった」

まさに蛇に睨まれた蛙のように俺たちは微動だにできなくなってしまった。

笑顔で近寄られるといつもの二割増しで怖い、だいたいこういうときにされることは経験上察する。

「誰かと思えば汐見弟と新町か、これまでまだ倒れたところは見とらんな。やるやん二人とも」

褒められても今の状況でほあまり喜んでもいられない、そして俺の方に近づいてきて長い足でまたがられたと思いきや腰を落として体重を掛けてきた。

「ふぐっ!」

「おっ耐えるやん、流石奈々の弟。良い体幹しとるな、小学生の頃からやってたんやな」

「は、はいそうです。」

完全に体重が乗ってはいないとはいえ腕や足がぷるぷるしている、受け答えもまともにできない。

まわりからもその光景に歓声が上がる。

先生が俺に集中している間にも倒れた人はいるがこの間はカウントされていない。

その後新町にも食らわせられて二人の尊い犠牲のおかげでなんとか終了した。

「はい、終了。それじゃこれから十五分休憩取ってから練習再開するぞ。解散」

「「おう!」」

長い試練を乗り越えようやく休憩を勝ち取った皆はそれぞれの場所でくつろぎはじめた。

「ん?どこいくんだ」

「トイレだよ、さっきからずっと我慢してたんだ」

「なるほどな、いってら」

俺も水分補給でもしておこうかと思ったのだが、

「もうあとこんだけか・・・」

想定していたよりもきつい練習で水分もこまめに取っていたせいかもうほとんどない。

「自販機にでもいくかな・・・って冷た!」

いきなり首筋に冷感を感じてびっくりした、後ろを見ると犯人がしたり顔でこちらを見ている。

「ふふふ、いい気味ね晶」

「この野郎、黒崎も共犯とは珍しいな」

「ごめんなさい、海さんがどうしても止めてくれるなというものだから」

「お前、その顔は止めようとした人の顔じゃないぞ」

海が持っていたのは冷えたスポーツドリンクだった、マネージャー達で用意したものだろう。

「はいこれ、みんなそろそろ水分がなくなる頃だしね」

「だったら普通に渡せよ」

「そしたら面白くないじゃん」

「ったく」

「それにしても、さっきのは凄かったわね汐見君先生に乗られても耐えられるなんて」

「まあ、先生もちょっとは手加減してたけどな。最後の方は割とやばかったけど」

「ふふっ、やっぱりすごいわ。私も海さんも耐えきれなかったのに」

「そうだね、最後まで倒れてなかったのって他には部長と副部長とか奈々先輩みたいな凄い人しかいなかったもんね」

ちょっとした基本的な体幹トレーニングとはいえ実力は他の先輩方にも負けていないというのは素直に嬉しいし、自信にもなる。

「それで、俺への用事はそれだけか?」

二人は仲良しだから黒崎の付き添いで来ているのかもと思ったが、少し勘ぐってみた。

「察しが良いのもここまで来ると少し怖いけどもその通りで今夜せっかくだから今後の方針でも決めようかと思って。どうかしら?」

確かに、こうして顔を合わせる時間があるのを利用して話をするのは悪くない考えだとは思うが、しかし。

「それよりも今は陸上部の先輩達と仲良くなっていた方が良いんじゃないかと思うんだが?」

「良いじゃん、そっちの方はまだまだどうにでもなるし。薫ちゃんの事を早めに大まかなこと決めておいた方がよくない?」

海にしては凄いまともな発想で黒崎の方もびっくり半分関心半分と言ったところ、一応こいつもアッパーというのを忘れていた。

「まあそういうなら、別に良いけど」

「どうせ晶の事なんだから部屋にいても一人ぼっちなんだから良いじゃん」

「うっせ」

「それじゃ、今夜の七時半くらいにロビーでいいかしら?」

「ん、了解」

他の部員にも声を掛けていく二人を見送り、もらったスポドリを飲む。

「キンキンに冷えてやがるぜ」

ほんとはそこまでじゃないが雰囲気というものである。

「人はいない間に、美少女二人と仲良くお話とはなかなかやるなお前」

「げっ、新町見てたのかさっきの」

「俺だけじゃないぞ?」

新町の言葉通り、俺の周囲にいる男子部員全員が俺の方を見ていた、視線の中に悪意やら殺気やらとてつもないものを感じる。

「早速、部員のほとんどを敵に回すとはやばいなお前」

「なんてこった・・・」

この誤解をどうやって説くべきか、それに今夜の約束はどうしようかと頭を悩ませている間に練習は終わった。

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