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潮風薫るこの地にて  作者: 松田 業平
第二章 日常
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第18話 ライバル

海は加わってぐだった会議の後は普通に授業を受けている。

朝あんなことがあった海は宿題のことなどすっかり忘れており、担当の先生から説教を受けていた。

あいつは自分の抜け癖の方を心配した方がいいんじゃないのか?

午前、午後の授業も終わり放課後の部活の時間になった。

「薫ちゃん、一緒に行こう」

「え、ええ海さんやっぱりその呼び方恥ずかしいのだけれど」

「大丈夫、すぐに慣れるって。ほら行こう」

おずおずついて行く黒崎を連れた海は、周りの視線を集めながら教室を去っていった。

「・・・俺も行くか」

そそくさと陸上部の更衣室に向かう、人が多く混むのでさっさと行きたい。

小走りで急いだおかげで人は一人しかいなかった。

「おう、お前か。汐見」

「新町か、早いな」

新町一茶、電気科の一年生。

中学は違うが、島の陸上大会で同じ短距離走の選手として度々顔を合わせていた。

選手としては俺と同じくらいで、お互い決勝で競い合って勝ったり負けたり。

俺としては、少しライバルとして意識している。

「着替えたら、ラダーとミニハードル準備行こうぜ」

「わかった、ちょっと待って」

性格的には騒がしい方だが俺と話す時はそういうところはあまり見ない、他にも電気科の陸上部がいるがそいつらとはがやがやとしていた。

でも、ちゃんと話せばこっちの話を聞いてくれるし、あちらからも話しかけられる事も少なくない。

そういう人なら俺も普通に接することができるので扱いに困ることはない。

正直電気科の生徒は陽キャラで陰キャラが嫌いなタイプしかいないと思っていたので少し意外だった。

「そういやこの前の体力テストあっただろ、その時のタイムいくらだった」

その時というのは多分50メートル走のことだろう。

「うんとな、6秒6だったけど」

「うし、俺の方がテンイチ速い」

「なっ!マジかよ」

「部活引退してからもちょくちょくやってたからなー」

「まあ大した差じゃないけどな」

言い訳はしないでおくことにした。

「それと、今日って確かタイムトライアルがあるよな」

「昨日小浜先生が言ってたっけ」

「それならよ汐見、俺と勝負しろよ」

「別に良いけどさ、なんかあんの?」

中学の時に顔を合わせてはいるが、それだけのこと。

これから同じ部活のメンバーとして、少し気を遣ってくれたのだろうか。

「色々あるぜ、中学の時のリベンジとか単純に競いたいって言うのもあるしな」

「そういうことなら、お互い手加減抜きだな」

「上等だ、ぶち抜いてやるよ」

少し乱暴かとも思ったが、別に嫌な感じではなかった。

「どうせなら賭けるか、勝ったやつにジュース一本」

「乗った」

陸上部全員集まったところで始まりの号令、顧問から今日の連絡事項が伝えられる。

それから、各種目ごとにアップを開始。

終わり次第タイムトライアルの準備に入る、短距離組の順番がくるのは結構早い。

「次、短距離組準備しろよ」

「「はい!」」

部の短距離選手は男子だけでも十人いる、が走るのは一本のみそれに距離は50メートルなのでそこまで時間はかからない。

二人一組で順番に行くがそれも決まっておらず自由にというか適当に列に並んでいる、これなら直接勝負ができそうだ。

「おい、汐見。わかってんだろうな」

「もちろん」

隣にいる新町も準備万端そうだ。

「向こうでタイムを聞いたら名前を係の人にしっかりと教えてくださいね、記録に残しますので」

一通りの説明のあと続々と並んでいく、俺たち二人は半分くらいの番になった。

一番最初はというと部長だった、もう一人も三年生の先輩らしい。

「位置について、はい!」

クラウチングスタートから飛び出した二人はあっという間に加速していく、年長者というのもありその走りは全く無駄がない。

最高速に入る時の体を起こすときの姿勢もブレがなく綺麗な姿勢だ、それに短距離走はいかにして加速から自分の最高速に持って行くかが鍵になる。

その点あの二人は効率はが良い走り方だ、これも長い練習のたまものだろう。

「すげぇな、あれは5秒台くらいかしかも後半じゃないぞ」

「マジかよ、半端ねぇなうちの三年生。流石だな」

自分たちの番が回ってくる間にも他の先輩方の走りを見たが、誰も彼もが県大会で通用するレベルといっても過言ではないほどの実力だ。

「それじゃ次の組お願いしますね」

俺たちの順番が回ったきたようだ。

「汐見、約束覚えてるよな」

「もちろん、勝った方にジュース奢りだろ」

お互いに勝負に燃えつつスタートラインに立った、その瞬間に意識を集中させる。

深呼吸し、クラウチングの姿勢を確認。

あとは合図が出るまで走るときのイメージ、スタートしてからゴールまでの感覚をつかむ。

「位置について。」

腰を上げて加速するために足に力を溜める。

「はい!」

その瞬間溜めていた力を解放してただ前に進むために使う、俺のクラウチングはわざと歩幅を狭めて初動を速くするようにしている。

新町は一般的な形でのスタートだったためか、最初は俺の方が一足速かった。

しかし、新町の方が安定感が良く十分に加速しすぐに追いついてきた。

あとは最後までこの最高速を維持できるかが勝負、とおもったその時。

「晶!ラストスパート!」

「汐見君!頑張って」

他の陸上部の皆からの声が聞こえる中、二人の応援がしっかりと聞こえた。

それを聞いて本番でもないのにと変に思ってしまったが、そのおかげで奮い立った。

ゴール直前まで横並びのデットヒート、横を見なくてもすぐ隣に新町がいることがわかった。

「ふっ!」

「んなろっ!」

二人ほぼ同時に飛び込んだ、走った勢いを流し体を休める。

「汐見君、6秒3。新町君、6秒4」

どうやら俺の勝ちのようだ。

僅差とはいえ、数字の結果はついている。

「くっそマジかよ、俺テストの時よりもタイム上がってんのに。汐見お前手を抜いてたんじゃないよな?」

「そんなわけないよ、てかそこで嘘ついたところで勝負には直接は関係ないだろ」

新町にはそれから色々文句を言われつつも帰りにはちゃんとジュースを奢ってくれた、やはりこいつは見た目とは違って良いやつなのかもしれない。

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